101 二人 4
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
エリカ:オーガーハーフエルフの女整備士兼副艦長。
シランガナー:人造人間型強化パーツ・ファティマンの一体。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。
グレートMAジンガー:ロボットプロレスしかしない作品の後継なのに「もっとプロレスが見たい筈だ」と断言して強制おかわりさせてくれるサービス精神あふれる良作。
うつむき、涙を零しながら。
レイシェルはそれでも訴えた。
「私が何を成せたと言っても、この旅の最初からずっと一緒にやってきてくれたのが‥‥ノブ、貴方でしょう」
ノブの視線がレシイェルから逸れる。
落ち着き、自信に満ちた態度など、どこにも無かった。
「これまでは、そうだった。でも‥‥もう君に道案内は要らない。僕が戦力として不可欠というわけでもない。必要では無くなったんだ、僕は」
「道案内も、強さも、ありがたくはありましたわ! けれど私は! だから一緒にいて欲しいなんて、言った事はありませんわ! 思った事もありませんわ!」
叫んだ。
レイシェルが叫んだ。泣きながら、それでもはっきりと。
彼女が顔を上げる。
大きな瞳から涙を流し続けて、その目でノブを睨んでいる。
「私が一番弱って、どうしていいかわからなくて、もうここでお終いだって、その時に! 堂々と現れて、声をかけてくれて、手を差し伸べてくれて、共に行こうと言ってくれて! 同じ目的をずっと一緒に追いかけて、一緒に進んで、一緒に苦しんで、一緒に乗り越えて、一緒に‥‥ずっと一緒に、ここまでやってきた」
レイシェルがノブに手を伸ばす。
その襟首を掴んだ。
「ノブだけじゃないですの! 貴方だけでしょう!?」
叫んだ。
訴えていた。
どうしてもそれだけはわかって欲しかった。
ノブは‥‥何も答えない。
驚いて目を見開き、己の襟首を掴んだ少女を見つめている。
その頭を、後ろから、小さな足が蹴飛ばした。
「アーホ、アーホ。何が魔術師系クラスだ、お前に知力なんてあんのか? 賢さ999でもアホさ9999か。お嬢を泣かせやがって‥‥今まで泣きたい時でも必死こいて我慢してきたのに。よりによってお前だけだ、こんだけ泣かせてるアホは」
呆れかえり、この上なくしょうもなさそうに罵り、ジルコニアがノブの後頭部を蹴り飛ばし続ける。
そんな小さな足で軽く蹴飛ばされたとて痛くも無いが‥‥ノブは力なく項垂れた。
「これまでそうだったから、これからも。そういう事なのか? レイシェル殿」
そう訊いた声も、弱々しく小さい。
「殿はいらないですわ! レイシェル、そう呼んで!」
襟首を掴んで引っ張るように、ノブの顔を覗き込みながら。
レイシェルは怒鳴った。
ほんの一、二秒。間をおいてから。ノブが呟くように応える。
「‥‥わかった。レイシェル」
レイシェルは頷いた。そしてノブの問いかけに改めて答える。
「これからもですわ。ずっとですわ。今まで私を引っ張ってきてくれて、ありがとう。私が追いついたなら、横にいて。私が先に行ったなら追いかけて。私がまた追い抜かれたら、また追いつくから待って」
未だ泣きながらではあったが。
声自体は落ち着いていた。
己の心の中を、願いをノブに届かせようと、はっきりと口にした。
それは届いたのか、否か。
ノブは‥‥レイシェルを見つめたまま、何かを言おうとしていた。
しかし、何も言葉が出てこない。
言おうとしているが、言葉が無いのだ。
ドスッ、とノブの頭にジルコニアが乗る。
「ビビってんじゃねーよ。一緒かサヨナラか、100か0かだ。真ん中はねーぞ、今ここで決めるんだ。もし決められないのならそこの木の下へ行け。吊るための縄を結んでやるからあの世へ逝け」
言葉を絞り出すのに、さらにほんの少しだけかかったが‥‥それでもノブは、レイシェルを見つめて、こう言った。
「僕で‥‥いいのか」
キッ、とレイシェルの目がますます鋭くなる。
