18 脅威 10
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。
リリマナ:ジンに同乗する妖精。
ヴァルキュリナ:ジン達を拾った女正騎士。竜艦Cガストニアの艦長。
クロカ:女ドワーフの技術者。Cガストニア所属。
ゴブオ:ジンについてきたゴブリン。
アル:冒険者の少年戦士。
パーシー:スイデン国所属の少年騎士。
コーラル:スイデン国所属の青年騎士。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
魔王軍を退け、二隻の艦は城のドックへ戻った。
それを迎えながら、フォースカー子爵とファンデム伯爵は歓喜の表情だ。陽も高いのに二人の手には酒瓶が握られている。
「感無量という奴だ。永い時を超えて、我々の努力が報われたぞ」
子爵の言葉に伯爵は深く頷く。
「魔王が倒されても、形になるまで研究を続けたのは無駄ではなかったな‥‥」
先代魔王が倒れた後も、二人は水面下で新技術を十年近く研究・開発させてきた。最後には凍結扱いだったが、それまでは「今後の新技術に応用できるかもしれないから」という名目で、神蒼玉無しでできる事は全てやらせていたのである。
新機能【ゴールドライド】がぶっつけ本番でも設計通りに働いたのは、できるだけの実験やテストを繰り返してきた下地があってこそだったのだ。
乗員達はドックで艦を降りた。
Cオーウォーのクルー達へ、ゴブオが勝ち誇って叫ぶ。
「見たかテメーラ! アニキが最強! アニキが無敵! アニキにひれ伏して土下座しろ!」
げんなりするジルコニア。
「なんでアイツがエラソウなんだよ‥‥」
一方、少年戦士のアルはジンに頭を下げていた。
「師匠‥‥すいません。戻って来たけど、役に立たなくて‥‥」
「ヒャッハー! 役立たずは死刑だー!」
歓喜の声をあげるゴブオ。
そのドテッ腹をダインスケンの尻尾が打った。
呻いて倒れるゴブオ。
それをダインスケンは片手で掴み、倉庫の隅へと放り投げて転がす。
静かになった。良かった。
項垂れるアルにジンは言う。
「師匠とは呼ぶな。破門した筈だからよ」
唇を噛むアル。
「‥‥はい。でも俺、何の結果も出せないまま、これだけの大事から逃げちまうのが嫌で‥‥」
「戻って来た、か」
ジンの言葉に、アルは力なく頷く。
そんな少年に、ジンは‥‥
「アル。お前がフリーのソロ冒険者でやってく事を選んだなら、もう俺がどうこう言う事じゃねぇ。この艦に雇われたいというなら、そりゃお前の仕事だからお前の勝手だ」
そう言ってジンはヴァルキュリナへ振り向いた。
彼女は少し考え‥‥すぐに微笑んだ。
「再契約か。まぁ‥‥やってみるか?」
ジンはニヤリと笑い、アルへ視線を戻す。
「だとよ。なら俺とお前は仕事仲間だ。よろしくな」
アルが顔をあげた。驚いて、けれどすぐに目を輝かせて。
「あ‥‥はい!」
それを見て溜息をつく少年騎士パーシー。
「やれやれですね‥‥」
そんな彼へ大きな声を出すアル。
「なんだよ! 言いたい事あるのか!? 役立たずだったのはお互い様なんだから、お前に文句言われたくねーぞ!」
それを聞いて、目頭を抑えたのは、側にいた騎士コーラルだった。
「耳が痛いな‥‥」
彼らとて頑張ったんだが、性能も数も上を行っている部隊の相手はちょっぴり厳しかった。
一件落着‥‥と思いきや。
今度はレイシェルがジンの前に来て話しかけた。
「流石ですわね。スイデンどころか、今の人類側でトップクラスの強さなのは間違いないでしょう。神蒼玉を黄金級機製造以外の手段で使う、と前に言ってましたけど、あの【ゴールドライド】とかいう機能の事を知ってて言ってたんですの?」
肩を竦めるジン。
「いんや。武器にでもくっつけりゃ威力を上げられねぇかな、ぐらいの考えしか俺にはなかった。まさかここまで真剣に研究開発してる人がいるとは思わなかったからよ。で、さらなる戦力増強のため‥‥神蒼玉を渡してくれる気になってくれれば、と思うんだがな」
「まだ言うんだ、それ」
呆れるリュウラ。
だがレイシェルは、ジンに真剣な目を向けていた。
「本当にね‥‥なぜそう言いますの? 手柄を全部欲しがるような人には見えませんわ」
