15 戦火 7
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は己に備わった能力と心強い仲間の協力で、世界を席巻する魔王軍に敢然と立ち向かう。
旅を始めて最初に訪れた街を魔王軍の魔手から救った彼は、
捕虜にした魔物どもと共に救助活動へ手を貸した――。
捕虜にした魔物どもは案外言う通りに働いた。絶体絶命の状況から生還できる望みができれば、少なくともこの場は従順にもなる。もちろん喜んで働くわけではないが、それでも助力としては十分。
日が傾く頃には、街の救助活動は随分進んでいた。
光源を作る魔法もあるので、救助や瓦礫の除去は夕刻以降も行われる。しかし人の体力は有限。夕食を境に作業員の交代は行われた。
自然、昼から動いているジンも作業終了となる。
(ま、それなりに役立ちはしただろう。後は街の人に任せるしかねぇな)
そう思って母艦に引き返そうとしたジンだが、領主の兵士に呼び止められた。
『聖勇士殿、領主様の館にくればせいいっぱいのもてなしをするとの事です。酒も女も用意すると』
申し出に内心喜んだジンだが、それも一瞬の事。酒を食らって女をあてがわれたら、少なくとも今日はここに泊まる事になる。
(呑み明かして夜は性勇士! 出発は明日の昼な!……は、まぁ許されんだろ)
ヴァルキュリナが母国とどう話をしているのかは知らないが、話が通るとは思えなかった。
というわけでジンは遠慮する。
「実は先を急ぐ任務の途中だからな。そこまではいらんよ」
だが兵士は勿体無さそうに食い下がる。
「良い嬢を呼びますよ。私もお気に入りの」
「いや、いらねぇから」
女を斡旋するのはお前かよ……と内心思いながら断るジン。
だが兵士は勿体無さそうに食い下がる。
「たわわでたまらん娘ですよ」
「いや、いらねぇから」
それ肥えてるパターンじゃないのか……と内心思いながら断るジン。
だが兵士は勿体無さそうに食い下がる。
「今夜なら他の指名全ブッチさせて独占ですよ」
「いや、いらねぇから。ここで飯食っていけ、ぐらいなら世話になるが」
話聞いてんのかコイツ……と内心思いながら断るジン。ただし晩飯ぐらいは食わせろ、と暗に要求。
(話を変えないとなかなか終わりそうにねぇ。まぁメシの方ならいいだろ)
そう思いつつの言葉だったが、兵士は何やら感心したようだ。
『なんとも無欲で高潔な。わかりました、食事の方をすぐに用意させましょう』
街の広場に設けられた、救護班の休憩所。
そこに簡易テーブルと、それに似つかわしくない料理の山が並べられた。半壊した街の真ん中ゆえにさほど高級なメニューではないが、皿は多いしそれだけ品数も多い。当然のように酒も出た。
(艦に帰れる程度になら呑んでもいいだろ)
ジンはそう割り切り、簡易テントの屋根の下、好き放題に料理をかきこむ。特にチャーハンそっくりの米料理は酒とも相性が良く、野菜や肉類も混ぜられていたので、もうそれだけで晩飯になるほどだ。他の皿もつまみ代わりに適当に取り、仕事は終わったのだからと酒も瓶ごと渡してもらう。
(柑橘系の果実酒か。美味い……けどあんまり酔わないな)
ジョッキで呷りながらのジンの感想。アルコール度数が低いのか、何杯か呑んでもほろ酔い程度だ。
それならそれで良いか、とジンは瓶の追加を救護班に頼んだ。
焼け出されて食うや食わずの難民への遠慮――そんな物はジンには無かった。
彼らの救助を手伝った自分が腹いっぱい食って何が悪いのか。これは領主からの報酬ではないか。自分がすきっ腹を抱えても難民が満腹するわけでもない。
顔も名前も知らない人々の苦痛をわざわざ共有して自己満足で完結してやるほど、ジンは聖人君子ではないのだ。誰がどう勘違いしようと、それが本来の気性である。
ジンが好きに呑み食いしていると、ほどなくナイナイとダインスケンもリリマナを連れてやってきた。
「ジン、お疲れ様!」
「あー、一人でいっぱい食べてるゥ!」
「ゲッゲー」
仲間へ陽気に笑いかけるジン。
「おう、お前らも食えよ」
実際、一人では到底食べきれない量だ。それに追加を頼めばすぐもってきてもらえる。この世界・インタセクシルでも、豪華なコースは量も伴うものらしい。
三人で遠慮なく食べていると、テーブルに寄って来る者があった。
見れば……ジンが剣を譲ってやった新米冒険者の少年だ。
「こんばんは」
彼は緊張した面持ちで一礼する。
「おやま。また会ったな」
何杯目かの酒を片手に、上機嫌なジン。それに少年は眩しそうな視線を向ける。
「聖勇士だったんですね、貴方達は。おかげで街も俺達も救われました。ありがとうございます」
それを聞いて、彼らもケイオス・ウォリアーを持っていた事、それが撃破されてしまった事を思い出した。気分が沈み、さほどでもない酔いが冷める。
「君らの機体は壊れちまったな……」
「でも冒険者はやれるし……金貯めて修理しますよ」
そう言って笑う少年には明らかに無理が見てとれた。
