46 竜神 5
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ(ナイナ):異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。
リリマナ:ジンに同乗する妖精。
ヴァルキュリナ:ジン達を拾った女正騎士。竜艦Cガストニアの艦長。
クロカ:女ドワーフの技術者。Cガストニア所属。
ゴブオ:ジンについてきたゴブリン。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
『ならばお前を完全にしよう』
竜神セブンセンシズはそう言うと、財宝の山へ首の一つを突っ込んだ。
そしてすぐに虹色に輝く半透明の板を引っ張り出す――スキルが封入された【スキル本】だった。
掘り出したスキル本を、竜神はジンへ差し出す。
『今は失われし古代のスキル。それがこれだ。これでお前は完璧となるだろう』
「そんなチートが、ねぇ‥‥どうも上手い話は胡散臭ぇな」
「ジ、ジン! 相手は神の一柱だぞ、そんな態度で‥‥」
疑うジンに、ヴァルキュリナが慌てて注意した。
ジンは真面目な顔になって背筋を伸ばす。
「そんな都合の良いスキルがあるとは、にわかには信じ難いのです」
「いや、丁寧に言えという話じゃねぇだろ‥‥」
後ろでしかめ面になるクロカ。
しかし竜神は怒りなどしなかった。
『そう思うのも当然かもしれん。だが我が神通力で一つだけ蘇らせた太古のスキルだ。使ってみよ』
そこまで言われ、ジンは出された板を手に取る。
そして表面を眺めて――目を見開いた。
【特殊技能LV+1】
「これか!!」
「え? 知ってるのか?」
叫ぶジンに驚くクロカ。
クロカはスキル本作成の技術を持ってはいるが、失われたスキルの知識まで有るわけではない。このスキルを見たのは初めてだった。
だから異界から召喚されたジンが知っている事が不思議でならないのだ。
しかしジンが故郷の世界で遊んでいたゲームには、これと同じ名前のスキルがあったのだ。
20年経ってもユーザー間で語られる、非常に衝撃の強かった作品に。
仁はその作品を非常に高く評価していたのだが、同意者はあまりいなかった。
運命を感じつつ、ジンはそのスキル本のスペシャルパワーを解放する。
その身に新たな力が宿り――
「な、なんだ!?」
驚くヴァルキュリナ達の前で、ジンの右腕の甲殻の隙間から神々しい光が溢れてもれた!
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ジン=ライガ レベル54
格闘253 射撃251 技量259 防御242 回避162 命中204 SP168
ケイオス8+1 底力7 援護攻撃1 援護防御1 アタッカー ガード3 気力限界突破3 闘争心3 H&A 特殊技能LV+1
スカウト ウィークン ヒット プロテクション ブレイブ レイジング
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「ケイオスレベルが9になった――!」
驚愕するヴァルキュリナ。
「所持技能全部のLVが+1されるんじゃねぇのかよ‥‥」
期待した、そして己が知っている効果と違う事にがっかりするジン。
「いや、喜べよ!」
怒鳴るクロカ。
『確かに、かつては全てに+1の効果があった。まだ各個人が4つ程度しかスキルを習得できず、COCPの抽出も確立されていなかった頃はな。だがスキルシステムが進化し、ポイント取得性になって個人が取得できる数の上限とスキルの種類が増えると、どうにも上手く機能しなくなってしまった。影響を及ぼすべきスキルが増えすぎてカバーできなくなったのだろう。不具合を改善する前にシステムが進化し続けたので、時代に取り残されて忘れられたスキルになってしまったのだ』
ヨルムンのその説明に、竜神が続けた。
『今のシステムに完全に適合させるのは無理だ。だが我は世の理の一端。効果を【技能欄先頭のスキルに+1する】と限定させる事により、我が一族の末端とも言えるお主に対してなら、なんとか機能させる事に成功した』
「えー‥‥一個が一つ増えるだけ? 普通に上げればいいだけじゃん」
リリマナが文句をつける。
だが竜神は、胸を張るかのように七つの首をもたげる。
