62 潜伏 1
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。
エリカ:オーガーハーフエルフの女整備士。
シランガナー:人造人間型強化パーツ・ファティマンの一体。
MA神竜バリオン:Jャンプ繋がりでMAジンガーと共演できない事もないだろ。SUパロボに参戦希望。
目が覚めたレイシェルは、いつもと違う部屋で寝ている事に気づいた。
戸の隙間から日光が入るようだが、窓が閉められているため室内は暗い。
レイシェルは身を起こし、照明の呪文を唱えた。
「【光熱の領域、第一の段位。白い光は輝く。輝きは穏やかに辺りを照らす】――ライト!」
光そのものの球が生まれ、部屋の中を照らし出す。
飾り気の無い木製の部屋。寝ていたのはベッドではなく布団。
右隣の布団には大きな胸を上下させて豪快にイビキをかく、オーガーハーフエルフのエリカ。
左隣には寝具もなく直立姿勢で横たわっている、ファティマンのシランガナー。
(どうして艦の中では無いのかしら?)
不思議に思いながら窓を開ける。
涼しい空気が入り、穏やかな陽の光に照らされた緑の山々が見えた。山間を大きな川が流れている。
かなり奥深い山中にいるようだ。
部屋の戸が開いた。そこにいたのはノブだ。
「ここは‥‥どこですの?」
彼に訊くレイシェル。
「隣国ミノーだ 。初めてか?」
ノブの返事を聞き、レイシェルは再び窓の外を見る。
「来た事はありますけど、こんな山奥ではありませんでしたわ」
ミノーもまたスイデンの隣国だ。接する国境線は短いが、交流はある。
レイシェルも実家の付き合いで何度か訪れた事はあった。
だがそれは全て都市部。賑わう街と、その中にある名のある貴族の屋敷のみだ。
「まあ都市部と山間部の差が激しい方の国だからな。古来より山中に寺院や修行場の多い地なんだが、そんな一面を知らない者も多い」
ノブも窓の側に来て、柔らかい光の下の山々を眺めた。
ふとレイシェルは気づく。
今いる建物が見下ろす川。そこに着水し、クラゲ艦Cオーウォーが浮いているのを。
破損は酷く、モヒカンエルフの作業員達が既に修理に着手している。
「昨日の戦闘後、辛くも逃亡には成功した。ただ真っすぐ封印の地に向かっても追いつかれるのは確実。だから師匠の旧い知人がいるここで匿って貰ったんだ」
修理を眺めながら言うノブ。
レイシェルはほっと安堵の溜息をつく。
「ではみんな無事ですのね?」
「ああ。疲労が濃いので、一旦みんな下船してもらったがな。君は帰艦した途端に疲れて倒れていたし、ここに着いた時もまだ寝ていたんで、エリカにこの部屋へ運んでもらった。ただ‥‥オウキだけ、行方不明だ」
それを聞いてレイシェルの顔色がサッと変わった。
「そんな!? 彼は確か‥‥」
自分が回収した筈だ、と言おうとした。
何度も自爆の起こった、黄金級機のいた場所のすぐ側。
そこに転がっていた、脱出した座席の側で倒れていた男を、確かに拾ったのだと。
だがそこへ乱暴な大声が響く。
「おらァ! やんのかテメエら!」
それを聞いてノブが溜息をついた。
「面倒な奴が騒ぎ出したか」
部屋を出て廊下を行くノブ。
それに小走りでついて行きながら、レイシェルはここが何かの寺院の中だと見当をつけた。
着いた先は広く大きな部屋で、板張りの床に布団が並べられ、モヒカンエルフ達と修行僧と忍者が大勢集まっている。
その中央で、歯を剥きだしにして周囲を睨みつけている、隻眼の大男が一人――。
「ええ? この人は?」
男を見て驚愕するレイシェル。
モニター越しにしか見た事が無い相手だが。
陸戦大隊長ジェネラル・ゴーズだった。
ゴーズは声を聞きつけてレイシェルを見る。
「おう、お嬢ちゃんが俺を助けて連れて来たんだってな」