駆け出しの彼らにとって、強敵への切り札がある事は大きな支えだった。それが出鼻を挫かれる形になってしまったのだ。
「なんとか直してあげられないかなぁ……」
ナイナイが呟く。
ジンとて気の毒には思うが、修理費を出せるほど金は無い。だが世に出る若者が善意で戦い、一方的に損を被るのも納得し難い。なんとかしてやれないか、と考え……一つひらめいた。
「なぁ、兵士さん。彼らも街を防衛するため戦ってくれたんだ。それで壊れた機体があるんだが、修理費を補填するよう領主さんに打診できねぇか?」
金が無いなら他に出してもらえないか。そう考えて兵士に訊いてみるジン。
兵士は朗らかな笑みを浮かべた。
「はい、了解しました。聖勇士ジン殿からの申し出だと伝えれば大丈夫かと!」
(どうやら上手く行きそうだな)
安堵するジンの側で、少年は感激したようだ。
「本当に助かります! ずっとこの街にいてくださればいいのに……」
(人の金で感謝されるのもおかしな話だが……まぁ喜んでくれてるならいいか)
「そう言うな、俺も雇われの身でな。まぁお前も食えよ」
言いながらジンは少年に一皿勧めた。
だがそこへドヤドヤと魔物の兵達がやってくる。リーダー格のオーガーが大きな頭を下げた。
「ジンさん、終わったっス」
だがさっきまでは穏やかだった兵士が、一転して険しい顔で怒鳴った。
「お前らは夜間も通しだ! 街の人間を死なせておいて命を助けてもらおうと思うなら身を粉にして働け!」
魔物達は不満と怒りに顔を歪める。だが逆らう事のできない立場なのはわかっていた……だからただ歯軋りするだけだ。
「つっても役立たずのデクになられても使えねぇだろ。メシぐらい食わせてやれ」
ジンがそう言ったのは、兵士が間違っていると思ったからではない。むしろ正論だと認めていた。
だが救助は成功しないと意味がない。ならば消耗したまま飲まず食わずで働かせるのは悪手ではないのか――そう考えて体力を回復するチャンスを与えたのである。
「おいお前ら。この残り物でさっさと済ませな」
そう言ってテーブルの上を指さすジン。魔物達になんとか行き渡る程度はまだ残っている。
だがリリマナは顔をしかめた。
「えー。こいつらにあげるの? 捨てた方がまだマシじゃない?」
(たかが残飯ぐらい、いいじゃねぇか……)
ジン自身はそう思う。だがこの世界の住人であるリリマナの感情を否定する気はなかった。敵対する種族同士の根がどのぐらいの深さなのか、よくわかっていないという自覚があるからだ。
実際、根は深いのだろう。
そのせいで逆に兵士がまた胸を打たれている。
「聖勇士殿……どこまでも慈悲深い……」
(たかが残飯ぐらいで、またそれか……)
わざわざ否定はしないが、ジンは少々うんざりしかけていた。
しかし胸を打たれたのは兵士だけではない。
オーガーが泣いた。泣いて骨つき肉をあっという間に平らげ、遠慮もクソもなく救護班におかわりを要求する。
オークも泣いた。泣いて酒瓶を掴み一気呑みする。ジンが何本空けてもさして酔わなかったのに、そのオークは倒れて寝てしまった。
ゴブリンも泣いた。泣いてピザかお好み焼きかのような料理を一皿がっつき、そいつは大きな声をあげた。
「聖勇士様! 昨日までのオレは死にました! 明日からは貴方様のために生きたいです! 子分、いや下僕として連れて行ってくだせぇっス!」
(えー……)
げんなりするジン。ゴブリンから視線を逸らし、兵士に訊く。
「コイツ……連れていっていいのか?」
兵士は姿勢を正し、敬礼までした。
「はい! 聖勇士殿に差し上げます! 真の勇気と慈悲が、下劣な魔物でさえ浄化するやもしれません!」
(そんな物がここにあるわけねぇだろ……)
兵士の目に映る美しい世界に反し、ジンの心は眩暈とともに暗く沈むようだ。
そして――実の所、世界はそんなに美しいわけでもなかった。
ゴブリンはへこへこ頭を下げながら、胸の内ではほくそ笑む。
(浄化ァ? ケッケッケ……阿呆め。ここにいても強制労働させられるだけじゃねーか。釈放されるまで我慢しても、魔王軍に帰れば負け犬兵士として処刑か奴隷。野良モンスターに戻っても、人間の冒険者から逃げ回って田舎を荒らす程度の惨めなその日暮らしよ。だったら……これから成り上がるかもしれない見込みのある奴相手に、おこぼれ狙いで足ナメておくのが利口ってモンだよなァ?)
人間達と魔物が延々と戦い続けてきた流れの上に、この世界のこの時代の文化や価値観がある。
低級な魔物へ人間達の態度が辛辣なのは、まぁ、そうなるべくしてなっただけなのだ。
悲しいかな……あるいは良い事なのか。ジンはこの世界の新参なので、そこら辺がまだ実感できないのである。
済んでから考えても仕方の無い事だが、もしかして今回の展開は
ゴブリン(美少女)にして
ガチで主人公に改心させられて
「主人公様ステキ過ぎです!惚れました愛してます!正妻なんて贅沢言わないからSEI奴隷にしてください!」と吠えさせて
残りを淫語の隠語で埋め尽くさないといけない所だったのか……?
全く、ワシの頭ときたらハニワ兵士レベルじゃわい。