27 勇者 4
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。好きなAクロバンチの機能はあの中で6人が暮らせること。
「タリア姉ちゃん!」
「ラルド!」
機体から降ろされた姉弟は駆け寄り、ひしと抱き合った。
一方、レイシェルはハッチの開いたドリル戦車を覗き込む。
だがいくら目をこらしても、操縦席には誰もいなかった。
少し躊躇い気味に、しかし意を決して訊くレイシェル。
「あの、秘密なら教えろとは言いませんけど。姿を隠しているのはなぜですの?」
ライガーは平然と答える。
『それをよく言われるのですが、隠れてはいません。自分の中に人はいないのです。これが自分なのであります』
「‥‥?」
意味がわからず首を傾げるレイシェル。
しかしノブはメガネをくいくい弄りながら「なるほど」と呟いた。
「つまり生きている機体なのか」
『はい! そうであります』
肯定するライガー。
ドリル戦車に意思があり、ライガーと名乗って活動しているのだ。
「え‥‥ええ!?」
驚愕するレイシェルが叫ぶ。
「人の脳か魂でも組み込んであんのか?」
ジルコニアが興味深々で訊いた。
それに説明を返すライガー。
『そういうわけではありません。自分の故郷の地球には、その一部でもある勇者の命が七つありました。宇宙からの侵略にそれらが目覚めた時、その一つがドリル戦車に宿り、自分――ドリルライガーになったのであります! この事は訊かれる度に答えはしたのですが‥‥この世界の人々にはわかり難いらしくて。ロボットから降りないとか、神の欠片とか、何かと誤解されているようなのです』
「いや、ちょっと、本当によくわかりませんわ。星の一部って‥‥?」
レイシェルは混乱するばかりだ。
インタセクシルには無数の異界人が召喚されてきてはいる。
だが多くは哺乳類の「人間」であり、その他種族となると少なくなる。
ましてや機械生命体など、普通の住人には想像もしない物だった。
しかしノブは納得した。聞いた話を彼なりに咀嚼する。
「大地そのものに命というべきエネルギーがあり、その一部がドリルライガーになったんだろう。そうだな‥‥精霊のような物が乗り物に宿って意思と命をもった、とでも思えばいいのではないか」
「あ‥‥うん‥‥それならなんとなくわかるような‥‥」
やっとこさ理解し始めたレイシェル。
それ聞いてジルコニアが「ククク」と笑う。
「このタイプの聖勇士が呼ばれた事はほとんど無いだろうからな。ま、この世界の人間に誤解されても仕方ないわ」
――かくかくしかじか。ノブとレイシェルはこれまでの事をライガーに話し――
『エリザドラさんですね。了解! その少女の捜索に自分も加わります』
ライガーの方からそう言いだした。
「さほどの報酬は出せませんけど‥‥」
余分な仕事をやらせる事になるので、レイシェルは先にそうことわっておく。
それに対してライガーは――
『お礼をいただけるなら受け取ります。無いならば仕方ありません』
当然のようにそう言った。
「無料奉仕で構いませんの? だからと言って、そこにつけこむのも心苦しいですわね‥‥」
戸惑い、少し悩むレイシェル。
そんな彼女にライガーが提案する。
『自分が役立つかどうかもまだわかりません。エリザドラさんを先ず見つけましょう』
いつも笑っているジルコニアも流石に呆れ顔だ。
「損な生き方だな。長生きするよオメーは」
『はっ! お褒めに預かり光栄であります』
嬉しそうなライガーの声。
頭痛そうなジルコニア。
「いや、褒めてねーよ」
――こうして一行は連れ立って森をゆく。小一時間後――
『見つけたぞ。しかしあれは‥‥』
森の中の小高い丘、それを見て呟くノブ。周囲に川が流れ崖が切り立ち、離れた所からだと見上げる形になる。
そこにエリザがいた。
居たというか、木に縛り付けられているのだが。
ぐったり俯き、意識があるのかどうか遠目ではわからない。
その木の太い事といったら、並の家よりまだ大きい。
茂る葉は緑と黄の毒々しい斑。幹のあちこちからキノコの笠みたいな物が生え、その頂点にはハエトリグサのような顎が開き、ときおり呼吸するかのように唸りをあげていた。
『あの木、魔物だからな』
見れば容易に予想できる事を言うジルコニア。
それが聞こえたわけでもなかろうに、木が動きを見せた。
ハエトリグサのような顎が稼働し、ノブ達の方を向く。
顎が開かれ、その奥が輝き――太い光線が迸った!
強力なビーム流が近くを焼き、爆発!
炎と熱風が荒れ狂う。
距離があったからか幸い当たらなかったが、かなりの威力で長距離射撃ができる事は皆にわかった。
『本当に魔物でしたね! 流石の洞察力であります』
『褒めるほどの所じゃねーだろ。実はちょっと私をバカにしてねーか?』
ライガーからの通信に微妙に苛立つジルコニア。
ライガーは――
『?』
どうにもわかっていないようだ。
その傍らで、魔物の凶悪さを目の当たりにしたレイシェルは焦る。
「助けないと‥‥エリザを、早く!」
しかしノブはEムーンシャドゥをすぐには動かさなかった。
『どうしたものか。状況がよくわからないのだが』
「何を落ち着いていますの!? 捕まってるんですのよ! 魔王軍に逆らったか何かで見せしめにされているんですわ!」
抗議するレイシェル。
胸の内には確信があった。
(やっぱりエリザは悪に降る子ではなかったのね)
だがその思いが、余計に焦燥感を駆り立てるのだ。友達を早く助けにいかねば、と。
設定解説
・Eムーンシャドゥ
ノブの乗る白銀級機。
かつての魔王が乗っていた黄金級機のデータや設計を流用しており、運動性・装甲・攻撃力とほぼ全ての点においてハイレベルな能力を誇る。
しかしその分、消費を顧みずに威力を追求した男らしい武装を搭載しており、エネルギーを補給する手段が無いとある程度以上の数の敵にはまともに戦えなくなる。
武装が近接格闘寄りに用意されている点といい、ノブが乗る事を前提にして造られた実質専用機である。
基礎ステータス(強化改造や装備するアイテムにより、この数値は変化する)
HP:6000 EN:200/200 装甲:1800 運動:120 照準:145
格 エルボートリガー 攻撃3800 射程P1―2 消費20
射 サイコビーム 攻撃4000 射程1―6 消費30 必要戦意110
格 レッグトリガー 攻撃4500 射程P1―2 消費40 必要戦意120
格 魔王剣 攻撃5000 射程P1―2 消費60 必要戦意130