『ふふふ‥‥しかし妖精よ。スキルの先頭はユニークスキルが優先的に並ぶ。つまり聖勇士ならば異界流のレベルがな。そして今のシステムも、ケイオスレベルを上昇させる事はできぬ。わかるか‥‥』
「ならばこれは、ケイオスレベルの限界を超える、たった一つの手段!」
驚愕するヴァルキュリナ。彼女にとっては世界の不変の法則が覆されたのだから驚くしかない。
(消えたシステムを復活させるなら、こっちだけ瀕死の敵を誰でも説得して味方にできるとかやらせてくれねぇかな)
ムシのいい事を考えるジン。人間という物は欲が深くて当然だから仕方がない。
『そしてこれも持って行って良いぞ』
そう言ってヨルムンが宝石を持ってくる。
さっきまで静かだったのは、財宝の山の中から小さな石を探していたからなのだ。
その宝石とは――
神蒼玉だった。
「「「ええええ!?」」」
インタセクシル生まれの者達が驚愕する。
「まぁ‥‥神話の秘宝を神が持ってても別におかしくはねぇか‥‥」
驚きつつもなんとか気を取り直し、ジンはそう言った。
その側でオウキが「フッ」と笑う。
「これ一つのために、死ぬほどの思いで旅をした奴らもいるというのに。立場がないな」
頷きながらも、しかしジンは考えていた。
(確かにありがてぇ。これをレイシェル達に返すとするか)
――その夜。ジン達は竜神王国に泊まる事になった――
水棲種族の兵士達が見張ってくれるというので、Cガストニアのクルーは一人残らず艦を下りて【賓客の間】へ案内された。
丁寧な装飾が彫られた壁と磨かれた床の、神殿風の区画。あちこちに持ち運べる寝台が持ってこられ、テーブルも用意された。
その上に所狭しと並ぶは、新鮮な魚介類の料理が数々。そして当然、無数の酒瓶。
「さすがアニキ! さすがアニキ! ヒィーヒヒヒ!」
焦点のあってない目で叫び、ゴブオは徳利を手に全裸で踊り狂っていた。
周りでは男性クルーが何人かそれに付き合っている。
もちろん水棲種族の住民達もだ。
種族の垣根をこえた心温まる光景である。
既に喧噪が場を支配している酒盛りのど真ん中で、ヴァルキュリナが頭を抱えていた。
「どうしてこうなるんだ‥‥」
「つーかこの前やったばっかじゃねーか!」
クロカは怒鳴っているが、ジョッキを手にし、顔は真っ赤だ。
もちろんジンもガンガン呑んでいる。
「あー美味え。この世界にも刺身はあんのな」
新鮮な切り身を口にすれば酒も進むというものだ。なお醤油みたいな味のタレもなぜか有る。
「フッ‥‥どこに住んでも人は人か」
そう言いながら、オウキも杯を離さない。側の皿には焼いたイカがあった筈だが既に消えている。
「ゲッゲー」
ダインスケンは瓶を握っていた。既に四本目だ。
当然、竜神セブンセシズも宴にいる。
樽が七つ並べられ、それに直に頭を突っ込むのだ。
なおこの居住区は雨が降らないし、なぜか空気はあるが風は吹かない。よって壁や床を神殿風にしてあるものの、天井は無いのだ。だから巨大な竜でも平気で入る事ができる。
というより、最初からそういう設計になっている。この竜神王国の公の施設は、全て王たる竜神が入る事ができるのだ。
――しかし、宴から離れている者もいる――
「あなたは皆と呑まないの?」
そう訊くナイナを、ヨルムンはじっと窺った。
宴の喧噪から壁を隔てて離れた、薄暗い物陰で。
『お前が離れるのが気になった。我が娘、同時に我が息子‥‥ムスメコ? ムスコメ?』
首を傾げるヨルムンに、ナイナは苛ついた視線を送った。
「どっちでもいいでしょ。放っておいてよ」
『だがお前が一人で居たいようには思えない。我が細胞の伝える、精神の波動が‥‥』
投げナイフが飛んだ。
石壁、ヨルムンの頭の側に刺さる。
「余計な事だよね」
ナイナの視線は鋭かった。
普段の悪戯っぽさが欠片も無い。
『そうか』
ヨルムンは残念そうだった。
背を向け、宴へ戻ろうとし‥‥一度振り返って訊く。
『お前の心にある二つの面。なぜ片方を出さない? そのせいで‥‥』
「余計な事だよね」
ナイナの視線は鋭かった。
手には次のナイフがあった。
『そうか』
ヨルムンは残念そうにそう言い、のそのそと明るい宴へ戻っていった。
ナイナを残して‥‥。
設定解説
・20年経ってもユーザー間で語られる
無難に良い出来の作品より、クリアはできるが妙に尖った作品の方がそうなり易い。
F完結編も特撮大戦も一部の人間には老後まで遊べる生涯の娯楽だ。
ただメーカーにとっての成功とはまた別の話なので、同じ路線が続くわけではないのが残念と言えば残念。




