27 増員 4
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
次の街で奇妙な少女と出会うジン達。それは新たな補充人員だった。
だが同時に魔王軍の新たな刺客が、ジン達を、そして母艦を襲う――!
主砲を撃ちながら後退を続けるCパンゴリン。
徐々にコウキの町へ近づく艦へ、ジン達の乗った馬車がまっしぐら。時折飛んで来る敵の射撃武器が近くの大地を抉り、雇われ御者は悲鳴を上げて泣きそうになる。
だが艦の方もジン達の接近を察知し、敵の攻撃から庇って遮りつつ横腹のハッチを開けた。馬車はそこへ駆け込む。
格納庫に馬車が入ると、すぐにハッチは閉められた。ジン達は急いで馬車から飛び出す。
格納庫にはヴァルキュリナもいて、出て来たメンバーの中にクロカがいるのを見て声を上げた。
「彼女を連れてきてくれたか!」
「あ……シ、シシ、お久しぶり」
微妙に強張った作り笑いを浮かべるクロカ。ヴァルキュリナとは知人のようだが、クロカの方は少し苦手意識があるようだった。
だがそんな事を気にせず、ジンはヴァルキュリナへ訴える。
「これ以上町に近づけないでくれ。あそこが巻き込まれる」
その脳裏では、魔王軍に襲われて負傷し、犠牲者まで出したハチマの街の人々を思い出していた。
(俺がそんな事を気にするなんてな。転移前には考えた事も無かったのに……)
自分の変化に自分で違和感を覚えるジン。
とはいえ、戦闘に巻き込まれた被害者を目の当たりにしたのがこの世界に転移した後しか無いのだ。そう思えばおかしくはないのかもしれない。
だがそこまで考えるほどの余裕は今のジンには無かった。
一方、ヴァルキュリナは難色を示す。
「まだ補給班が戻っていない。置いていくわけにはいかないから、この戦闘から逃亡はできなくなる。何が何でも勝ってもらう事になるぞ。そんな保証ができるのか?」
「おいおい、アニキが負けると思ってるのか? 白銀級機には前に勝ったんだぜ」
抗議するのはゴブオだ。だがそれをジンは圧し留めた。
「それがわかって攻めてくる相手だからな。誰にも勝ちは保証できねぇ」
ジンの言葉に、一瞬、気まずい沈黙が下りた。
それを破ったのはクロカの笑い声。
「シシシ……だったら『ダメだった時は責任とってハラキリする』とでも約束すれば?」
どこか馬鹿にしたような言い方である。
だがそれを聞いたジンは――
「それならいいのか。仕方ねぇ、わかった。それでいこう」
少し逡巡はしたものの、はっきりそう言った。
町を利用して建物を盾にした方が……地形効果として活用した方が圧倒的に楽である。
だがそれをしないばかりか、自分の命をかけるとまで言い出した。
なぜそんな事を言うのか、実はジン自身にもわからない。
(どう考えても俺らしくねぇ……)
そう思うが、確かに己が言ったのだ。
クロカにして見れば「そこまでできないだろ?」と言うからかい半分だったのである。それがあっさりと受け入れられた。
「え……マジデ?」
彼女が目を丸くするのも仕方ないだろう。
「ちょ、ちょっと、ジン!」
ナイナイが焦る。それも仕方ない事だろう。
だがヴァルキュリナは頷いた。
「了解した。ではジンの提案どおり、町にはこれ以上近づかない。補給班は敵を撃退した後に改めて合流を待つ。これが私の判断だ」
「いや、逃げられない状況で負けたらどうせ艦も落ちて死ぬし……」
クロカが焦りながら言う。
だがジンは笑いながら肩を竦めた。
「悪いな、ドワーフ娘さんよ。乗った早々腕を発揮する暇なくお終いかもな。そうなったらあの世で思う存分殴ってくれ」
「ふざけんな! 私はまだこの世に未練あるっつーの!」
怒鳴るクロカ。青筋を浮かべたままヴァルキュリナへ向き直る。
「ねぇねぇちょいと! COCPは貯まってるね? アイテム作るよ!」
今度はジンが驚く番だ。
「今この場でか!? そんなバカな……」
しかしすぐに思い直した。
(……わけでもねぇのかよ? 魔法がある世界だ、そういう物だと言われたらそうなのかもしれねぇ)
クロカはポケットから羊皮紙を取り出した。
