39 旧敵 1
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。
ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。
オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。好きな酒は中国殺人拳で使われていた百年ものの老酒。
一行の旅は空へと切り替わった。
レイシェルも艦の一室を貰い、そこで寝泊まりしてる。
そして空の旅の途中、レイシェルはまた前世の夢を見た。
いつものように、とりとめのない異世界の光景。
何人もの「王子様」が、モニターの向こうにいる。
映し出される、幾人もの王子様。彼らは星の海で出会い、共に力を合わせ、そして別の王子様達と戦っていた。
巨大なロボットに乗って。
光の剣で斬りあい、光線と弾丸が互いを狙いあう。
(え? え? なんで? なんで私の前世にそんな兵器が? いや、この世界にはケイオス・ウォリアーがありますけど。私も乗ってますけど。え?)
混乱の中で目覚めるレイシェル。
その日の朝、皆は今後の相談をするためブリッジへ集まる事になっていた。
部屋を出たレイシェルは、隣の部屋から出て来たノブを見つける。
「おはよう。ねぇ、ノブ。おかしな事を聞きますけど‥‥別の世界から生まれ変わる、なんて事、あると思います?」
「記録されている限りでは無いな」
ノブはあっさりそう答えた。
異界人を召喚する魔法が盛んながら、この世界インタセクシルには異世界から転生したという明確な記録は残っていない。
召喚されない限りは逆に世界の壁を超えてここに来る事はできない――というのが、この世界の魔術師達が出した定説となっている。
「そう‥‥ですわね」
頷くレイシェル。
自分の前世について誰にも話した事が無いのは、そういう認識が一般的だからでもある。
(私自身は概ね自分の前世を信じてますけど、だからといって私の異界流が強いなんて事もありませんし‥‥)
気持ちを切り替え、レイシェルはノブと共にブリッジヘ向かった。
雲の下を漂うクラゲ艦の中、一行はブリッジで今後の相談をする。
「元騎士団の連中はともかく、魔王軍の改造魔獣は厄介だ。流石に無改造では厳しくなってきたな。そろそろ強化するか」
ノブは手元の結晶板――これはケイオス・ウォリアーのモニターとほぼ同じ物で、様々なデータを記録・参照できる――を眺め、そう言った。
モニターに映っているのは、現在の資金だ。
「今の資金で、どこまで可能ですの?」
疑問を口にするレイシェル。
『自分はこれまであまりお金を貰わなかったので、さほど力になれんであります。もちろん、今持っている資産は全て渡しますが』
ドリルライガーはそう言った。
彼はブリッジに入れないので格納庫にいるが、ブリッジでの話には映像つきの通信で参加しているのだ。
彼が映るモニターに、ノブは顔を上げて礼を言う。
「ありがとう。元から一機ぐらいなら余裕でフル改造できる金額はある。ライガーからの譲渡分もそこに加えさせてもらおう」
「え? そんな額がいつ貯まりましたの?」
レイシェルは首を傾げた。
当然のように言うノブ。
「元からと言ったろう。君と会う前からだ」
「はい?」
ますます混乱するレイシェル。
それにノブは説明する。
「いわゆる周回ボーナスという奴だ。大賢者トカマァクの下から旅立った弟子は、僕の前に何人もいたからな」
師匠から使命を受けて旅に出た、歴代の兄弟子達。彼らの大半は大なり小なり使命を果たし、師の下に帰還した。
その際に旅で得た物は、全てではないにしろ次の世代のために残されてきたのである。
「もちろんCOCPや、アイテム、スキル本の作成ノウハウも周回ボーナスとして継承している。ここらの制作もそろそろ本格的に考えたい時期だろう」
腕を組んで考えるノブ。
しばらく固まっていたものの、レイシェルは呻くような声を出した。
「あ‥‥え‥‥それだけのリソースを持ってて、今まで無改造で強化パーツもほぼ無しで戦ってましたの?」