「そんな事ばっかり。ノブはどうですの? 一緒にいたいのは私だけですの!? もしそうなら、私は‥‥」
急に、声が力を失った。
大きな瞳が不安に曇る。
「もしそうなら‥‥」
襟首を掴んでいた手が、ゆっくりと解けた。
視線が再び、地に落ちる。
「‥‥勝手な事ばかり言って、ごめんなさい」
解けて離れた手を、ノブの手が掴んだ。
「違う。僕だ」
そう言いながら。レイシェルの手を掴んで。
「すまない。本当にすまない」
そう言いながら、レイシェルの手を己の胸元に寄せた。
それにつられるように顔を上げたレイシェルの、未だ涙の残る瞳を、ノブは見る。
「何が霊能者だ。超能力魔法だ。そんな物をちょっと使えても、自分の目が節穴だったら意味が無い」
いつもと違い、落ち着いているとは言い難い。
だが今までのどんな時よりも、必死で真剣だった。
そしてノブは言う。
「レイシェル。君のおかげで師匠からの使命を果たせた。今までありがとう」
「はい」
レイシェルは頷いた。
さらにノブは言う。
「今まで、は終わった。これから‥‥君はどうするんだ」
「クイン家を元通り、誉れ高い公爵家にしますわ。その道程は、まだこれから考えますけど」
レイシェルはそう言った。
これまででわかりきっている今後の目標だが、改めて告げた。
そして、ノブは言う。
「その道に、僕も共に行く。今ここで、再び、これから。僕を仲間にして欲しい」
レイシェルが「ぐすっ」と、止まりかけていたのに、また泣きそうになった。
「嫌ですわ」
「違うだろ! イモ引くな! 度胸決めろ!」
ジルコニアが再びノブの後頭部を蹴飛ばす。
やり直し。
一つ、深呼吸し、己を落ち着けて‥‥
ノブは言う。
「‥‥僕は君と一緒に行きたいし、生きたい。ずっとだ。旅とか目標とかそういう話じゃない。最期まで、ずっとだ」
握られていた手を、そっと解くレイシェル。
けれど掌を重ね、ゆっくりと指を絡めあい、互いに握り合わせる。
「聞きましたわよ? 忘れませんわよ? 覚悟して観念してもらいますわよ」
真っすぐにノブの瞳を見つめながら、レイシェルはそう言った。
真っすぐにレイシェルの瞳を見つめながら、ノブはこう言った。
「心得た。一生だ。弱く情けない霊能者だが‥‥お供つかまつる」
涙はまだ止まらなかったけれど。
レイシェルは笑顔を浮かべた。
「心配はしてませんわ。ノブは最強の霊能者ですものね」
ノブは笑顔を浮かべた。
それはまだ自嘲気味ではあったけれど。
「随分と情けない最強もあったものだがな」
頭をふり、否定するレイシェル。
「そんな事ありませんわ。私を絶望の縁から救い出してくれた人は、もう未来永劫、ノブだけになりましたもの。どんな強い人ももう絶対にできません。おわかり?」
小さく頷くノブ。
「頭では理解した。だが理解ではなく‥‥感じたいから、少し、こうしていて欲しい」
そう言って、レイシェルと結び合った手を引っ張った。
手を引き、ノブは己の胸にレイシェルを抱く。
抱きとめられたレイシェルは、流石に少し驚いたようだが――抵抗はしなかった。
体を預け、顔をノブの胸に埋める。
木漏れ日は射していたけれど。
梢の間を微風は吹き抜けていたけれど。
それでも、世界も時間も、二人をそっとしておいた。
離れた枝の上に腰掛け、ジルコニアは二人を見下ろしていた。
ニヤニヤと、実に嬉しそうに。
しかし‥‥彼女はふと、Sエストックナイトの操縦席から身を乗り出すファティマンのシランガナーに気づいた。
彼は必死に上空を指さしている。
ジルコニアは木の葉が邪魔になって見えないそちらへ、宙へ舞って目を凝らした。
こちらへ飛来する魔物の群れが、遠くの上空にいる‥‥!
舌打ちするジルコニア。
「おいおい‥‥お邪魔虫にも程があんだろ‥‥」
設定解説
・これまでそうだったから
結局そいつが何者で何なのかなんぞ、どこで何やってきて今何してるのか以外に有りはしねーんだ。
単純な話だが面白くもねー話だ。
世の中、目標に手が届いてる奴ばっかじゃねーからな。
あー心がもう息苦しい。かつて己だった筈の物が頭の中にいっぱい転がる。




