92 師匠 4
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
エリカ:オーガーハーフエルフの女整備士兼副艦長。
シランガナー:人造人間型強化パーツ・ファティマンの一体。
リュウラ:クラゲ艦・Cウォーオーの艦長を勤める魔法戦士の少女。好きな席は図書館の隅かレイシェルの隣。
『20年近く前になります。ある半魔族人が率いる魔物の組織が私に刺客を送り込みました。召喚された聖勇士と、それが率いる暗殺者達です』
大賢者トカマァクがそう言うと、水晶玉に黒い制服を着て剣を手に持つ青少年が映る。
顔は包帯のような布が巻かれてよくわからないが、輪郭や体格はノブによく似ていた。
『もちろん返り討ちにしました』
映像が変わった。青年は倒れ、周囲には忍び装束の暗殺者達が転がっている。
床が焦げて煙が上がっている所を見ると、強力な魔法で焼き払ったのだろう。
『しかし聖勇士は逃げました。彼は忍術の心得があり、また超能力戦士と呼ばれる類の戦士だったようです』
次の映像は、山中の砦だ。
『というわけで逃げた軌跡を観測して、敵の本拠地に見当をつけてから乗り込みました』
砦の中であろう映像に変わる。
一面、ゴブリンやオーク等の下級の魔物の屍が煙をあげてごろごろ転がっていた。
『勝ちました』
『そして敵の砦を捜索したのです。するとどうでしょう、珠のような可愛い赤ちゃんがいるじゃありませんか! カワイイ!』
次の映像は石造りの地下室で、おくるみに包まれた赤子の映像だった。
涙ぐんだ目で頬を膨らませている。
『しかしどこの子でしょう? 過去の出来事を見る【サイトパースト】の呪文で私は調べました。結果、この子は私が倒した聖勇士から生まれたと判明したのです』
わけがわからず、レイシェル達は顔を見合わせる。
先刻の映像では、問題の聖勇士は男性だったのだが‥‥?
それに構わず、大賢者の説明は続く。
『私に敗れ、重傷を負ったその聖勇士は、任務失敗もあり助けてはもらえませんでした。ただ処刑するだけよりはと、首領に協力している魔術師が研究の実験台にしたのです』
次の映像は‥‥寝台に倒れて動かない聖勇士と、その側でビーカーの溶液に入れられた肉片。それを握る、フードローブの魔術師。
映像の隅には<想像による再現映像です>と書かれている。
『ただ、この時は、実験を行った魔術師はいませんでした。後にわかりましたが、他所の組織にも顔を出していたのです。私とは入れ違いになっていたのですね』
『肉体的、生物的には実験台は死んでいます。心臓も脳も止まっていますから。だがその細胞片から遺伝子情報を取り出し、肉片を再生する。年齢をリセットするため、そのまま再生するのではなく、細胞を材料にした培養ですね‥‥多分、元は不老不死を目指した技術なのでしょう』
次の映像は‥‥巨大な水槽の溶液に浮かぶ赤子だった。
『しかしこれはアメーバの分裂や単性生殖と同じような物です。元の人格や記憶が残るわけでもない。個人が生き続けているとは言い難い物です。まぁ後にわかりましたが、やはり肉体生成のための実験の一つに過ぎませんでした』
次の映像は、陽当たりの良い石造りの一室だった。
清潔な調度品が揃えられ、中央には赤子用の寝台が置かれている。
そこに寝転んでいるのは砦で拾われた赤子。
安心しているのだろう、よく眠っていた。
『そして私はこの子を持って帰りました。次の弟子とするために』
「ワーグラはノブと会った事があると言っていましたけれど‥‥」
レイシェルが訊くと、大賢者は頷いた。
『はい。ノブが物心つく前、ワーグラは何度かここに帰ってきましたからね。私の蔵書や倉庫を好きに使わせていましたから。しかしそれが、生体改造技術のためだとは‥‥』
「だから破門したのか?」
今度訊いたのはオウキだ。
それにも大賢者は頷く。
『はい。ある魔術師が相談しに来たのです。魔物の砦で、オーガーとエルフのハーフを見つけたという事で』
「それ私だ!?」
仰天するオーガーハーフエルフのエリカ。
大賢者も触手を両手のように上げた。
『おお、そうなんですか。本人に会うのは初めてですね。相談を受けて現場までは行ったのですが』
大賢者がそう言うと、水晶玉の映像がまた変わった。
『そこで出会ってしまいました。残された機材を回収しに来たワーグラと‥‥』
映っていたのは、20年近く前のワーグラ。
今より若くはあるが、確かに本人だった。
『そして知ってしまったのです。彼が魔物や犯罪者と手を組んで、生体改造の研究を‥‥効率さえ良ければ非合法な物にも構わず手を染めてでも進めている事を』
映像を見つめる大賢者の単眼が細められた。
当時を思い出して。
『その場で破門を言い渡しました。彼は「わかりました」とだけ言い、そこから去りました。言い訳も無く、全く平気なようでした』
少し経ってから付け加えた声には、隠しようのない悲しさが混じっていた。
『彼は、とても優秀な子だったのですが』
ノブは自分の掌を見た。
緊張から汗ばんだ掌を。
(自分が生まれた世界がどこなのか、どんな所なのか、考えた事が全く無いわけではないが‥‥)
掌を見つめた。
(どこで生まれた、何なのだと、僕は言うべきなのだろう?)
設定解説
・かつてトカマァクの敵だった名も無き聖勇士
最強と謳われるある忍者一族きっての超能力戦士で、特に他者への精神操作に長けていた男。
一族の中でも最高の戦士の一人に数えられていたが、野心を抱いた別の戦士により精神を支配され手駒にされる。
一族の精鋭たちが強大な敵との戦いのために里を離れた隙に、新生軍の表向きの代表として一族への襲撃・乗っ取りの先鋒となった。
戻って来た精鋭達との戦いの最中、里でも最強格の忍者と戦いになり倒される。最後は用無しとされて黒幕のかけていた催眠術により自害させられた。
‥‥筈だったがインタセクシルに召喚され、一命をとりとめる。
だが召喚したのが魔物軍だったため、今度は人側への襲撃の先鋒となる。
トカマァクに返り討ちにされ、重傷を負って帰還したところ、用無しとされて生体実験に使われた。
本人が何を考えて何をしたかったのかは結局不明。
トカマァクがノブに超能力系魔法を修行させたのも、忍者の里でカラテを習わせたのも、この男と同じ才能がある事を見越してのもの。
本人も知らなかった事だが、ノブは戦闘技術として超能力系魔法を習っていたのではなく、本人の戦闘力を最も開花させられる手段として超能力系魔法を習っていたのである。




