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異世界スペースNo1(ランクB)(EX)(完結編)  作者: マッサン
第三次 疾風怒濤編
275/353

53 激動 5

登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)


ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。

ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。

ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。

リリマナ:ジンに同乗する妖精。

ヴァルキュリナ:ジン達を拾った女正騎士。竜艦Cガストニアの艦長。

クロカ:女ドワーフの技術者。Cガストニア所属。

ゴブオ:ジンについてきたゴブリン。

オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。

 魔王軍を撃破したジン達は、半壊した王城のドックに入れてもらう。

 助けてやったと恩に着せるわけではないが、修理と整備は必要だ。

 ヨウファ姫もそれは了解してくれた。


 そのヨウファ姫に頼まれ、主要メンバーは艦と機体を作業員達に任せてケイト帝国の緊急会議に同席した。

(魔王軍を退けたのが俺らだから、という理由だろうが‥‥居ていいのか、この場に)

 会議室の椅子に座りながら、腕組みして考えるジン。

 というのも、ロクでもない報告ばかりが姫に届いているのである。


「父上と姉上が、行方不明‥‥」

 大臣の報告に、ヨウファ姫の顔から血の気が引く。

「勢力下の国々が、同盟を次々と破棄‥‥」

 別の大臣の報告に、ヨウファ姫の顔からさらに血の気が引く。

「一部には元同盟国同士で争いまで‥‥」

 別の大臣の報告に、ヨウファ姫の顔からどんどん血の気が引く。

「ケイトは、帝国はどうなるのじゃ‥‥」

 ヨウファ姫のその言葉に、列席している大臣達はいっせいに目を逸らした。


「潰れちまったんだろ。サルでもわかんじゃねーか。これからはアニキに土下座して縋って守ってもらうんだな。銭はあるだけ持ってこいよ」

 エラソウに机の上に両足を乗せてふんぞり返るゴブオ。

 ヨウファ姫は「ぐぬぬぅ‥‥」と唇を噛み、大きな瞳に涙をためる。


 ゴブオの後頭部にリリマナが「ヘイ、ヤァ!」とドロップキックをかました。

 くぐもった声で「ウグオ!?」と呻くゴブオの鳩尾(みぞおち)をダインスケンの尻尾が強打する。

 机に突っ伏したゴブオに、ダインスケンが布を取り出して被せた。

 これで静かになったわけだ。



 その後、会議はスムーズに進む。

 首都の機能が麻痺しているだの、軍が壊滅に近いだの、あちこちで一揆が起こりかけているだの‥‥様々な報告とその対策が話された。

 まぁ対策の大半は「とりあえず明日考えよう」と誰かが渋い顔で言って〆になったが。


(このドン底会議、早く終わらねぇかな‥‥)

 ヨウファ姫の真っ青な顔を横目に見つつ、ジンは途中からずっとそう考えていた。



――会議が終わった後。ガストニアのクルーとレジスタンス達に夕食が振舞われた――



 名目上は祝賀会である。立食パーティ形式である。国の大臣達も参加である。

 半壊した王城の、大急ぎで瓦礫が除去された部屋で、とりあえず並べられたテーブルに、精一杯作られた料理が並んでいた。

 種類を数揃えられるわけもない。焼いてソースをかけた肉、青い野菜の千切り、パン、豆が浮いてるスープ。皿は沢山あるが、食べる物はその四種だけだ。

 パーティなので音楽も流れていた。楽師一人で頑張って竪琴をひいていた。戦勝祝いという事で陽気な曲だった。


 余計に侘しくなっていた。


 大臣達は皆、笑顔を作っていた。

 頑張って作っていた。

 ガストニアのクルーもレジスタンスも、みんな笑顔だった。

 頑張って空気読んで必死に笑顔を見せていた。

 優しい心は常に美しい。


 しかしこのパーティに、心強い助けが届いた。

 酒だ。

 ドワーフ達が樽ごと持ってきた。


「勝利した勇者達よ! 貴方達の武勇には誠に感服いたしました! 万歳、万歳、ばんざいいい!」

 大臣の一人が戦士達を讃える。酒をガブ呑みしながら。

「まかせてください! 俺達は死ぬまで戦いますん!」

 レジスタンスの戦士が胸を張って応えていた。でかいジョッキを空にして、頭をふらつかせながら。

「我々は勝った! ケイト帝国は不滅だああ!」

 若き青年貴族が叫んでいた。既に足取りは覚束ない。

 その貴族のすぐ側で、ゴブオがゲラゲラ笑いながら酒瓶を次々と空けていた。


「あまり良い呑み方ではないな‥‥」

 溜息混じりのヴァルキュリナ。

 その横でもしゃもしゃと焼肉の山を租借するダインスケンのさらに横で、ジンは空にしたジョッキをテーブルに置いた。

「良い呑み方だけしてられりゃ、誰だってそうするがよ。世の中にゃ、ちょっと肝臓に頑張ってもらう日だってあるわな。それに全部が全部、悪い事ばかりでもねぇ。【リバーサル】だったか‥‥レジスタンスはケイト帝国との友好をしっかり結べたじゃねぇか」

