85 封印 8
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。合体形態・ザウルライガー。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
エリカ:オーガーハーフエルフの女整備士。
シランガナー:人造人間型強化パーツ・ファティマンの一体。
ゴーズ:元陸戦大隊長。なりゆきでとりあえず同行している。
Aルトネリコ:あったなそう言えば……。
リュウラが操艦して放った触手の一撃。
だがそれはジェイド機に片手で弾かれた。
だが直後、ジェイドの困惑した声が響く。
『なんだ、これは‥‥力が‥‥』
レイシェルは見た。
Uディケイウィザードの腕の、触手を弾いた所が白く煙を吹いているのを。
そしてモニターに映る敵機の戦意を。それが見る間に10低下するのを。
『いやホントにどうなってんの!?』
驚くオーガーハーフエルフのエリカ。
それにリュウラが答える。
『クラゲ艦の触手に流れる毒素の組成をいじった。私のアルケミスト呪文の魔力と知識を総動員すれば無理な事じゃない。この艦だとバイタルダウン‥‥活力減退の効果しか出せないけど、これで敵の強力な攻撃を封じれば‥‥』
そう言うやクラゲ艦が突進した。
エリカを押しのけ、今、メイン操縦席にはリュウラが座っているのだ。
防戦を続けるライガーの横を通り抜け、クラゲ艦はディケイウィザードへ触手を絡みつかせた。
『ええい、疎ましい!』
触手を引き千切り、ウィザードは再び【スーパーノヴァ】を叩き込む。焦熱光線に撃ち抜かれ、クラゲ艦は煙をあげながら宙で傾いた。
その艦の上を超え、上空からウィザードを強襲するオウキの鳥人型機Sフェザーコカトリス!
『破ァッ! 舞葬琉拳奥義・落陽血波!』
羽舞う中で繰り出される手刀。それがウィザードの装甲を切り裂く!
そして機体の魔力故に、裂かれた部分から変色し、石化した装甲が剥がれ落ちた。
『ええい!』
苛立ちながら再度放たれる【スーパーノヴァ】。
熱線の雨を避けきれず、コカトリスが吹き飛ぶ。
だが間髪いれず、艦から飛び出す機体が一つ。
『よっしゃあ! やっと出撃できたぜぇ! こうなりゃ最初からクライマックスってヤツだ!』
『貴様!? ゴーズ!』
驚くジェイド。
ゴーズが乗っているのはリュウラが乗っていた象頭の白銀級機。彼女が乗り捨てた機体を応急修理させ、とりあえず動くようにしたのである。
焦熱光線の流星がとぶ只中、機体に次々と穴があくにも関わらず、ゴーズは最大奥義を放つ。
『ストロンガーホーン!』
両腕が黄金に輝き、強烈な拳圧が放たれた。
それは熱線を弾き飛ばしながらウィザードを打った!
まぁ同時にゴーズ機も煙を吹いて倒れたが。
右腕は技の衝撃で吹き飛んでいる。無茶をさせ過ぎだ。
大ダメージによろめくウィザード。
それを見ながらレイシェルがここぞとばかりに突撃した。
そこへ満身創痍のライガーも大技を仕掛ける。
「スピンストーム!」
『ドリルフィーバー!』
竜巻を纏う刺突剣と巨体が繰り出すドリル。Sエストックナイトとザウルライガー、二機の攻撃がウィザードへ繰り出された!
それをまとめて吹き飛ばそうと、ジェイドは核撃の呪文を放とうとした。
だがその手に集まる魔力の光は弱々しく、球状にならない。
呪文を完成させるほどに戦意が高まっていない――正確には低下してしまったのだ。
クラゲ艦の触手の、活力減退効果によって。
『ええい! 面倒!』
怒りの声をあげながら、ジェイドは咄嗟に呪文を【スーパーノヴァ】に切り替えた。
六つの螺旋攻撃で機体を穿たれるウィザード。
だが拡散する焦熱光線で反撃を繰り出し、ナイトとライガーを貫き、吹き飛ばす。
衝撃によろめく二機――だがウィザードもまた全身から煙をあげながら、なんとか立っているという有様なのだ。
そこへ――ノブのムーンシャドゥが走った!
操縦席の中でジルコニアが叫ぶ。
『今だ! ここで畳みかけないともうどうにもならねーぞ!』
『心得ている! 魔王剣!』
叫ぶノブ。
シャドゥの持つ剣が深紅の輝きを放つ。
『ブレイブドライバー!』
その声に応じ、腰部のアイテム収納部から緑の輝きが漏れた。
それにも【スーパーノヴァ】を撃とうとするウィザード。
だがシャドゥの疾走は止まらない。むしろ加速を続け、銀の流星と化すようだ。
そして無数の熱線が撃たれる、その瞬間に、それよりも刹那の寸前に。
流星はその脇を駆け抜ける。
通り抜けざま、剣が一閃した!
無数の熱線は誰もいない空間を焼きはらった。
虚しく灼熱の流星を撃った後、ウィザードは、どう、と仰向けに倒れた。
シャドゥは魔王剣を下ろす。そして、ゆっくりと膝をついた。
一行のどの機体も破損が酷く、まともに立っている物は無い。
(でも、勝った‥‥)
レイシェルは背もたれに体を預け、深々と息を吐いた。
だが彼女は見た。
モニターに映るウィザードが、再び、ゆっくりと立ち上がるのを‥‥。
『なん‥‥だと‥‥』
オウキが呟く。悪夢のような、信じられない光景を前に。
しかしウィザードは立ったのだ。
『お‥‥の‥‥れ‥‥。許さん、ぞ‥‥!』
怨嗟の声は地獄の底から響くようだ。
その宝石のような頭部が輝いた。神蒼玉のように、深い青色に。
『ま、まだやるのか!?』
恐怖に引き攣ったエリカの声が通信機から漏れた。
しかし――ウィザードの光が、急に揺らめき、乱れた。
明滅を繰り返し、機体がよろける。
『‥‥ぐ、ぬ‥‥』
呻くジェイド。
そして、ウィザードの側に揺らめく灰色の膜が現れた。
ウィザードは倒れ込むように、その中へ消える。
膜もすぐに消えた――後には白々しく山頂の風が吹き抜けるのみ。
『どうなってんだ‥‥?』
戸惑うジルコニア。
レイシェルは呟いた。
「私‥‥なんとなく、わかりますわ」
設定解説
・クラゲ艦の触手に流れる毒素の組成をいじった
元々、触手には刺胞が並んでおり、敵に叩きつけて触れるなどの刺激を受けると刺胞から針が発射されて相手に突き刺さり、装甲を突き破ってダメージを与える構造になっている。
よって刺胞内の針から毒素を注入すれば、敵に悪影響を与える事ができる。
本来は艦内の弾薬庫で針へ劇薬を塗布して行う作業だが、この世界のアルケミスト系呪文には「毒素の雲」を作る呪文が豊富であり、同系統の魔法を高位まで習得しているリュウラは触手に呪文を通す事でバッドステータスの追加を行ったのだ。