63 再会 1
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。
アル:冒険者の少年戦士。
パーシー:スイデン国所属の少年騎士。
コーラル:スイデン国所属の青年騎士。
アリス:元魔王軍魔怪大隊長。
後日。クラゲ艦Cウォーオ-は樹海へ入った。
山が林立するその間を埋めるように広がる広大な森。端がどこにあるのか、山陰が多いせいもあってまるで見えない。
その木々の上を、クラゲ艦は浮遊してゆっくりと進む。
アルはいつでも出撃できるよう、格納庫で自分の機体の整備を手伝っていた。
だがそこへパーシーが駆け込んできた。何事かと驚くモヒカンエルフ作業員達の前で、彼は息を切らせて叫ぶ。
「アル! グリダさんが呼んでいますよ! どうして今まで黙っていたんです!」
「チッ‥‥」
苦い顔で、アルは露骨に舌打ちした。
――ブリッジにて――
アルが入るや、案内人のグリダが飛びついてきた。
「アルくん! この艦に乗っているなんて! 会いたかったよ!」
「やめろ! ひっつくな!」
必死に引き剥がすアル。
それを見ながらノブが溜息を一つ。
「腹違いの姉弟だったそうだな」
「なんだ? 血縁でデキてるパターンか? あいつのせいでここからジャンルが変わっちまうのか?」
ジルコニアが呆れた声をあげた。
胸だの他の所だのがぎゅうぎゅう当たるのも構わずアルを抱き締めるグリダを横目に。
ジャンルの好き嫌いはさておき、レイシェルがさらに付け加える。
「しかも王族だったそうですわね」
「なに!?」
驚くコーラル。
さらにリュウラが補足する。
「このヘイゴー連合の、ハイマウンテン国だって。国といっても首都と周囲の農村だけしかない小国だし、二人とも正妻の子ではなかったしで、家を出るのも好きにさせてもらえたみたい」
「お、王族‥‥」
愕然とするパーシー。
地方の小さな国とはいえ王の直系。貴族である二人よりも地位が上だったのだ。
一方、アルはグリダを引きはがして叫んだ。
「うるせー! 生まれて十年、ずっと外国の田舎村で暮らしてたのに、いきなりそんな事言われても貴族になんかなれっか!」
「だからって出て行っちゃうなんて‥‥お姉ちゃん、ホントに泣いちゃったわよ」
一転、涙ぐむグリダ。
「あ‥‥ごめん‥‥」
アルは勢いが失せて謝ってしまう。
なんだかんだで姉が嫌いなわけではないらしい。
そんなやりとりを前に、サイシュウは苛々と吐き捨てるように呟いた。
「チッ! ロクに反則能力も無いモブがベタつきやがって‥‥女の方もわかってねぇヤツだ」
彼は甘々といちゃくつ男女を見ると無関係でも敵意がわく、健全な野郎なのだ。
「お前さんに対して可愛い態度とる女がいたら正気じゃねーだろ」
ジルコニアが呆れると、サイシュウはますますメガネの奥の目を剥いた。
「んだと!? オレの強さに、助けられた村娘とへこまされた女騎士と興味をそそられた女学者|(教師風)と買われた獣耳奴隷娘でハーレムできてたんだぞ! せっかくだからここのクルーからも加えてやっていいと思ってんのによ!」
「だからその連中の正気を疑うつーか、奴隷買うのにお前の強さ関係あんのかつーか、その強さもどうせチートとやらで一方的に楽してただけだろつーか、加えてもらえてもお断り以外ないつーか、お前さんこの短い会話でおかしな所多すぎだろ」
ジルコニアは物凄く気持ち悪そうだった。宙をバックで飛んで距離をとっていた。
サイシュウがメガネの奥の目を怒りに燃やす。
「このクソ妖精が! ナマイキな女はシメるのが反則能力転生者の流儀だぜェ!」
流石に見ていられなくなったか、エリカがサブ座席から立ち上がって割り込む。
「おいおい、ウチのモンにおかしな事はしないでくれよ?」
「うるせー! だったらお前がオレのハーレムに来るのか? アアン?」
背の高いエリカを――特に胸を――下から見上げるように、サイシュウは食ってかかった。
エリカが顔を引きつらせる。
「えー‥‥私がか? ウソだろ」
「チチがでけぇから合格なんだよ!」
怒鳴るサイシュウ。口から唾が飛んでいた。