「えええ!?」
レイシェルは大声をあげて立ち尽くした。
自爆が繰り返された地点で、レイシェルがとっさに拾った男。
それはこのジェネラル・ゴーズだったのである。
ゴーズを囲む修行僧の一人が身構えながら言う。
「ともかく大人しくしてもらおう」
「こいつらが俺の首をとろうかとか言いやがるんだがよ?」
ゴーズはノブとレイシェルへ言った。
忍者の一人もトンファーを構えながらノブに訊く。
「こやつ、魔王軍でしょう? しかも大将格だそうで」
「ヒャッハー! 大物殺しだー!」
斧を振り上げてモヒカンエルフの一人が叫んだ。
ニヤリと笑って身構えるジェネラルゴーズ。
「俺の首をテメエらがとれる気か。面白え!」
「ちょ、ちょっと! やめなさい!」
一触即発の中、レイシェルは叫ぶ。
それを聞いて、ジェネラルゴーズは――
「チッ、仕方ねえな」
そう吐き捨てて布団の上にあぐらをかいた。
「なんだ。お嬢の言う事は聞くんだな」
彼の頭上をひらひら飛ぶジルコニア。
ゴーズは肩を竦める。
「しゃあねえだろ。負けちまったんだから認めてやるしかねぇ」
「私達が貴方を倒したわけじゃありませんけど‥‥」
レイシェルは首を傾げる。
そんな彼女にゴーズは言った。
「部下の裏切りで自滅したのはこっちの都合だ。俺とて相手の都合で隙ができても容赦せずブチのめしてきたからな。自分の時だけノーカンにしろとは言えねぇだろ」
何を言い訳しようが倒れた奴が負け。
彼なりのルールがゴーズにはあるのだ。
ゴーズが大人しくなると、周囲の修行僧と忍者も、警戒しながらも攻撃はしかけないようだった。
モヒカンエルフ達は不服があるようだったが、彼らだけで攻撃に移る事もない。
修行僧の一人がレイシェルに訊く。
「いかがなさるのか?」
(なぜ私が決める流れですの?)
そう思いはしたが、レイシェルは少し考えて場を収めようとこう言った。
「見ての通り、戦意を失っている相手ですし‥‥それをよってたかってというのは、武人なら控えるべきではと思いますわ」
「むう‥‥」
顔を見合わせる修行僧と忍者。
しばらく迷いはしたようだが、全員、武器を納める。
モヒカンエルフ達は舌打ちしつつ、一応は武器を下ろした。
そんな部屋の中、なぜか呆れるゴーズ。
「なんとも甘いな」
それに頷きはしつつ、ジルコニアが言う。
「オッサンが舌噛んで死ねば八方丸く収まるんじゃね」
ゴーズは肩を竦めた。
「だろうがな。俺に俺以外を収めてやる義理はねぇ」
修行僧と忍者――この寺院の住人達だ――とモヒカンエルフに囲まれた中、レイシェルが自分を助けた経緯を聞き、ゴーズは腹を抱えて笑った。
「なるほど! 俺をマスターウィンドと間違えたわけか」
なんともやるせない空気の中、ゴーズだけはそんな事は知らんとばかりに可笑しそうだ。
ジコルニアがレイシェルの傍まで飛んで来る。
「どうするんだ?」
そう言われても、レイシェルは何も思いつかない。
渾身のミスに己の頭を痛めるばかりである。
だがゴーズが「よっこらせ」と言いながら立ち上がった。
「なら助けられた借りを返そう。ここの正確な場所を教えな。隠し倉庫か砦跡か、魔王軍の物資をギッてこれる場所を教えてやる」
戸惑って顔を見合わせる、修行僧と忍者。
一方、モヒカンエルフ達の顔は喜色に染まった。
「ヒャッハー!」
斧を振り上げて陽気な声をあげる。
頭が痛いレイシェルを眩暈まで襲った。
設定解説
・武人なら控えるべきではと思いますわ
修行僧は武術と超能力魔法を通じて心身を鍛える者達であり、武人といえよう。
忍者は隠密行動と戦闘技術と盗賊系技能を学ぶ者達であり、武人と言えるかどうかは意見の別れる所だ。
この場のモヒカンエルフは乗り物の修理工達なので、武人と言うには非常に難しい所だ。