12 脅威 4
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
ジン:地球から召喚され、この世界で改造人間にされた男。
ナイナイ:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた少年にして少女。
ダインスケン:異世界からこの世界に召喚され、ジンと同じ改造を受けた爬虫人類。
リリマナ:ジンに同乗する妖精。
ヴァルキュリナ:ジン達を拾った女正騎士。竜艦Cガストニアの艦長。
クロカ:女ドワーフの技術者。Cガストニア所属。
ゴブオ:ジンについてきたゴブリン。
アル:冒険者の少年戦士。
パーシー:スイデン国所属の少年騎士。
コーラル:スイデン国所属の青年騎士。
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
エリカ:オーガーハーフエルフの整備士兼副艦長。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
ヴァルキュリナが驚いて叫んだ。
「父上!?」
そう、ドックに入って来たのは聖都ホウツの領主フォースカー子爵。葛模様が装飾された燕尾服を身に着け、つばの広い黒い帽子を被り、娘へとほほ笑んでいた。
「お前達が来ると連絡を受けたファンデム伯爵に呼ばれてね」
――一同は城内の会議室へ通される――
円形のテーブルに着いて、皆が席に座る。
それを確認してから、フォースカー子爵はジンに訊いた。
「ジン。君達は黄金級機に乗る気は無かったね?」
海戦大隊隊長を撃破した後、首都を去ってから聖都ホウツへジン達は一度戻った。
その時に経緯をフォースカー子爵に話したのだ。
「ええ。でも、そうも言ってられなくなりましてね」
ジンが言うと、子爵はファンデム伯爵と目くばせし、頷きあう。
そして改めてジンへ話しかけた。
「一足先にここへ着いて、伯爵と相談した。そして提案してみる事にしたのだ。聞いてくれ‥‥神蒼玉があれば、試せるパワーアップ手段が他にないでもない」
「「「なんですって!?」」」
一同の大半が驚きざわめく。
そんな方法があるなどと聞いた事も無い。
だがファンデム伯爵が話を続けた。
「本当を言うと、昨日今日編み出したわけじゃなくてな。先代魔王との戦いの中で考案もされたし、ある程度は実験も済んでいる。ただ、まぁ‥‥結局は実用されなかった」
遠い目でフォースカー子爵が溜息一つ。
「神蒼玉は我々より有望な勇者に譲ってしまったからなぁ‥‥彼らが魔王を討ってくれたから、結果的には正解だったわけだし」
先代魔王の軍と戦った者達は、魔王を討った勇者達以外にも大勢いる。
伯爵と子爵もそうした「脇役の勇者」だったのだ。
ケイオスレベルの半端な彼らなりに、対魔王の手段を考え、生み出そうとし、完成まで後一歩という所までは辿り着いた。だが魔王が倒され、新技術開発は凍結してしまったのだ。
「それで、その方法とは?」
話に食いつくジン。
伯爵が嬉しそうにニヤリと笑う。
「物凄く単純に言えば、神蒼玉を現行機に組み込む」
それを聞いて、リュウラが首を傾げた。
「お父様? それだと動かない筈では? リミッターをかけて、多少の性能アップに留めるだけなら別ですけど‥‥」
それには子爵の方が答える。
「これまではそうだった。だからこそ、我々はそこに新たな技術を研究していたんだ。今使っている機体をそれで強化すれば、試験・実験を含めても、一から黄金級機を新造するより確実に早い。おそらく半分ぐらいの時間で済む筈だ」
それを聞いて、再び会議室がどよめく。
既に魔王軍が動き出している以上、早さは魅力だ。