「あいつ喋らせてていいのか?」
ジルコニアがエンクとランに訊くが、二人とも露骨に目を逸らして聞こえないフリをしていた。
一方、エリカは前屈みになって頭の小さな角を指さす。
「半分オーガだから体格でかいだけだぞ。ほら角」
「知るか! そんなもんどうでもいいんだよ! 揉ませろ! オレの女になれ!」
ヤケクソで怒鳴るサイシュウ。
なおその視線が向く先は豊かな胸の谷間だ。角の方は本当にどうでもいいらしい。
正直なのは良い事だ。この場がそうなのか意見は分かれるかもしれないが。
ところがなんとした事か。
「私にそんな事言う奴がいるなんてなー‥‥」
エリカは目を逸らして、ちょっと困りながら指先で頬を掻いた。
頬がほんのり紅く染まる――照れと動揺はあるが、嫌がる素振りはなぜか無い。
嫌がる素振りはなぜか無い。無いのだ。
一瞬、ブリッジの時間が止まった。
そして皆がいっせいに騒ぎ出す。
「おいおいおいおいおい! エリカ、そんなチョロかったんか? 正気に戻れ!」
今までで一番焦って、ジルコニアが怒鳴りながらエリカの角を引っ張った。
「明らかに何かがおかしいです。邪悪な力に操られていると考えるべきです」
深刻な顔で焦るパーシー。
「すまんが、チイトとかいう能力を使うのをやめさせてもらえないか」
コーラルがカマセイル隊の他の二人へ真剣に頼んだ。
「ちょっとサイシュウ! 女の頭の中をいじるなんて! 恥を知りなさいよ!」
頼まれたランが怒鳴った。軽蔑と怒りが割と本気でその目に満ちていた。
「え? え? え? いや、オレは能力使ってねぇ‥‥」
一斉のお叱りに、戸惑いながらも弁明するサイシュウ。
「「「「「嘘つくな」」」」」
ブリッジにいる者の大半の意見が同時かつ完全に一致した。
サイシュウの能力とは全く違う状況なのだが。
不毛な騒ぎの中、ノブがエリカの背後に近寄る。
その手が後頭部に、ぎりぎり触れない距離で添えられ――青い煌めきが僅かに舞った。
途端、エリカの頬から紅みが消え、憑き物が落ちたように呟く。
「あれ? なんか、気持ちが落ち着いたぞ」
【セイン・マインド】――精神を鎮め、通常の状態に戻す回復魔法の一種。混乱や恐慌、魅了等を解除するのに使われる。
「んんん? もしかしてお前、凄まじく余計な事をしてくれたんじゃねぇのか」
サイシュウが言うと、ノブはメガネをくいくいと弄った。
「僕は地上最強の霊能者だ」
「なんでそれが返答なんだ?」
サイシュウは納得いかない様子だったが、状態が正常に戻ったのは良い事なのだ。
正常に戻った所で、皆がサイシュウに背を向けて離れる。
各自、モニターを覗いたり他の者と話したりし始め、さっきの騒動は無かった事になったかのようだった。
発端のアルとグリダに至っては、余計な騒ぎにいっさい関与せず抱き着いたり引き剥がしたりを繰り返していた。
サイシュウ独り、誰も側にいないまま納得いかずに腹を立てていたようだが‥‥「ケッ!」と悪態をついただけで部屋を出て行った。
独りで。
設定解説
・生まれて十年、ずっと外国の田舎村で暮らしてた
アルの母親はスイデン国出身者。
色々あってヘイゴー連合ハイマウンテン国のメイドとして働く。
領主と「仲良く」なったが、若気の至りで痴話ゲンカして怒りに任せて帰郷。
村に戻ってから妊娠に気づき、そのままアルを産む。
親子二人で暮らしていたが、アルが十歳の時に領主が息子の存在に気づいて迎えに来た。
父の元に招かれ、三~四年ほど暮らしていたアルだが、城暮らしがいまいち性に合わず、家出同然に飛び出して生まれ育った村へ帰郷。
幼馴染達と再会し、準備期間を経て冒険者として旅立つ。
その直後、魔王軍の襲撃に巻き込まれ、ジンに助けられる。
これが第一章の10話あたり。
「俺もあんな勇者になるぞ!」と意気込み、その後は主に魔王軍の下っ端相手に地道な仕事をこなす。
やがて辺境で、海戦大隊を壊滅させたジン達と再会。
頼み込んで弟子にしてもらう。
これが第三章の218話のちょい前。
なお母親はなんだかんだでハイマウンテン国の城に戻った。