 ジンのさらに横で、空のジョッキを手にグスタが肩を竦める。

「そりゃまぁ、確かにケイトと手は結べたけどな」


 眉をしかめるグスタ。

「占領された地を解放できたら帝国の傘下に入るから、活動を援助してくれ‥‥という形で考えてたんだが。まさか帝国が瓦解しちまうとはな。早くも傘下の国々がバラバラになっちまってるらしいぜ」

 その後ろで大人しくサラダを食べていたレジスタンスの少女――名をエリザドラという女魔法戦士だ――が、どこか痛々しい戦勝会場を見渡す。

「しばらくここに留まってくれ、とも頼まれたしね。私達がこの帝国で、用心棒の真似事をするなんて‥‥。ここを拠点の一つにできるから、悪い事ばかりじゃないけど」


 そこまで話すと、グスタは逆にジンへ訊いてきた。

「あんたらはどうするよ?」

「本来の目的は果たせたから、一度帰還する事になるな」

 ジンがそう答えると、グスタは納得して頷く。

「そうか。まぁあんたらが、今、魔王軍と一番戦えるだろう。俺の知ってる奴らがこの世で一番強えんじゃねぇかと思っていたが、あんたらに会っちまったら、それも怪しくなってきたぜ」

 するとリリマナがふわりと飛んできた。

「だれだれ? 教えてよ。もし味方になってくれる人だったら助かる!」


 ニヤリと笑うグスタ。

「おう、覚えとくといいぜ。霊能者(サイオニック)のノブと、魔法戦士のレイシェルって奴らだ」


 期待して聞いていたジン達一同、なんとも言えない顔になる。

 リリマナが肩を落した。

「‥‥もう仲間になってるじゃン」

 それを聞いて、グスタは目を丸くした。

「え? マジで!? そうなのか‥‥まぁあいつらならアンタらと肩並べて戦えるだろうし、納得と言えば納得だ」

「そっか。レイシェル、頑張ってるんだ‥‥」

 小さな声だったが、エリザが嬉しそうに呟いた。



 その後、グスタとエリザはレジスタンスのメンバーに呼ばれ、大臣の一人と話をするためジン達から離れた。

「ボクらも艦に戻る?」

 ナイナがジンに訊く。

「そうだな。適当に食ったし呑んだし、オウキに土産も持って行ってやらんとな‥‥」

 テーブルの一つに積まれた、料理の入ったタッパ。それを眺めながらジンは考える。


 オウキは「元魔王軍なのでな。祝勝会場にのこのこ出す顔でもあるまい」と言って艦に残った。

 だからこの場にいないのだ。


 なんとなく帰艦する雰囲気になった、そこへ――

「ジン。話があるのじゃ」

 声をかける者が一人。

 ヨウファ姫が、供もつけずに一人で来ていた。

「俺に、か? まぁいいが‥‥なんだ?」

「その‥‥あっちで話そう」

 少しおどおどしながら、ヨウファ姫はバルコニーを指さす。

「ああ、かまわないが‥‥」

 戸惑いながらも、ジンは姫と共に星空の下に出た。


 バルコニーから見える夜景――本来なら夜の首都が一望できたのだろう。

 いや、今もできるが、それは‥‥寒々しい夜の廃墟を眺めるという事でしかない。

 隣に立つヨウファ姫に目をやりながらジンは訊いた。

「で、俺に何の話だ?」

 姫はジンを見上げ、ぐっ‥‥と言葉に詰まり、足元を見て、深呼吸すると‥‥顔を上げて、大きな瞳でジンの顔を見た。


「わらわと結婚するのは、嫌か?」

設定解説


・我々は勝った! ケイト帝国は不滅だ


戦争の勝敗になると、戦いの目的は〜とか被害総計は〜とかその後の影響は〜等、いろいろな角度からの見方が生じる。

この回で主張されている「勝利」が成り立つ視点もある筈だ。

なんだかんだでケイト国自体は滅びなかったのだから。


なお支配下の国々が離脱したなら「帝国」ではなくなったという見方もあるかもしれない。

だが地球の歴史にも、自国単品で「帝国」を名乗った例がないわけではない。

言葉の定義など所と時代で変わりうるのだ。

それに帝国でなくなっただけで国自体は消えていないし。


なお設定上、この国は相当昔から栄枯盛衰を繰り返しつつ存在している。

この物語の時代はたまたま盛から衰に至った場面に過ぎないのだ。

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