「ほれ、私が準備している物リストだ。ここに書いてある物なら一つ30秒で作れるから!」
羊皮紙を渡されたジンはそれにざっと目を通す。
その頭上から、恐る恐る声をかけるリリマナ。
「ねぇねぇ……ジン、負けたら本当に死んじゃうの?」
「そういう事になったみたいだな」
羊皮紙から顔を上げずに答えるジン。
リリマナは一瞬唇を噛むと、必死な声をあげた。
「私、そんな事させないよォ!」
言われてジンは視線をあげる。妖精の少女と目が合うと――その一生懸命な気持ちが見えて――フッとほほ笑んだ。
「ああ。頼りにしてるからよ」
「ウン!」
勢いよく頷くリリマナ。
それから何度か艦が揺れた頃。
ジン達は新たなアイテムを装備し直し、ケイオス・ウォリアーの操縦席に入った。通信をブリッジに繋ぎ、モニター越しにヴァルキュリナへ伝える。
「待たせたな! こちらジン、出るぞ!」
ハッチが開き、ジンのBカノンピルバグが飛び出した。ナイナイ機も、ダインスケン機も。
着地して戦闘態勢をとると……眼前には十五か二十かはたまたそれ以上か、一目では数えられない程の敵機の姿。
『うわ……今日の敵部隊は数が多いね』
逃げる艦を追いかけてくるのは、犬頭の機体だ。
「猛獣型ケイオス・ウォリアーの中でも、この犬型の奴は生産し易いんだよ」
リリマナの説明を聞きながら、ジンは己のスピリットコマンド【スカウト】で敵の能力を探り、モニターに映し出す。
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魔王軍兵 レベル10
Bダガーハウンド
HP:4000/4000 EN:170/170 装甲:1200 運動:95 照準:145
格 ダガーショット 攻撃2500 射程1―4
射 ワイルドバイト 攻撃2600 射程P1
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性能的には、今までで最弱といって良かった。
「数は多いが質は伴ってねぇな。連携を強めて粘り強く戦えばなんとかなるだろうよ」
弱いといってもさほど大きく劣っているわけではない。油断は禁物である。
だが油断をしなければ、既に戦い慣れてきていたジン達が後れをとる事もない。
Cパンゴリンは町から逸れた方に移動し、ジン達3機はそれの周りを固めながら戦う。
「敵軍、北北東! 60秒後に距離5! 砲撃用意!」
ブリッジから指示を飛ばすヴァルキュリナ。何人ものクルーとともに操縦する艦は、戦況を把握・予測する能力も高い。それに基づいた指示をいかに出せるかが、この世界の艦長達の【指揮官】スキルで表されている。
指示を聞きながら目標を定め、仲間の攻撃を援護して攻撃を重ね、敵の攻撃からは互いに庇いあう。ジン機の砲撃が敵を撃ち、ダインスケン機の爪が敵を裂く。ナイナイ機はそれらを的確に援護し、艦は遠くの敵を砲撃で、肉薄してきた敵をゴブオの騎獣砲で撃った。
巨大な投げ短剣が艦の装甲に突き刺さる。その側を這うカタツムリの座席で悲鳴をあげるゴブオ。
「ば、バカ野郎! 俺が艦内に引っ込んでから投げろ! つかその前に爆発しろ!」
その言葉を聞いたわけでもないが、数は多くても各機バラバラに攻めてくる雑兵はジン達の連携で着実に数を減らし――最後の機体がやがて倒れた。
(呆気ないな。数が多いとはいえこんな無策で攻めてくるとはよ。指揮官らしい奴もいなかったし……)
ジンが嫌な予感を覚えていると、戦闘MAPに新たな敵影が出現する! しかもさっきよりさらに多数が。
「増援か! 一気に出てきて勝負をかける気だな……」
機体解説
Bダガーハウンド
鎧を着た犬頭の獣人、といった外観の機体。
機体性能は控えめだが生産し易くなるよう設計されており、短期間で数を揃える事ができる。
走行速度も速く、前傾姿勢で走った時の速度は飛行しない量産機としては最速級。
反面、軽量化のため装甲は薄く、武装も少ない。手持ち武器が無いので接近戦では敵に噛みついて攻撃する。
飛び道具は腰部にマウントした手投げ短剣。




