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異世界スペースNo1(ランクB)(EX)(完結編)  作者: マッサン
第2次 烈風復活編
144/353

38 暗躍 5

登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)


レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。

ノブ:地上最強の霊能者。

ジルコニア:ノブに同乗する妖精。

ドリルライガー:ドリル戦車に宿ったエネルギー生命体。

オウキ:元魔王軍空戦大隊の親衛隊。核戦争で荒廃した世界から来た拳法家。

 暗雲の下に、煤け、ひび割れ、穴の開いた尖塔がある。戦いによって無残に砕かれた尖塔が。

 尖塔だけではない。砦全体が同じような有様だ。はた目には廃墟としか見えないだろう。

 これが以前はコノナ国最強と謳われたガデア魔法騎士団の砦だと、誰が信じるだろうか。


 だがこの砦には、まだ住人がいるのだ。

 叩きのめされた本来の住人達と、それの上に君臨する支配者達が。


 支配者の頂点に立つ男は中庭にいた。

 身の丈2m、黄金の鎧を纏った屈強な大男。

 歳の頃は三十前後か。乱れた灰色の髪と太く荒々しい眉が男の野蛮さを隠す事なく醸し出す。

 凶悪な笑みを浮かべる野獣のような顔の、左目は古傷で縦に切られて潰れていた。

 この男こそ魔王軍陸戦大隊長ジェネラル・ゴーズ。


 ゴーズは部下の兵達に飯を振舞っていた。

 焼き鳥である。大きく切り分けた肉を何個か串に刺し、焚火で焙って食わせているのだ。

 串を手に酒を煽り、下級の魔物どもが品の無い馬鹿話と馬鹿笑いで場を満たす。

 鳥肉は十分にあった。

 ゴーズの後ろに――屠られた怪鳥が。

 無残に頭を潰されてはいるが、体を見れば、バルーンフリゲーターである事は明白。


 ノブ達が集団で倒したこの怪物を、ゴーズは一人で、酒のつまみにするため仕留めたのだ‥‥。


 酒瓶を手に、部下の老人――マスタージェイドが報告する。

「元騎士団のジルドは破れたようですな。遺体は確認されていませんが、崩壊した砦から脱出できた様子は無いと」


 ゴーズは酒を煽ってから、実につまらなさそうに言う。

「ダメだったか。ま、万が一見かけたら適当に処刑しとけと部下どもに伝えろ」


 (こうべ)を垂れるマスタージェイド。

「そういたしましょう。それよりも、こちらから裏切り者が出ました。オウキというのですが‥‥」

「知らねぇ奴だな。ま、そいつも見かけたら処刑だ」

 興味を示さず、ゴーズはまた酒を一口。


 だがマスタージェイドは続ける。

「魔王軍では親衛隊の一人であり、マスターウィンドと名乗っていた男です」

 ゴーズが酒瓶から口を離す。

「そいつは、確か‥‥いや、ありえねぇだろ? こっちの目当てはクイン家の娘だろうが? なぜそいつらが手を結ぶ?」


 言われたマスタージェイドも首をかしげた。

「さあ‥‥マスターウィンドは我らに殺されぬためでしょうが、よくもまぁ、スイデン国の者が受け入れたものです」


「そうすると、クイン家の娘ってのは相当なやり手なのかもしれねぇな。過去にどれだけ自分らに煮え湯を呑ませようが、今使えると判断すれば味方にするっていうのか‥‥。乱世を生き抜くためには結構な事だが、普通、そこまで割り切れるもんじゃねぇ」

 焼き鳥を口にしながら、ゴーズは感心したようだ。

 厳つい顔を綻ばせ、ニヤリと笑う。

「意外と、面白い女なのか。小娘だと聞いていたが‥‥」


 どこか楽しそうなゴーズに、マスタージェイドは告げた。

「一応、次にクイン家の娘捕獲に向かいたいと申し出た者もおりますぞ」

「ふうん? まぁ見てみるか。どいつだ」

 それにはさほど興味はないようだったが、一応、ゴーズは聞いてみる。


「ここへ」

 マスタージェイドが後ろに呼びかけると、元ガデア魔法騎士団の一人が進み出てきた。

 女性である。

 ショートカットの青い髪、青い瞳。少し長めの耳がのぞいている。

 やや細身の体格は決して大きくはないが、背には長い槍を背負っていた。


「こいつか。どの程度の腕かは知らんが‥‥」

 少女を見るゴーズの目には一欠片の期待も無い。

 元々、自分が一蹴した騎士団の構成員、しかもこれまで差し向けた者は何も成果を出していないのだ。仕方のない事である。


 そんなゴーズに、少女は静かな声で言った。

「腕を疑いなら、今、お見せしてもかまいません」

 声にも目にも、恐れや不安は全く無い。

「ほう? 言うじゃねぇか」

 そう言うゴーズに、気を害した様子は無かった。むしろ楽しそうでさえある。


 マスタージェイドは側にいるオーガーへ声をかける。

「お主、やってみい。勝てればこの娘を好きにしてかまわんぞ」

 オーガーは頷き、齧りかけの肉を置いて立ち上がった。「ウェヘヘ」と歪んだ笑みを浮かべ、牙の生えた口から涎を垂らす。

 少女へ向けられた目は欲望に――食欲か、性欲か、その両方にか――爛々と輝いていた。



 断末魔があがった。

 獣そのもののような、聞くに堪えない苦悶の声が。



 少女はジェネラルゴーズへ訊く。

「まだやりますか?」

 無残に焼け爛れたオーガの屍を一瞥し、ゴーズは言う。

「ま、いいだろ。お前に任せる。やってこい」

 少女は頷き、頭を下げた。

「はい。レイシェルには負けません」



 かつて同じ騎士団、共に戦った味方だった者から、また刺客が一人。

 魔王軍から異形の魔獣を借り受け、再びレイシェルへ魔の手が伸びる‥‥。

設定解説


・魔王軍親衛隊


大隊長の直下にいる構成員。よって序列的には上から三番目の地位になる。

役目としては中~小隊長として部下を率い、現場での指揮にあたる。

全員が白銀級機シルバークラスのケイオス・ウォリアーに乗り、そのほとんどは召喚魔法で異界から呼び出された聖勇士パラディンである。


地位としては高いのだが、世界中に侵攻する魔王軍の最前線で部隊長を務めるため、全軍あわせれば何十人もおり、討ち死にしては別の者が召喚されるので、現在何人いるのか実は誰も正確には把握していない。

また「マスター」を冠したコードネームで名乗るので、本名も不明の者が多数。

読み書きできない奴やまともな言語が喋れない奴もいるので、細かい管理システムも別に採用されていない。

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