20 死闘 4
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
最初に訪れた街を魔王軍の魔手から救い、輸送艦で今後のための戦力強化を考えていたジンだが
彼へと次なる敵が迫っていた。
出撃したジン達三機は、荒野の向こうから迫る巨大な生き物の群れを見た。
「なんだありゃあ?」
ジンの目には、二足歩行の恐竜に見える。
恐竜図鑑で見た、ワニの先祖とやらによく似ている。だが頭にはキノコみたいな突起物があるし、背筋を伸ばせばケイオス・ウォリアーと同じぐらいの大きさがありそうだった。
「明らかにこっちへ向かっているな……」
恐竜の進行方向は母艦へ真っ直ぐ。苦く呟くジンの肩でリリマナが言った。
「ギガントリザードの一種だと思うけど……あのサイズのモンスター、今の魔王が現れてから急に増えたの。群れで動くようになったし、人里への被害も増えたし、絶対魔王が悪さしてるよ。やっちゃおう! 強化もされたし、がんばれ!」
発破をかけるリリマナの声に押され、ジンは現在のステータスを確認する。
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Bカノンピルバグ
HP:5250/5250 EN:180/180 装甲:1470 運動:94 照準:151
格 アームドナックル 攻撃2600 射程P1―1
射 ロングキャノン 攻撃3100 射程2-6
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「なるほど、確かに全能力値が上がるように満遍なく一段階ずつ強化してくれたな。あちこちメチャ中途半端な数値になってるが」
呟くジン。
この世界のどのケイオス・ウォリアーも、各部をチューンナップして強化する事はできる。
だがそれにも当然限度がある。その限界までを10段階に分割して考え、限度までの何割を改造したかを、この世界では「改造段階、〇段階目」という呼び方をしていた。
(俺にわかる呼称で助かった)
この用語はたまたま偶然、ジンが昔からプレイしていたゲームと同じだった。
機体の性能アップを確認してから、ジンは周囲の地形を確認する。
Cパンゴリンは陸上艦なので、できるだけ広い場所を通るようにしている。だから進行方向には遮蔽物は少ない。しかしここらは山がちな地形で、左右には山裾や森も見えた。
「左手側の森が近いな。トカゲどもと乱戦になる前に陣形も組める。あそこで迎え撃つぞ」
ジンの指示に『了解!』『ゲッゲー』『わかった』と、味方からの返事が届いた。
迫るトカゲにジン機と母艦が森の中から砲撃を仕掛け、傷つきながらも目の前に迫った個体をダインスケン機が斬り裂き倒す。
『騎獣砲座、撃てーっ!』
ヴァルキュリナの声からワンテンポ遅れ、高角度からの射撃がトカゲを撃ち抜いた。艦装甲表面を這いながら、ゴブオの騎獣が放ったのである。足場の無い装甲もカタツムリの腹足ならば移動は自在だ。
座席でハンドルを握り、ゴーグルつきの飛行帽そっくりな革兜を目深に被って、緊張した面持ちで周囲をきょろきょろと見渡すゴブオ。
(ヒー怖え、チクショウ! 楽してーなー)
その内心は不満たらたらだったが。
(ゴブオの奴も張り切ってるようだな……なんとなく旅は順調だ。こいつは……)
援護防護でナイナイ機を守り、そのダメージを修理してもらう。そして瀕死のトカゲに近接武器・アームドナックルでトドメをさした。
戦闘はすこぶる順調だ。勝利のために必要な事を着実に進めている、完全な勝ちパターン。
(……不安だぜ)
次々と動かなかくなるモンスターを前に、ジンは嫌な予感しかしなかった。
最後のトカゲが倒れる。こいつらもまた『資金』になるのだろう。
だが艦からヴァルキュリナが叫んだ。
『接近する物を感知! 敵増援の可能性が高い!』
(ふん。やっぱりな)
何もかもが順調な事など無いと思い込んでいたジンは、その連絡にむしろ安心する。
戦闘MAPに敵影が映った。しかし……初めて見るアイコンだ。
「あれは?」
「不死型ケイオス・ウォリアーの量産機だよ……まちがいなく魔王軍!」
リリマナの返事を聞き、ジンはスピリットコマンド【スカウト】を使うべく念じる。モニターに敵のステータスが表示された。
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Bシックルスカル
HP:4000/4000 EN:170/170 装甲:1200 運動:95 照準:145
HP回復(小)
格 ダガーショット 攻撃2500 射程1―4
射 デスサイズ 攻撃2800 射程P1
HP回復(小):一定時間ごとにHPが最大値の10%回復する。
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外観はまんまガイコツ兵士。表示された能力に溜息をつくジン。
「量産機のくせに自動回復能力って……しかもアンデットモチーフでか」
「モチーフだけじゃないよ。動力になる魔力もアンデッド作成の魔術を応用してあるんだ。だから乗ってる奴らも……」
リリマナがそう言うので、表示される操縦者の顔を見てみた。
なるほど――干からびたミイラが欠けた兜を被っている。不死の魔物という奴だ。
