28 勇者 5
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。好きなAクロバンチのメカは陸海空全対応の両腕のバイク。
「助けないと‥‥エリザを、早く!」
焦るレイシェル。
しかし森の中からわらわらとケイオス・ウォリアーが姿を現す。
巨大な骸骨兵士、不死型量産機のBシックルスカル。魔王軍だ。
『足止めか。まぁ当然ではあるな』
ノブは呟くとEムーンシャドゥで近づく敵にエルボートリガーを叩き込んだ。
レイシェルも自機に抜刀させて敵を迎え撃つ。
そこへ撃ち込まれる、遠距離からの高出力ビーム!
それはレイシェルのSエストックナイトを撃ち抜き、肩部の装甲を吹き飛ばした。
歯を食いしばるレイシェル。座席の後部では村の子供二人が抱き合って悲鳴をあげる。モニターには4000以上のダメージが表示された!
SエストックナイトのHPは6000‥‥もう一撃で完全に破壊される事になる。
(なんて威力ですの! それなのに、近づくのは‥‥)
操縦席で歯噛みするレイシェル。
怪獣まで、川や崖などの天然の障害が阻む。
その上、立ち塞がる魔王軍‥‥シックルスカルは量産機には珍しい、再生能力を持つ機体だ。時間とともに損傷が回復してゆく。さほど強力な回復力ではないが、しぶといのは確かだ。
友達が捕らえられている。逃げるわけにはいかない。
そんなレイシェル達を、遠距離からの光線が容赦なく襲う!
次に撃たれたのはドリル戦車、ライガーだった。
光線が命中して爆発! 『うおお!』と叫ぶライガーが煙の中に包まれる!
「ライガー!? やられましたの!?」
悲鳴みたいな声で問うレイシェル。
だが‥‥煙の中から返事はない。
「そんな‥‥」
名高い勇者の、あまりに呆気ない最期だった‥‥。
と、思いきや。
『自分はまだ大丈夫であります! お任せを』
威勢よい叫びとともに、ドリル戦車が土中から飛び出した。
怪獣のすぐ側に!
地中を進み、敵も地形も無視して一気に接近したのだ。
『へへへ、昔の魔王に、あの戦法で戦闘開始直後に討ち取られたオマヌケもいたってな』
ジルコニアが無駄知識を披露している間に、ライガーは怪獣へ突っ込む!
『チェインジ!』
その掛け声とともにドリルタンクが大きく変化した!
ボディが前後に別れ、伸びた。だが分裂したわけではなく、装甲内部にあった連結部によって繋がっている事は見て取れる。そして別れた後部が左右に別れた。
足だ。ドリルタンク後部が足になったのである。
前部のボディは左右がせり出した。出て来た部分には関節が、拳がある。
腕だ。内部に腕が収納されていたのである。
どういう原理か、タンクは変形した車体を起こした。足で大地を踏みしめて見事に立つ。握り拳を作った腕が胸の前面で交差されると、二本のドリルが左右にスライドして間隔が開いた。その開いた間隔に、ボディ内部から別のパーツが飛び出す。
頭だ。兜を被ったような、目をゴーグルで覆ったような、鼻と口のある頭だ。
ドリルタンクは一瞬で人型形態になったのだ!