今さら何を、と言った口ぶりでノブは答える。
「前にも言ったろう? 必要な物を見極めるまで温存していたと。この旅の目的のため、君を守らねばならないからな」
「ありがとうですけどね! 流石に程度というものがありますわ!」
レイシェルは怒鳴った。
まあそんな怒りは気にせず、ジルコニアが頭上から声を投げかける。
「おーい、砦からギッてきたブツも早く換金しようぜ。瓦礫の下から掘り出したからそのまま使える状態の物は無いけど、目方で売れば金にはなるだろ」
頷くノブ。
「最寄りの街へ向かうか。空を飛べる今、どこが一番近いのか‥‥」
「ふむ。調べてみるか」
オウキはそう答えるとシートの脇にある操作盤でモニターの表示を切り替える。
そこに周囲の地図が映った。
行き先を決めるのはオウキに任せ、ノブは再び考える。
「どこへ行くにしろ、今戦力になる三機はとりあえず5段階ほど改造しておこう。これでカスタムボーナスも付けられる」
当たり前のようなその言い分を聞き、レイシェルはこめかみを押さえた。
(ひょっとして、これまでの戦いはもっと楽勝だったんじゃないかしら‥‥)
カスタムボーナスーーこの世界のどのケイオス・ウォリアーも、各部をチューンナップして強化する事ができる。
機体性能に関わる能力を全て5段階改造すると、能力がより特化・強化され各機体個別の強化能力がつく。この世界ではこれを【カスタムボーナス】と呼ぶ。
10段階でさらに別の能力がつく。
そこへモニター越しにライガーが意見を出す。
『前回の苦戦を踏まえて、空への対抗策が欲しいであります』
頷くノブ。
「良い案だ。飛行用の地形適応パーツを作るか。【フライトアジャスター】‥‥強化版のSにすれば移動力も上がるな」
その名の通り、ケイオス・ウォリアーに装備させて空を飛べるようにするパーツだ。
羽根が生えるわけではなく、浮遊系の魔法で空中を移動できるようになるシロモノである。よって通常の物は移動速度の向上には繋がらない。それに飛行系の魔法も加えて移動力のアップも見込めるようにしたのが【フライトアジャスターS】である。
本来なら作成ノウハウ自体が希少な物だが、これも先代までの兄弟子達が残した情報には含まれていた。
「シシシ‥‥昔はあれ装備したら移動タイプ自体が上書きされて、地中に潜れなくなったりしてたな」
ジルコニアが茶化すように笑う。
「今造れる物にそんな欠点はない。さっそく用意しておこう」
あっさり言うノブ。
(やっぱり楽勝だったんじゃないですの!)
少々歯軋りしながら思うレイシェルであった。
そんな彼らにオウキが声をかける。
「次に向かう町だが。近ければいいならニスナリ山となるな」
「山? 山中の町という事ですの?」
怪訝な顔をするレイシェルにオウキは頷く。
「エルフの集落がある。フォンバシの街から移り住んだ連中だ」
「え! あそこから?」
驚くレイシェル。
フォンバシの街は森の中にあるエルフの都市だ。昔からマジックアイテム作成で有名な都市であり、エルフの職人も多い。
そしてその流れでケイオス・ウォリアーの作成も盛んであった。クイン公爵家のケイオス・ウォリアーもそこで製造・購入したものなのだ。
しかし‥‥そこから別れて山中にできた集落があるとは初耳である。
(でも、まあ‥‥フォンバシにはクイン家と長年の付き合いがある、信用できる職人の方々もいる街ですし。元そこの人達だというなら安心でしょう)
多少戸惑いながらも、レイシェルはそう結論づけた。
この時点の各キャラクターの設定レベル
ノブヒコ=アキカゲ レベル24
格闘196 射撃196 技量218 防御159 回避142 命中141 SP103
スキル:ケイオス5LV 超能力5LV SP回復 精神耐性
レイシェル=クイン レベル21
格闘176 射撃187 技量206 防御148 回避130 命中130 SP100
スキル:ケイオス1LV 底力3LV 援護攻撃1LV
ドリルライガー レベル24
格闘197 射撃183 技量214 防御175 回避119 命中136 SP97
スキル:ケイオス3LV 底力3LV ヒーロー2LV