28 増員 5
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
次の街で奇妙な少女と出会うジン達。それは新たな補充人員だった。
だが同時に魔王軍の新たな刺客が、ジン達を、そして母艦を襲う――!
「増援か! 一気に出てきて勝負をかける気だな……」
呟くジン。
その声を笑う者があった。
『ククク……戦力の逐次投入は悪手だからな。様子見の部隊は出すが、相手がぶつかる気だと判断したらこちらの全てを出す。それがこのワシ、魔王軍陸戦大隊最強の親衛隊・マスターファングの戦法よ!』
声の主は増援のうちの一機。ジン達から最も遠く離れた敵陣の最奥、そこに他とは違うアイコンが表示されている。
ジンはそれに【スカウト】のコマンドを放った。
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マスターファング レベル15
Sマチェットウルフ
HP:17000/17000 EN:200/200 装甲:1800 運動:100 照準:155
ブラックアイアンフィールド
射 デッドハウリング 攻撃3200 射程1―6
格 ヘッドバット 攻撃3500 射程P1
格 ブレードファング 攻撃4200 射程P1
ブラックアイアンフィールド:2000以下のダメージを無効化するバリア。
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やはり白銀級機。胸部や腕部の鎧は量産機より厚く装飾も多く、両手には山刀。その頭は狼のそれで、長い牙が剝きだしている。
(今度はバリア持ちか。ある程度の火力が無ければ絶対に勝てないときやがった)
嫌気がさしながらもジンはステータス画面を切り替える……敵パイロットの能力欄へと。
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マスターファング レベル15
格闘183 射撃178 技量200 防御161 回避91 命中121 SP80
ケイオス4 戦意+(味方撃墜) 戦意限界突破2 ガード2
戦意+(味方撃墜):味方が撃破されると戦意が余分に上昇
戦意限界突破2:戦意上限が+10
ガード2:戦意130以上で被ダメージ-15%
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(確か……戦意はふつう150が最大値だよな。なるほど……)
「数を出してくるわけだ。量産機を蹴散らしたら、親衛隊のパワーは限界突破すると。しかもバリアと防御系技能を併用する気満々か……」
敵隊長のステータスを確認してうんざりするシン。
(こりゃヘタするとコイツを倒せなくなって詰みだな……)
一方、敵――マスターファングは声高に言った。
『そうだ。部下を倒される怒りと悲しみがワシを強くする。我が部隊の血を流した者ども、それ以上の血で償ってもらうぞ!』
「だったら捨て駒前提の戦い方をさせんな! スジが通ってねぇ!」
ジンは怒鳴ったが、もちろん敵は戦法を変えたりはしないのだ。
『ものども、ゆけ! 死ぬ気で突っ込め! 勝てねば散れ!』
部下をけしかけるマスターファング。
『うおー!』『クソが!』『おんどりゃー!』
拒否権など無い兵士達はヤケクソじみた雄叫びをあげ、ジン達へ殺到してきた。
『どうしよう……敵を倒すほど、親衛隊が強くなっちゃうんだよね?』
「だからって倒さないわけにいかないよォ!」
うろたえるナイナイ、悲鳴みたいな声をあげるリリマナ。
動揺する声を聞きながらジンは檄を飛ばす。
「固まれ! 陣形を組んで援護し合いながら戦え!」
ここまでもその戦い方はしているが、あえてジンはそう指示を出した。
動揺するなと。自分達の戦法を変えるなと。それを伝えたかったからだ。
しかし敵に合わせ、多少の調整はする。敵の増援が真正面から数で圧そうとするが――
「場所を変えるぞ。ここだ!」
味方へ戦闘マップの座標を指示するジン。北から迫る敵の正面からズレた場所――増援の南西へ自軍を誘導した。
そんなジン達を追って、敵は北と東から襲い掛かって来る。そして両軍激突――!
『撃つよ! いっけぇ!』
僅かに速く迫っていた北側の敵へ、ナイナイ機のMAP兵器・インパルスウェーブが炸裂した! 超高周波の結界内で、敵機が砕け、耐えた機体も半壊する。
そこへジン、ダインスケン、母艦からの攻撃が追い打ちをかけた。
だが東から脇腹をつくように残り半数が突っ込んでくる。先陣の、そして北側の部隊の仇をとらんと。
それを再び、MAP兵器・インパルスウェーブが迎え撃った。
(グフフ……勝った。大量のENを消費するMAP兵器を二発も撃った。通常戦闘も考えれば、既に一度は補給装置を使っているだろう)
後方で戦闘を窺いつつ、マスターファングは一人ほくそ笑む。
(しかし補給装置を使えば操縦者の戦意は低下する! だから一つの戦闘で何度も補給し続けては、戦意制限のある強力な武器は使えない!)
ケイオス・ウォリアーの表示によれば、一度の補給で戦意は10低下する。
防戦しながら補給機と連結し、ENタンクや弾倉を交換する作業が、闘志や殺気の持続に穴をあける故に。
機体に循環している異界流の流れが妨げられる故に。
スタミナ回復魔法の応用で造られた機能が操縦者の精神を鎮めてしまう故に。
それら故に、対象機操縦者の戦意を減じる反作用がケイオス・ウォリアーの汎用補給装置にはある。
よって戦意制限のある武器を持つ機体、一定以上で発動するスキルの習得者は、むやみやたらと補給装置に頼る事はできないのである。
だからマスター・ファングは笑っているのだ。
(奴らの合体技……その威力でワシを倒すには5発は必要だ。ワシの高まった戦意とスキル、この機体の耐久性があればな。だがやつらの機体のEN……180では最大でも4発、ましてやあれだけMAP兵器を撃っていれば3発でもギリギリだろう! だがあれ以上補給を繰り返せば戦意が下がって合体技は使えん! やつらの通常武器ではガードスキルとバリアの二重防壁は破れん! 奴らには――もはやワシを倒す術は無いのだ!)
勝ちを確信するマスターファング。
戦闘マップから、彼以外の魔王軍兵士が全て消えた。
マスターファングは笑いながら、実に楽しそうに言う。
『よくもやりおったな。部下達の怨念を受けるがいい』
彼の機体が重々しく歩き出した。ジン達の方へと。
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機体解説
Sマチェットウルフ
狼頭の機体だが、サイズは大ききめで、鎧も全身の生体装甲も厚い。体格的には熊の方が近い。また剣歯虎のような巨大な牙も特徴。
見た目どおりにパワーが大きく、巨大な牙と両手の山刀の連撃で敵を切り刻む。
また吠え声を超音波として叩きつけ、離れた敵でも粉砕する。
最大の特徴は衝撃を受けた部位にエネルギーを集中し、瞬間的に硬化・防御する一種のバリア能力。これを利用しての頭突きは強力な鈍器にもなる。
ただしエネルギー消耗と柔軟性の欠如を避けるため、硬化はインパクトの瞬間のみ行う。




