19 死闘 3
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
最初に訪れた街を魔王軍の魔手から救った彼へ、恐るべき刺客が差し向けられていたが、
それを知らない彼は、輸送艦で今後のための戦力強化を考える――。
そして――翌日。
「あんまり気にするな。しても仕方ねぇ」
ジンがそう言っても、ナイナイは寝間着の襟を引っ張り、自分の胸を確かめていた。
大きな瞳に映る服の中の、控えめだが柔らかな双つの膨らみ。
また体が女になっているのだ。
昨日、戦闘が終わって帰艦した時には何時の間にか男になっていたのだが。朝起きるとまたこの状態である。
「寝たら女の子になっちゃうのかなぁ? 困るよ……」
瞳を潤ませるナイナイ。
ジンは困って頭を掻く。
「困るのは仕方ないが、今から特訓だ。そっちに集中してくれ」
そう言ってナイナイに背を向け着替えを始める。
ナイナイも溜息をついて、部屋の隅で壁を向きながら着替えを始めた。
部屋の左右に別れて設置された二段ベッドの、片方の上段で何かがモゾモゾ動く。
毛布を被ったゴブオである。ジン達についてきたので、自然と同室に押し込まれる事となったのだ。
毛布から顔を出し、ゴブオはナイナイの華奢な背中とその下の小ぶりな臀部を眺めて厭らしくニタニタ笑いだし、鼻の穴を広げて深く深く息を吸った。目を皿のように大きく開き、背中の横から胸が見えたら見逃すまいと凝視する。
(ウヒヒ、わかるぜこの匂い。本当にオンナになっているじゃねぇか。こいつァ朝からオスのソードも元気になりますのうw)
その首にダインスケンの尻尾が打ち込まれた。速度と衝撃はまさに強烈な鞭。
何も言わずもそもそと着替えるダインスケンの背後で、ゴブオは「ぐえ」と呻いて再び眠りについた。
その少し後。
三人はリリマナとともに、艦の一室へ移動していた。
そこにはケイオス・ウォリアーの操縦席と同じ物が数個設置され、その下には魔法陣。座席に前にはモニターが吊るされている。
ここは操縦訓練室で、座席はシミュレーターだ。機体のデータを送信する事で、様々な戦闘を疑似的に行う事ができるのだ。
その一つに座りながらジンは言った。
「ナイナイが余分に稼いでくれたとはいえ、今の資金じゃ気持ち程度のパワーアップにしかならねぇ」
「じゃ、準備するね」
あらかじめ頼まれた通り、リリマナがデータを入れていく。モニターに表示される機体データはBカノンピルパグのもの、映される敵機は先日戦った魔王軍の量産機達だ。
「こうなれば俺らの腕前でなんとかするしかねぇ。雑兵ぐらいなら相手できる自信もついたが――魔王軍には高ランクの機体に乗ってる奴がいるからよ」
ジンの脳裏に浮かぶのは、初めての戦闘で出会い、交戦はせずに去って行った白銀級機――Sフェザーコカトリス。あれが襲い掛かって来たら、自分達は今こうして生きていないだろう。
魔王軍にはあんな機体が何機もあるという。それと戦う日がいずれ来るかもしれない。
ゲームなら強い主人公機がさらにパワーアップしてクリアできるようになる筈だが――この世界の、魔王軍と戦っている勇者とやらがどこでどうしているのか。自分達の仲間になってくれるのか。そもそも味方なのか? その全てはわからない。
つまり、今頼れる物は自分達しかないのだ。
(この世で一番頼れないのが、だらしない能無しの「自分」だったってのにな……)
転移前を一瞬思いだしたが、すぐにそれを頭から振り払って二人に檄を飛ばす。
「内容は話した通りだ。今日中に一度は成功させるぞ。合体技・トライシュートをな!」
トライシュート――それがジンの考案した合体攻撃である。
単純な話、三機の射撃を同時に敵1機へ浴びせようという物だ。三方からの射撃を避けきるのは難しく、当然、当たれば被害も大きい筈だ。
しかし他人の攻撃に続いて後から撃つのと違い、「トライシュート」の指示が仲間から出たら迅速に合わせなければ「同時」にはならない。どの敵を狙うかもすぐに読み取らねばならないし、だからといって戦闘中に動きを止めるわけにはいかない。
敵も味方も常に動いている――実際に同時攻撃を仕掛ける際に、これが大きな壁だった。
(だから練習するんだよ。昼飯までにコツぐらいは掴めれば――!)
モニタに仲間二機が映し出される。迫る映像上の敵軍。環境は整った。
「先ずは俺から指示を出す。成功したら次はナイナイ、そしてダインスケンだ。誰からでもいつでも発動できるようにな――先ずは一歩だ!」
叫ぶジン。
三機が敵軍に突撃し、矢と砲弾が交錯する。
その最中、ジンは敵のうち一気に目を付けた。
「トライシュートォー!」
三方向からの射撃に貫かれ、敵のBソードアーミーが爆発した。
「あ、できたね」
「さっすがァ!」
喜ぶナイナイ。その頭上で喝采をおくるリリマナ。
「初回一発だと……スジが通らねぇ……。このシミュレータ、何か誤魔化してんじゃねぇのか」
茫然と呟くジン。
「ゲッゲー」
ダインスケンが鳴いた。
その後、指示出しをナイナイに、ダインスケンにと変えてみた。
特に問題無く成功し、その度に敵機が爆発した。
ジン自身も驚いたが――他の二人からの指示や動きに合わせて動くのは、意外と簡単だった。難易度が低いわけではない筈だが、なぜかスムーズにできたのだ。
上手くいきすぎて逆に納得できないジン。
「ま、まぁ……実戦だと衝撃や疲労がまた違うだろうからよ」
「あ、ホントだ。いつでもできるわけじゃないみたい。必要戦意110って表示されてるよォ」
リリマナがモニターを指さした。既に武器として表示されており、使用条件まで出ている。
(え……マジでデータに反映される所まで完成しちまったのか)
ジンの胸には不安しかなかった。
その後も何度か練習した後、食堂で昼食をとる。
ある程度好きにトッピングしていいパスタを喜んで食べるナイナイとリリマナ、とにかく量を盛るダインスケンとゴブオ。彼らの横で、ジンだけは難しい顔をしていた。
(何一つ悪い事が起きねぇ……そんな事がこの世にある筈ないんだがよ)
胸中は今日という日への不信感が膨れ上がるばかりだ。
その考えは、捻くれてはいるが間違いではない。
食事が終わるや、休憩の間もなく急かすように、艦内に警報が鳴る!
一転して緊張するナイナイ。
「ジン、何か現れたみたいだよ!」
「チッ……とにかく行くか」
舌打ちしながら格納庫へ走るジン。
実はちょっとだけ、不穏になった現状に奇妙な安心を覚えていた。
IインパクトのEステバリスを「弱い」と言ってる奴はエアプ。
NAデシコの側にさえいれば毎ターン合体技を全員でブッパできるのに、攻撃力不足が慢性的なあの作品で弱いわけがない。
ENと武器を改造しろ!避けるも耐えるも微妙だから機体性能も全部だ!
アカツキとかいう奴がいたようないなかったような気もするが、まぁ奴だけはどうでもいいだろう。