「ただまぁ、黄金級機以上の強さかというと微妙だし、既に設計図もあるんだ。だからこの案を受けるか否かは君達が選んでくれ」
そう言ってファンデム伯爵は会議室を見渡した。
一同、しばし顔を見合わせる。
早さという魅力はあるが、強さの絶対値は重要だ。
卓についている者の大半がジンを見たが、ジンは腕組みして考え込んでいた。
(本物の黄金級機を造る事ができる状況で、代価案みたいな物を選ぶのか‥‥? 俺達の異界流レベルが9まで上がらないと決まったわけでもない。しかし上がる保証も無い)
新たな選択肢を前にジンは悩んだ。
「か、カブトかな‥‥強化するなら、だけど」
か細い声が、ぼそりと呟かれた。
一同がいっせいに注目する。
視線を向けられ、クロカがビクリと体を震わせた。
冷や汗をだくだく流しながら、必死に引きつった半笑いで誤魔化そうとする。
「あ、いや、その、一意見だから、そんなに気にしないで、ウェヘヘ‥‥」
静まった会議室。
そこで今度は椅子が動く音が聞こえた。
一同の視線がそちらへ移る。
ダインスケンが立ち上がっていた。
「ゲッゲー」
彼はいつも通りに鳴くと‥‥皆の視線など気にもせず、大股で歩き出す。
ジンの側へと。
そして「隊長」と書かれた紙の腕章を外し、ジンの腕に巻いた。
ジンはダインスケンを見上げ、クロカを再び一瞥し‥‥そして伯爵と子爵へ目を向ける。
はっきりとした意思のある視線を。
「わかった。決めさせてもらいます。Sサンダーカブトを強化してください」
慌てて焦り声をあげるクロカ。
「え、え、あ、いやその気にしないでって‥‥」
そんな彼女を横目で見ながら、ジンはニヤリと笑った。
「毒蝿に乗りたい奴がいない。カブトに乗りたい奴は俺がいる。0対1だ。もう決めさせてもらったからよ」
「決まりだな」
「我らのボツ案が二十年を超えて陽の目を見るぞ!」
子爵と伯爵、二人は高揚した笑顔を向けあう。
脇役が力不足を補おうと考案し、研究し、やっぱり主役様に勝利され、肩を落として凍結していた、彼らなりの新技術。
この二人もそちらの採用を望んでいた事はもう明らかだった。
(黄金級機新造と、現行機の強化案。どっちが正しいのかはわからねぇ。だが、俺が選びたいのは‥‥こっちだわな)
二人の元勇者を見ながら、密かに喜びに震えるクロカを横目で見ながら、ジンはそう考えていた。
他人の華々しい活躍を、指を加えて眺める寂しさ。それは四十余年ぶん知っている。
自分の精一杯の仕事が、より大きな成果の前に隅にやられる寂しさ。それも同じぐらい知っている。
(つまらない感傷だとわかっちゃいるが‥‥俺達だって命をはる以上、納得できる手段を選ばせてもらわないとスジが通らねぇ)
付け加えるなら――ジン自身、Sサンダーカブトには既に愛着がわいていた。それもまた事実だ。
その決定を前に、騎士コーラルは肩を落とした。
「黄金級機は我がスイデン国に生まれないのか‥‥」
そんな彼を見て、ノブが一部の人間に訊ねた。
「一度、スイデンの方々に訊きたかったが‥‥毒を吐いて大地を汚染するハエロボが祖国代表になっていいのか?」
「私はNOかな‥‥」
困った顔のヴァルキュリナ。
「私もですわ‥‥」
困った顔のレイシェル。
「え、あ、その、どちらかというと否定的というか‥‥」
困った顔で申し訳なさそうな少年騎士パーシー。
実はあんまり望まれていなかった‥‥!
設定解説
・俺達のケイオスレベルが9まで上がらないと決まったわけでもない
もしジンの案のまま9レベルまで上がった場合、ダインスケンは汚染毒を撒き散らすMAP兵器で敵を駆逐する事になっていた。
3機ともMAP兵器を連打して敵を草刈し続ける最強部隊の完成である。
代価案の方へ賛成した事と無関係ではないだろう。