「さすが魔法のファンタジー世界。次々と化け物がでやがる。美少女は出し渋るくせによ……」
転移前に楽しんだファンタジー物では、次々と美少女キャラが出ては主人公に惚れて、その周りを埋め尽くしていろいろ楽しませてくれた物だが……
(三人チームで女は0.5人、一人追加でオスゴブリンときた。半裸コスの女はこの世界にいねぇのか)
溜息をつくジンのほっぺたにリリマナが軽い肘打ちを入れる。
「ちょっとォ! 私、けっこうイケてるつもりだよ?」
「全くだ! とりあえず張り切りますか!」
苦笑半分ヤケクソ半分、ジンは叫んで気持ちを切り替えた。
とは言っても戦い方は変わらない。森の中で地の利を活かし、近づくガイコツ型の敵機を叩く。
「無暗に反撃するな! 半端なダメージをバラ撒くより、一個一個確実に潰していくぞ!」
味方に指示を出して敵を撃ち抜くジン。
先のトカゲと戦って戦意が上がっている事もあり、また一段階とはいえ武器を強化改造していた事もあって、援護も加えた攻撃を撃ち込めばほぼ一発でスカルは撃破されていく。
(いけるぜ! 初見の敵機だが、まぁなんて事はねぇ)
苦境を乗り越えかけ、内心ではようやく一安心するジンだった。
だが……
『敵増援、さらに2機!』
母艦からヴァルキュナの有り難くない報告が届く。
正直、ジンは苛ついた。優勢とはいえ、敵増援がしぶとい不死型という事もあり、残弾はもう心許ない。
「おかわりいらねぇぞ! まぁ2機ならなんとでも……」
補給しながら戦えば乗り切れるだろう。
そう思ったジンだが、戦闘マップに現れた敵アイコンを見て一瞬言葉に詰まった。
「あいつ、この前の……!」
ようやく漏れたのはその呻き声。
敵の片方は間違いなく、最初の戦闘で姿を見せただけの白銀級機・Sフェザーコカトリスだったのだ。
もう片方は初めて見るアイコンだが――ジンはそれに【スカウト】を飛ばす。
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マスターオシュアリィ レベル10
Sネイルグール
HP:13000/13000 EN:200/200 装甲:1600 運動:100 照準:155
HP回復(中)
格 ポイズンネイル 攻撃3200 射程P1―1
射 ウィルオウィスプ 攻撃3500 射程2-6
格 ラストクロー 攻撃4200 射程P1―1
HP回復(中):一定時間ごとにHPが最大値の20%回復する。
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嫌な予感は的中した。
「ゲーッ!? 白銀級機が2機ぃ!?」
死刑宣告を受けた気がして、ジンは眩暈がしそうだった。
(ざけんな! 敵の強化速度が速すぎんだろが! 初回のボス戦が2機編成って……どうしろっつうんだよ!)
内心毒づく横で、ダインスケンが最後のスカルを斬り倒す。
それを見届けたか、新顔の敵機から通信が届いた。
『我ら魔王軍から逃げきれると思う方が愚かなのだ。貴様らの躯も機体の残骸も食らってやろう……魔王軍魔怪大隊最強の親衛隊・マスターオシュアリィがな』
妙にしゃがれた、老いた男の声。ステータス画面に表示されるのは、灰色の頭巾を深く被った容姿不明の相手だった。僅かに見える顎から、肌は皺だらけの灰色で髭が生えている事はわかる。
そしてこの敵が、自分達を見逃す気は無い事も。
鎧を纏い牙を剥きだす角の無い鬼といった外観の敵機……その目は欄々と輝いているかのようだ。
『ジン、どうしよう?』
ナイナイからの気弱な声。
「……とにかく下手に動くな。距離がまだある、修理はしておけ。後は……運を天に祈れ」
指示を出しながら、ジン自身も幸運を祈っていた。敵の動き次第では――まだ目があると踏んでいたからだ。
(果たして、そう都合よく行きますやら……)
そうでなければどうしたものか、と戦慄しながら。
機体解説
キャップギガントリザード
地球のクロコダイロモルフにそっくりな外見のモンスター。
ただし体長は成体で20mほどになるため、この世界ではケイオス・ウォリアーで対処するべき「大型モンスター」として認識されている。
この種は現魔王軍が活動を始めてから発見された新種であり、頭頂部にキノコの笠みたいなトサカがある。この種・このサイズのモンスターとしては珍しく群れで行動し、確認される限りほぼ全て他生物を攻撃しているため、魔王軍に品種改良された物だという見方がある。
Bシックルスカル
鎧を纏った骸骨兵士のような機体。巨大な鎌を装備し、隙間の多いボディに投擲用の短剣を10本ほど搭載できる。
自己修復能力をもつため、大きな欠損でなければ時間と共に欠けや亀裂が塞がっていく、持久戦型の機体。
その機能にコストと能力を大きく費やしているため、機体性能は決して高くは無い。また行動不能になるレベルで破壊されると修復能力も働かない。
Sネイルグール
角の無い鬼面と巨大な牙・爪をもつケイオス・ウォリアー。
機体内に腐食性の毒液を貯めており、それを分泌する巨大な爪で敵を内外から破壊する。
追尾能力を持つ鬼火を撃つ事もでき、敵を逃がさない。
また強力な自己修復能力を持ち、量産機ならば致命傷となるダメージでも比較的短時間で塞がってしまう。