短い間ではあるが、行動を共にしている。
その間にレイシェルが見たジンは、功績をあげる事に必死な人間では無い筈だが‥‥。
そのジンが、同じぐらい真剣な目でレイシェルを見ていた。
「裏切り者とはいえ、兄貴と戦いたいわけじゃねぇんだろ」
「ええ。その通りだとも、だけど避けて通る気は無いとも言いましたわ」
レイシェルは覚悟を決めている。
そんな彼女にジンは――
「なんで避けちゃならねぇんだ」
そう言った。
それは質問ではない。
なぜ、何の意図で出た言葉なのか。
わからないが、それでもレイシェルは言い返す。
「家族だったからといって、肉親相手では辛いからといって‥‥敵に回った売国奴を野放しにはできないでしょう?」
レイシェルの言い分に、ジンは続けた。
「野放しにはしない。誰かが倒せばいい」
「もし君とディーンが戦いになったら、まぁ君の言う通り、逃げてちゃならんだろ。だが‥‥わざわざ、余計に負担があって傷つきもする奴に進んでやらせる意味はないからよ。だから君がやる必要があるわけじゃねぇ」
ジンが考えていた事は――
「誰かがやればいいなら、俺らでいい筈だ」
神蒼玉を要求していたのはそのためだ。
自分達がやるために。
引き受けるために、だ。
「ま、あいつが出て来たのは俺にも意外だったけどな。でもその前から、君と初めて会った時から思ってはいた。君にとって大切なのが御家を立て直す事なら、もうこれ以上は戦に首突っこまんでもいいんじゃねぇかと。弟が裏切り者だったのに、妹まで討ち死になんて事になったら‥‥自爆までした君の兄さんがちと不憫過ぎんかと、な」
そう言って頭を掻くジン。
レイシェルはジンをじっと見つめる。
相手が何を考えていたのか、それはわかった。
だからレイシェルも考えて――ふう、と小さく溜息一つ。
神蒼玉を一つ、取り出した。
「陸戦大隊長の物でしたわ。こっちならお渡しします」
そう言って、神宝をジンに手渡した。
「レイシェル!?」
彼女の行動を見て、エリカが驚きの声をあげる。
レイシェルはふっきれた顔で微笑んだ。
「元々、相応しい人物だと思えたら渡す。そういう事でしたものね」
そしてくるりと、Cウォーオーのクルーへと振り返る。
「でも、私達はこれからも戦いますわよ。故郷に平和が戻るまで。今日から部隊名を『クイン星輝隊』と名乗って、再出発ですわ!」
その宣言にジルコニアが笑った。
「おいおい。お嬢が考えたんかよ」
側にいたドリルライガーがランプをチカチカ点灯させる。
『部隊名があった方が何かと話し易いですからね。良いと思いますよ』
クルーのモヒカンエルフ達が「ヒャッハー!」と歓声をあげた。
「結局は止めらんねぇか」
そう呟くジンを横目で見つつ、リリマナが頬を膨らませる。
「なによ、女の子にいい顔しちゃってェ! あんなに気を遣ってあげる事ないじゃン!」
「ま、まぁまぁ‥‥神蒼玉を一つ貰えたんだし、ジンは元々ああいう人だから‥‥」
少し困り顔で宥めるナイナイ。
だが一転、「あ‥‥!」と漏らすと、その顔が本気で困った顔になった。
「ん? どした?」
様子に気づいたジンが訊く。
ナイナイは、頬を染めて俯き、自分の体を抑えていた。
それでジンは察する。
「女になっちまったか。戦闘中でなくて良かったが、妙なタイミングだな」
「うん‥‥」
ナイナイは羞恥で小声しか出ない。
最近までは比較的安定して、だいたい決まった時間に性別が変わっていたのだが。Cオーウォーの面々——クイン星輝隊と会ってから、徐々に不安定になっているようだ。
(ボク、どうしちゃったんだろう‥‥)
悩むナイナイ。
その側で、ジンは整備員達に声を飛ばしていた。
「修理と整備を急いでくれ。魔怪大隊の神蒼玉も探しに行くからよ」
探しに、である。
水没したGスカルラビットの一部——神蒼玉を含む――は、水中を押し流されて行方がわからなくなっていたのだ。
設定解説
・故郷に平和が戻るまで
魔王が倒れては現れるこの世界において、戦乱の時代と平和の時代はだいたい同じ長さずつになっているだろう。
となれば、平和に「戻る」と言えるのであろうか。
平和になり、戦乱に戻る‥‥なのかもしれない。
そんな世界に住みたくはねーな。




