26 増員 3
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
次に訪れた町で、ジン達は謎の少女と出会う。
だがそこに魔王軍の暗殺者が、それも相当な腕利きが襲ってきた――!
男――魔王軍からの刺客は笑った。
「悪く無い攻撃だ。だがそれはこの世界ならばの話。核の炎に包まれ、海は枯れ、大地は裂け、力こそが正義の世紀末……その世界から来た私には通じん!」
とはいえ間合いは離れた。ジンはゆっくりと立ち上がる。足はまだ動く。
(脛当てが無ければ折られていたぞ……)
脚の防具に亀裂が入っている事が、ジンの予測が正しい事を裏付けていた。
なんとか身構えるジン。その横でダインスケンも前傾姿勢で飛び込む姿勢を見せる。二人の後ろでは、ナイナイが新たなナイフを手にしていた。
そんな三人へ、男はナイフを投げ捨ててじりじりと間合いを詰めていく。
(クソッ、どうすりゃい? 腕は圧倒的にあちらさんだ)
気圧されながらも突破口は無いか考えるジン。
だがしかし。
実の所、男も見た目ほど余裕が有るわけではなかった。
(威力だけはたいしたパンチだ。一撃でひっくり返されかねん。他の二人も思った以上……三流の暗殺者をぶつけても実力を測りきれなんだか。それでも三人まとめて勝てる相手ではあるが……慎重にはならねばな)
誰から仕留めるか考えながら、男は徐々に近づく。
一方、迫る敵にジンは肚をくくっていた。
(見てから打っても当たらない。なら敵の攻撃に合わせて捨て身でブチ込む! 何度か攻撃を食らってんだ、奴のタイミングがまるでわからないってわけじゃねぇ)
ほとんど刺し違える覚悟だが、それぐらいしかジンには思い浮かばなかった。しかもこれを凌がれてしまえば、致命的なカウンターを食らう事は容易に想像できる。しかし――
(俺がやられた時は、そこを狙って後の二人がなんとか仕留めてくれるだろ。短い付き合いだったが、俺だけ先に逝ってお別れかもな……)
恐怖は消えない。だが、開き直ってしまえば体は思うように動いてくれた。
間合いを詰める敵へ、ジンも自らにじり寄っていく。
息が詰まりそうな緊張の中、いよいよ互いの攻撃圏が重なろうとしていた。
その時――爆音が空気を震わせた!
音は町の外からだ。
「ジン、あれ!」
ナイナイが指さす。
犬か狼のような頭を持つケイオス・ウォリアーの群れが、Cパンゴリンに襲い掛かっていた!
(チッ! 艦と俺達を同時に襲う二面作戦か!)
ジンは焦った――が、どうも様子が変である。
「クッ! こちらを出し抜いたつもりか!」
男は忌々しそうに言うと、大きく後ろに跳んで間合いを離した。
「勝負は預ける。だが長生きしたければ、あの艦には見切りをつけて失せろ。我らの邪魔でなければ貴様らなどどうでもいいとの事だからな」
そう言い捨てて路地へ駆け込む。そのまま男は姿を消した。
ぽかんと立ち尽くすナイナイ。シューシューと呼吸音を鳴らして路地を窺うダインスケン。
そしてジンは考えていた。
(艦が襲われる事をあの男は知らなかったのか。やっぱり派閥同士で手柄を取り合っている……? 魔王軍内部も一枚岩じゃないようだぜ)
「ねぇジン、安心してられないよ。母艦はどうするの?」
ナイナイが焦りながらジンに声をかける。
その横でゴブオは物陰から出て来た。暗殺者が飛び出した途端、一人で物陰に逃げ込んでいたのだ。だがそれを恥じる様子もなく平然と言う。
「アニキ、まさか軍の艦を助けに戻るんですか? 魔王軍に目をつけられてまで義理立てする必要ないッスよ」
それを聞いてリリマナが叫んだ。
「ダメだよ! みんな、戻って!」
「ヘッ! グルになって秘密を隠し持ってやがった食わせ者が」
なぜか得意げに鼻で笑うゴブオ。人を責める名分があるのがさぞ嬉しいのだろう。
言われてリリマナは言葉に詰まり、すがるようにジンへ視線を送った。
「ジン……」
ジンは軽く肩を竦め、溜息をつく。
「まぁ助けようと体張ってくれたからな。その一回分、お返しするのがスジだろうよ」
警告を飛ばしたせいでリリマナも襲われた事をジンは忘れていなかった。
「やったァ!」
満面の笑みを浮かべて文字通り舞い上がるリリマナ。
「良かったね」
ナイナイも嬉しそうに頷いた。なんだかんだでこの妖精へ仲間意識が湧いているのだろう。
「ゲッゲー」
ダインスケンがいつも通りに鳴いた。
リリマナがジンの肩へ舞い降り、嬉しそうに頬を寄せる。
そこへいきり立った罵声が飛んだ。
「何イチャついてんだクソリア充気取りが。ほら、これを運ぶんだよ!」
リヤカーの陰で震えていた少女が、なぜかジン達にそれを運べと命令する。
ジンは首を傾げた。
「つか、お前さん、何者?」
その疑問への答えはリリマナが教えてくれた。
「整備技師のクロカだよ! ドワーフで腕は折り紙付き。この町で合流する事になってたの」
少女はパンゴリンの補充クルーだったのだ。
ジン達の事は先に報告されており、彼女は三人の事を知っていたのである。
なおどうでも良い事ではあるが――ドワーフ族なので人間より小柄であり、それゆえ少女に見えはするが、れっきとした成人女性である。
「俺らに地獄を見せるとか言っていたのは何なんだ?」
ますます首を傾げるジン。味方が言うセリフだとは思えなかったのだが。
ぷうと頬を膨らませるクロカ。
「……あんたらの機体を整備して戦闘に向かわせるんだ。そういう言い回しも嘘じゃないだろ」
勿体ぶって、さらに気取って大げさに言っただけだった。
(滑ってるからよ……)
そう思ったが、ジンは優しさを発揮して口にはしなかった。
「ふん、まぁいい。今は艦に戻るぞ」
そう言うとジンは町の外目指して走り出した。ナイナイとダインスケンもその後に続く。リヤカーはダインスケンが尻尾で引っ張った。
新クルーのクロカは、扱いがぞんざいな気がして少々苛立ったものの、三人の後を追って走り出した。
「ロボットが強いなら、パイロット自身を襲えば勝てるんじゃね」
よく言われる事ではあるのだが、これは昭和MAジンガーZで何回も実行されている。
もちろんKOU児は素手で戦って撃退した。
敵戦闘員はわらわらと結構な数がいたのだが。
刃物もちゃんともって武装していたのだが。
その時の主人公のアクションがモロにカンフーの影響を受けていたのは、まぁ多分BUルース・リーあたりからのカンフー・カラテブームのせいだろう。




