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異世界スペースNo1(ランクB)(EX)(完結編)  作者: マッサン
第2次 烈風復活編
207/353

98 二人 1

登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)


レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。

ノブ:地上最強の霊能者。

ジルコニア:ノブに同乗する妖精。

ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。

オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。

エリカ:オーガーハーフエルフの女整備士兼副艦長。

シランガナー:人造人間型強化パーツ・ファティマンの一体。

リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。

BAクシンガー:新撰組モチーフだからといって全滅まで律儀に踏襲する義理堅い良作。

 金属生命体マキシマムキングを退けた、次の日。

 午前中の作業をあらかた終えた格納庫にレシイェルが駆け込んできた。

 何やら慌ただしい様子だったので、オーガーハーフエルフのエリカはついそちらを見る。

 視線が合うと、レイシェルは焦りを隠そうともせず駆け寄って来た。


「ノブは!? どこ!?」

 開口一番がその問いである。

「今日はまだ見ていないけど‥‥どうしたんだ?」

 たじろぎながらもエリカがそう言うと、レイシェルは倉庫をぐるりと見渡し‥‥少し考えてから倉庫を走り出てしまった。


『何かあったようですね』

 補給を受けていたドリルライガーがレイシェルの背を見送りながら呟く。

 近くの箱に腰掛けて自機の整備を見ていたオウキが立ち上がった。

「行ってみるか」



 レイシェルを追う、エリカ、リュウラ、オウキ。

 石造りの廊下を駆け抜け、皆が着いたのは、大賢者トカマァクの部屋だ。


 大賢者はレイシェルが血相駆けて駆け込んでも、それを三人が追ってきても、落ち着いてフレンドリーに話しかけて来た。

『皆さん、来ると思っていました。お昼ご飯を済ませてからにした方が良かったのですが』

 それにつかつかと詰め寄るレイシェル。

「何を言っていますの! トカマァクさん、貴方はノブが出て行く事を知っていたんでしょう!?」

 大賢者は平然と答えた。

『まぁ相談は受けましたから』


 ノブが出て行った。

 他の三人には初耳である。当然、一様に面食らった。

「ちょ、ちょっと待って! ノブがどこに行ったって?」

「それを聞きに来たんですわ!」

 訊ねるエリカにそう答えながら、レイシェルは羊皮紙を取り出した。



 レイシェル殿へ


 僕はここでお別れだ。

 自分を見つめ直すため、今日より旅に出る事にした。

 目的は修行だ。だからどこへ向かうか、いつまでなのか、それはわからない。


 今の、そしてこれからの君ならば、誰よりも秀でたスイデン国きっての勇者として、きっと輝かしい名声を得るだろう。無論、実家の名誉もかつて以上に高まる筈だ。

 君ならもうできる。僕は信じている。

 君との旅は僕にとって良い経験になった。感謝している。ありがとう。


 ノブヒコ=アキカゲ



「当てもない旅‥‥このタイミングで? どうなってんだ?」

 文面を読んで呆然と呟くエリカ。

「本人に訊くしかないだろう。そのためには会わねばならんが‥‥」

 そう言いつつオウキはトカマァクを見る。


 だが大賢者は触手を持ち上げ、肩を竦めるしぐさをした。

『当てもない旅の行き先なんて、私にもわかりませんよ』

 それにレイシェルは掴みかからんばかりに詰め寄る。

「今ノブがどこにいるかはわかるでしょう!?」


 大賢者の言い分は――

『落ち着きなさい、レイシェル。貴女達に黙って出て行ったという事は、見送られたり、同行されたくないという事です』

「‥‥!」

 レイシェルは言葉に詰まった。


 レイシェルが寝ている間に扉の隙間から手紙を差し込み、一言もかけなかったノブ。

 夜中のうちに部屋を出ていたノブ。

 ダンジョンのどこを探してもいなかったノブ。

 彼がなぜそんな態度に出たのか。

 大賢者の言葉通りなのだろう。


「で、でも、一人で動いてたら危険じゃないのか? 魔王軍とだいぶ戦ってたんだし、向こうのお尋ね者みたいになってるんじゃないのかな」

 エリカが思いついた事を口にする。

 だが大賢者は触手を振って否定した。

神蒼玉(ゴッドサファイア)から離れてしまえば、魔王軍がノブを追い回す理由はありませんよ。賞金ぐらいはかかるかもしれませんし、それで襲って来る奴もいるかもしれませんが、まぁその程度の相手に負けるノブでもありません』