身長は14、5メートルと小柄ではあるが。
「変形!?」
驚愕するレイシェル。
魔法で強化した鎧から発展したケイオス・ウォリアーに、変形機能をもつ機体は少ない。だが異界のマシンそのものであるドリルライガーにとっては知らぬ事だ。
『ライガァァーボム!』
叫んでショルダータックルを怪獣にかますライガー。
なにせドリルがついているので剣呑、怪獣の外皮を容赦なく削る。
だが怪獣もただやられているわけではなく、枝を腕のように振り回してライガーを叩く。
激しい殴打戦にもつれこんだ両者。
それを伺いながら、ノブはモニターを操作し、怪獣の能力を表示した。
『データがとれた。ふむ‥‥あの怪獣レーザーツリーは懐に潜り込まれると弱いようだな。まぁありがちな弱点ではある』
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格 格闘 攻撃力2800 射程P1―2
射 破壊光線 攻撃力4200 射程3―10
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敵はビームを近距離に撃てないのである。これは己の根を焼かないための、ある種の防御措置だ。
近距離に敵がいる場合には今のように枝を武器にするのだが、その威力はビームに比べて格段に落ちる。
だが怪獣のHPは10000を超え、懐に潜り込んだからといってそう容易く倒せるわけではない。
むしろ体力差でライガーが押し切られる‥‥と、思いきや。
枝で殴打される中、ライガーは『ふん!』と踏ん張って渇を入れていた。
装甲の破損が、その度に目に見えて塞がる。
スピリットコマンド【ガッツ】。HPを最大値の30%回復させる。
ライガーはこれをSP消費15で使用できた。
頑丈な装甲と高効率の自己回復能力で粘り勝つのが、勇者ライガーの得意手だったのだ。
だがあくまでリソース消費ありきの持久戦である。
打撃戦でもつれあいながら、ライガーは劣勢だと感じていた。
『一撃必殺の火力が欲しい所です。私の兄弟がいれば‥‥』
それに答える声があった。
『兄弟の代わりに僕らが手を貸そう』
ノブのEムーンシャドゥ!
ライガーが振り向けば、崖を登りきってすぐそこにいる!
『下の連中は!?』
驚き半分、喜び半分で叫ぶライガー。
『僕は大賢者トカマァク最新の弟子、最強の霊能者だからな。まぁ敵や地形を無視してその怪獣の相手をしたもらえたおかげで、こっちに光線が飛んでこなかったし‥‥少し残っている分は任せてきたが』
ノブの言葉通り、シックルスカルはまだ数機残っており、レイシェルのエストックナイトが相手をしている。
「別に構いませんけど、一言あって欲しかったですわ‥‥」
操縦席で僅かに顔をしかめるレイシェル。
横で戦っていたノブ機が突然走り去ったのを見た彼女にすれば、言いたい事が無いわけではないだろう。
まぁ別に構わないらしいのでノブは気にしない。
『魔王剣!』
操縦者の声とともに、ムーンシャドゥが剣を抜く。
金のグリップに金のナックルガード。半ば透きとおった深紅の刃。
ムーンシャドゥは怪獣の懐へ踊り込み、妖しく輝く刃でその幹を断ち斬る!
刃は樹皮を容易く切り裂き、深々と食い込んだ。
怪獣の、ハエジゴクによく似た顎が開いて唸りをあげた。
それはまさに断末魔――斬られた箇所から幹が避け、周囲の木々を巻き込みながら倒れる。
『おお! 凄い威力だ』
怪獣が倒されたのを見て、感心の声をあげるドリルライガー。
『なに、後一歩という所まで追い詰めていてくれたからこそだ』
ムーンシャドゥに納刀させながらノブが応えた。
設定解説
・レーザーツリー
ブレスをつかう植物モンスターの一種。
魔王軍が活動してから存在を確認された種であり、近縁の魔物を改造して生み出したのだろうと推測されている。
元となった種は周辺の動植物を焼却して自分用のフィールドを確保するためにブレス能力を身に着けたが、このレーザーツリーは「お前そんな所まで根っこ伸ばさねえだろ」という距離まで容赦なく光線を撃ちこんでくる。
家屋より大きな大樹に育ち、かなりの遠距離まで光線を撃ち込んでくるため、生えている場所によっては周辺に人間が立ちよる事ができなくなる。
一応、生体光線発信器官あたりは採集すればケイオス・ウォリアーの武器用としてそこそこの値段で売れるが、労力に見合っているかはやや疑問。
基礎ステータス(強化改造や装備するアイテムにより、この数値は変化する)
HP:12000 EN:200 装甲:1400 運動:80 照準:160
格 格闘 攻撃力2800 射程P1―2
射 破壊光線 攻撃力4200 射程3―10