22 死闘 6
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
敵の親衛隊が2機同時に立ちはだかり、絶体絶命の窮地に陥るものの、それまでに施した僅かな強化と
特訓により身に着けた新技で辛くも切り抜けたのであった。
やっとの事で勝利し、三機は母艦へ戻った。艦も少なからずダメージを受けている。
格納庫に機体を置き、操縦席から出るジン達三人。そこへゴブオが、騎獣から跳び下りて駆け寄ってきた。
「スゲーよアニキ! 青銅級3機で白銀級機に勝っちまうなんて! 魔王軍の親衛隊が一人減っちまった! オレもう一生ついていくっス!」
ジンの側で小躍りするゴブオ。
リリマナも宙を舞いながら浮かれっぱなしだ。
「三人ともやるゥ! 小さな部隊だと親衛隊一機だけでも蹴散らされちゃうのに、部隊ごと相手にしても勝っちゃうなんて。これならスイデン国まで大船に乗った気でいられるね!」
「ああ……そうかよ」
ジンは調子を合わせて頷いておいた。
だが胸中には疑問が渦巻く。
(合体技をモノにしていなければ……昨日までの俺らならば、確実に負けていた)
貧弱な武器で攻撃し続ければ、大したダメージは与えられずにマスターオシュアリィの戦意は上がり続けた。その状態では大きなダメージを与えられず、すぐに再生能力を止められなくなっていたに違いない。
そしてこちらはパワーの高まりきった強武器での攻撃で、修理装置でも補いきれない被害を何度でも叩き込まれ、簡単に倒されていただろう。
スピリットコマンドを駆使しても、敵を倒せなければやがてSPを消耗しきって負けるだけだ。
合体技の習得が間に合ったからこそ勝てた敵である。
(昨日、寝る前に布団の中で考えた技。朝起きて練習したら昼飯までに完成した技。実戦で三度試して三度とも成功した……完璧に身につけた技。昨日まで勝てなかった敵を、それでひっくり返しただと?)
ジンは自分の顔に触れた。若返った、青年の顔に。
(俺はいつからそんな天才様になった? 僅かな人並みと、大概はそれ以下。そんな能力だったよな、俺は。これも異界流って力のおかげか? それとも……)
ジンは視線を自分の右腕に向ける。外殻に覆われた異形の右腕に。
(……自分でもわかっていない何かが、この体にあるのか?)
考え事をしていると、ヴァルキュリナが格納庫に姿を見せた。
「期待した以上の戦果だな。貴方達を目覚めさせて雇ったのは間違っていなかった」
「えへへ……」
「……」
照れるナイナイ。無言で宙を見続けるダインスケン。
「ところで一つ聞きたいんだがな」
そして、質問をなげかけるジン。
「俺達が眠っていた基地で、何か貴重な物か情報を手に入れたんだろ?」
ジンがそう訊くと、ヴァルキュリナは驚きで一瞬目を見開いた。
しかし……何も答えようとはしない。
だからジンはさらに言った。
「敵軍の親衛隊が二人も来た。そして『逃がさない』とも言っていた。こっちをそれだけ本気で追いかけているなら、追いかけられる理由があると思うんだがよ」
ヴァルキュリナは……黙っていた。気まずそうに、目を逸らして。
しばらくそのまま、重苦しい沈黙が続く。ナイナイが不安げにジンとヴァルキュリナを交互に見た。
やがてヴァルキュリナは、ぽつぽつと言葉を押し出すように言う。
「私の一存では言えない事も、有る。貴方達に害を為すような物ではないと、それだけは言わせてもらう。それでも秘密がある事は許せないというなら、艦を降りるのは自由だ。ここまでの働きにはできるだけの報酬を出す」
再び沈黙。
ジンは窓から外を見た。Cパンゴリンは再び山間の平原を歩いているので、山肌と森が延々と続いている。
「まぁ……降りるにしたって、どこかの街でなけりゃ不便で困るからよ」
そこまでは留まる、という事だ。
「すまない」
ヴァルキュリナは目を伏せたままそう言うと、背を向けてブリッジへ戻っていった。