 その時、近くの水晶玉が点灯した。格納庫にいるドリルライガーが映る。

『ノブが出て行ったのは知っていましたが、そんな話だったのですか?』

 Eムーンシャドゥに乗ってノブは出て行ったのだが、当然、格納庫にいるドリルライガーはそれに気づいた。

 だが「用事ができたので出かける」とだけ言われ、特に疑う事もなく止めなかったのだ。


『トカマァクさん。なぜノブが出て行くのを許したんです? ノブはレイシェルを助けるのが使命なのでは?』

 ドリルライガーの問いに大賢者は答える。

『そのクエストならもう終わりました。レイシェルは神蒼玉(ゴッドサファイア)を手に入れましたし、黄金級機(ゴールドクラス)を作成できる私の下へ辿り着いたのですから。この時代の人々の平和のため、また大事なクエストをいずれ与えようと思ってはいましたが‥‥その前に本人が出て行くと言った以上、止める事はできないでしょう』


 そこまでの話を聞いていたレイシェルが、俯きながらも言った。

「エリカ。私の機体をすぐ出られるようにしてくださいまし」

「探しに行くんだ? 本人の意思で出て行ったなら、誰にも止める権利は無いけど」

 そう言ったのはリュウラだ。

 しかしレイシェルは叫んだ。

「ノブに会う権利が、私に無いわけではありませんわ!」


「どうやって探すつもりだ」

 そう訊くオウキに、レイシェルは必死に考えながら答える。

「それは‥‥ムーンシャドゥだって飛べるわけじゃないでしょう。地上を移動するなら、この岩山ばかりの中、ルートは限られるはず」

 しかしオウキは「ふう‥‥」と軽く溜息をつく。

「それでも複数の道は考えられる。勘だけで見つけられる見込みは低いだろう。それに‥‥奴なら飛行用の強化パーツぐらい造れそうなものだ。そうなると地上移動前提では話にならんな」

「そんな!」

 痛い指摘に苛立つレイシェル。だが反論がすぐには出てこない‥‥。


 ‥‥が、オウキは「フッ」と軽く笑う。

「落ち着け。こちらには飛行できる機体もあるし、飛行用のパーツもあるだろう」

「そっか! オウキとドリルライガーに探してもらえば‥‥」

 ぱっと明るい顔を、側のエリカが見せる。

 だがレイシェルは叫んだ。

「私が探します! すぐにパーツを付け替えて!」


「レイシェル‥‥」

 彼女の必死な姿に、リュウラが悲し気な呟きを小さく漏らす。


 だがレイシェルの肩を、チョイチョイと軽く突く触手。

『貴女が留守にするなら、黄金級機(ゴールドクラス)の完成はそれだけ遅れますね。ここにいる者でケイオスレベルを満たしているのは貴女だけですから、他の者が乗る前提では造れませんし』

 大賢者がレイシェルの顔を下から覗き込むように言う。

『我々のパーティで黄金級機(ゴールドクラス)に乗っていたのは勇者グロムディのみ。レイシェルが黄金級機(ゴールドクラス)を手に入れれば、騎士ダイザック以上の誉れをクイン家が得るチャンス。それが今なのですが。さて、どうお考えで?』


 キッと睨むように視線を返し、レイシェルは――

「うっせーわとお考えですわ。その程度の話なら後にしてくださいまし! 待てないほど急いでいるなら、神蒼玉(ゴッドサファイア)は箱詰めして王都へ送って勇者達にでも使わせればいいでしょう!」

 そう言うや、彼女はくるりと(きびす)を返す。

 言葉にも行動にも、一切の迷いは無かった。


「エリカ、お願い!」

 強化パーツの付け替えの件だ。レイシェルに頼まれ、エリカはやる気満々で拳を握る。

「よっしゃ、任せて!」

『パーツはお渡ししますが、私も捜索に出ます。地中からでも周囲を探れますから』

 ドリルライガーも協力する気だ。

「無論、私も手伝おう。だが居場所を見つければ教えるが、ノブを引き留める手伝いはせんぞ。それは任せる」

 オウキも微かな笑みを浮かべながら申し出る。


 リュウラだけは、ぷいと横を向いていたが――

「‥‥Cオーウォーも出せばいんでしょ」

 自ら、そう切り出した。


「みんな、ありがとう! 行きますわよ!」

 意気揚々と叫び、レイシェルは大賢者の部屋から駆け出す。

 当然、他の三人もだ。



 大賢者トカマァクは一人部屋に取り残された。

 彼の助言も、最強機の完成も蹴って飛び出していった、弟子の仲間達。

 それを見送った彼の一つ眼は、嬉しそうに笑っていた。

設定解説


・奴なら飛行用の強化パーツぐらい造れそうなものだ


もちろん造る事ができる。

ノブが本気で逃げる気なら、移動用強化系パーツを複数造ってありったけ装備し、移動力を6ぐらいあげて通常移動13~14で歩行する風の地上MA装機神にして高速で逃げ去る事も可能だった。

だがノブの目的は自己を確立するための修業であり、決して夜逃げではないので、そういう無駄な事はしていない。

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