ジンは周囲を見渡す。
リリマナの姿は消えていた。
(まぁ、隠された物を発見できるコマンドを自慢していたのはアイツだしな……)
もしかしたら重要な事を知らないのは自分達三人とゴブオだけなのかもしれない。
そう考えて格納庫の中、整備員達の働く姿を眺めるジン。微妙に距離を遠く感じるのは気のせいか。
倉庫を見渡していると、側にいたゴブオと目が合った。ゴブオはヴァルキュリナの話に何の興味も無さそうだった。
そんなゴブオに、ジンは訊いてみる。
「お前、一応魔王軍の兵士だったよな。その魔王がどんな奴か、お前は知っているか?」
「いや全然。ああでも、暗黒大僧正って奴が全部命令してるみたいだからソイツじゃねーっスか?」
それにも興味無さそうなゴブオ。下っ端しかやらない低級モンスターにとって、総大将など雲の上の話。どうせ何の関与もできないからどうでもいいのだ。
しかし彼の知る最高権力者の名は告げてくれた。
暗黒大僧正。
全ての命令を出しているというなら、総大将でないにしても最高位の立場ではあるのだろう。
どう考えても本名ではないが、その肩書はジンに疑問を抱かせる。
「僧正……なら魔王軍は宗教団体なのか?」
「わかんね。俺らに来る命令はどこそこの街を襲えってな話ばっかでしたし。すまねーっス」
ゴブオは心底どうでもよさそうだった。
ジン達があれこれ話しているうちに、回収班が資材を持ち帰ったようだ。それを見ながらゴブオがジンをつつく。
「やっぱ白銀級機を倒すとかなりのブツが手に入りますぜ。おっと、強化パーツもけっこうあるっス」
「強化パーツか……今までも何個か拾ったが……」
自機を眺めるジン。
ケイオス・ウォリアーには外付け汎用装備を付ける事のできる箇所がいくつか用意されている。追加装甲を取り付けて頑丈にしたり、推進剤の噴射装置を取り付けて移動力を上げたりと、簡単なカスタマイズが可能になっているのだ。
そういった外付け用の汎用装備を「強化パーツ」と呼び、戦場や戦闘方法に合わせて能力の調節を行う。
その汎用装備を、ジン達はこれまでの戦いでいくつか手に入れてはいた。
予備のエネルギータンクや応急修理用のキットなどをいくつか。
ただ今まで入手した物は使い捨てる消耗品ばかりであり……できるだけ使わず済むようにしよう、と立ち回った結果、一つも使わず――逆に言えば活かさずにいる。
(こういうのを『エリクサー症候群』と言うんだっけか?)
ENが50「だけ」回復するエネルギータンクと、HPが2000「だけ」回復する修理キット。腰部装甲の下にある運搬ボックスに収納された二つの消耗品。
これらを使わなかったのは、効果が微妙なので使っても戦局が変わるわけではなかったから……そういう理由もある。
自機を眺めながら、ジンは胸の内で祈っていた。
(ヴァルキュリナが何を隠しているのか知らんが、今後も親衛隊どもが追手として来そうだ。それでも生き残れるよう、強力な強化パーツでも来いよな……)
そんなジンの耳に整備班の声が届く。
「これがネイルグールがドロップした強化パーツか?」
「ああ。スピリットドリンクだ。一服でSPが50回復する消耗品な」
(消耗品しか来ねぇ……)
大金星をあげた筈のジンの胸には哀しみしかなかった。色々と。
ファーストGUンダムを見て思うのは、MSってのは「スゴイ歩兵」として描写されてんのかなって事だ。
作中には「スゴイ戦闘機」「スゴイ戦車」みたいな奴も出てくる。MAもそこらへんに属するようだ。
あの作品はミリタリー的描写を入れる事でそれ以前のロボットアニメと差別化をはかっていたみたいだが、その下敷きにしたのは第二次世界大戦で、それを「未来の地球を舞台にしたSFだから」という考えで「戦闘ロボット=スゴイ歩兵」という描写にしたのではなかろうか。
なんせ製作スタッフに第二次大戦の時に既に生まれていた方々のいた時代だからな……同じ空気の作品はもう作れないだろう。