26 勇者 3
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
レイシェル:クイン公爵家の令嬢にして魔法戦士。
ノブ:地上最強の霊能者。
ジルコニア:ノブに同乗する妖精。好きなAクロバンチのキャラは活躍しない方の兄貴。
エイプマンの群れを蹴散らした二人は機体から降りる。
ノブが魔法で照明を造り、レイシェルと二人で洞窟に入った。
目当ての子はすぐに見つかった。
岩陰で震えている幼い少年がいたのだ。
薬草を入れる鞄をしがみつくように抱え、警戒心も露わに二人を涙ぐんで見ている。
レイシェルは優しく声をかけた。
「ラルド君ね? 君を助けに来ましたわ」
少年はぐずりながら立ち上がり、レイシェルに訊く。
「お姉ちゃんも助けてくれる?」
にっこり笑って頷くレイシェル。
「もちろん。タリアちゃんよね?」
少年は頷く――が、こう付け加えた。
「もう一人。エリザちゃんも」
面食らうレイシェル。そんな名前は村では聞かなかった。
ノブは「ふむ」と呟くと、人差し指でラルド少年の頭に触れる。
青い煌めきが僅かに舞った。
と、ノブの側に少女の姿が生じたではないか。
「この子の記憶を見せてもらって、幻影で再現した。が‥‥」
そう言って少女の姿を眺めるノブ。
長い髪をツインテールにした少女‥‥歳は十代の中から後半か。
くりくりした目の大きい、可愛らしい顔立ちである。
しかし鎧を着ていた。ガデア魔法騎士団の。
「エリザドラ‥‥」
驚いてその名を呟くレイシェル。
そう、レイシェルはこの少女を知っていた。魔法騎士団の団員であり、かつての戦友の一人である。
「へへへ、また魔法騎士団のお友達かい。なんかキナ臭くねーかな」
ジルコニアが笑う。
しかしレイシェルはラルドに訊いた。
「このお姉ちゃん‥‥エリザは、君を助けてくれましたの?」
ラルドは素直に頷く。
「怪物に追いかけられて、タリア姉ちゃんと離れて。追いつかれそうになった時、エリザちゃんが助けてくれた。それでここに隠れさせてくれて。エリザちゃんはタリア姉ちゃんを探してくれるって、そう言って出て行って‥‥」
「そうなの。エリザらしいですわ。人懐こくて少し甘えん坊ですけど、年下には優しくて怒らない子でしたもの」
レイシェルは納得した。嬉しそうに、懐かしそうに。
「しかしなぜこの森にいたのか。それは考える必要があるな」
ノブがそう言うと、レイシェルはキッときつい目を向けた。
「魔王軍の刺客として私を追ってきた、とでも?」
ノブはいつも通り、落ち着いて言った。
「違うならばそれでいい。だが善人でも優しくても、逆らえない理由があれば従うしかない」
脅迫、洗脳、人質‥‥そういった手段を使う者が、この世にはいるのだ。
レイシェルは唇を噛んだ。しかしすぐに意を決する。
「‥‥はっきりさせるには、会ってみなくてはなりませんわね」
「ああ。タリアを探す必要もあるからな」
ノブは頷き、洞窟の出口へと振り向いた。
各自、機体に乗り込む。レイシェルはラルドを連れてSエストックナイトへ。
『タリアを探すにも手がかりがない。だから次はエリザという子を追跡する』
ノブから通信が入った。
追跡の呪文はこの場にいた者しか追えないのだ。
「そうですわね。エリザが既に保護してくれているかもしれませんし」
レイシェルの返事は多分に期待が篭っている。彼女は座席の後ろにいるラルドへ振り向いた。
「大丈夫。ね?」
「うん」
レイシェルの微笑みに、ラルドも安心して頷く。
――二人の乗る二機は森の中を進む――
だが魔法で痕跡を追っている最中、その足が止まった。
「振動? けれど‥‥」
地面が揺れている。地震ではない、何かの移動だ。
だがレイシェルが首を傾げる。
木々の間を通しても、近づく物は見えないのだ。
木立が視界を邪魔してはいるが、その木々を押しのける物も踏み潰す物もない。
だが地面が僅かに揺れる。
巨大な何かがやっては来るのだ。
ノブは気づいた。
『地下か!』
次の瞬間、それは肯定された。
土中から地面を貫き、飛び出した物があったのだ!
黒く四角い、長方形のボディ。
力強く回る、左右のキャタピラ。
進行方向前面に飛び出した二本の巨大な円錐の突起。パワフルな回転が強く雄々しい。
「これって、もしや!?」
驚愕するレイシェル。
『ドリル戦車、だと!?』
ノブも驚いていた。
「え? 知っていますの?」
思わず訊くレイシェル。
この世界インタセクシルでドリル戦車は実用化されていない。
これが何か、この世界で生まれた住人は知らない筈だ。
とは言えノブは聖勇士である。
ドリル戦車のある世界から召喚されたなら知っているであろう。
だがノブは首を傾げた。
『む‥‥言われてみれば』
なぜ知っているのかわからないようである。
(どういう事かしら。この世界にもドリル戦車が?)
そこまで考え、レイシェルは気づいた。
生粋のインタセクシル人である自分も、これが何なのかわかっている事に。
戸惑いから無言になる二人。
そこへドリル戦車から通信が入る。
『もしもし、そこの二機へ。ラルドというお子さんを知りませんか?』
やや硬い口調ながら、若い青年の声だ。
「こ、ここに居ますけど?」
レイシェルは背後をちらちら見つつ答えた。
すると相手の声が明るく弾む。
『これは僥倖! こちらはお姉さんを保護しております!』
それを聞いて身を乗り出すラルド。
「タリア姉ちゃん!?」
『ラルド! そこにいるの?』
幼さの残る少女の声が、通信機の向こうから返って来た。
薬師の子供達を保護している、異界の乗り物の操縦者。
レイシェルは彼に訊く。
「貴方は、勇者ライガー?」
『はい、そう呼ばれております』
相手ははきはきとそう応えた。
だがレイシェルには疑問がある。
インタセクシルへ召喚された者が持ち込めるのは、本人が身に着けている服や小物、装飾品程度だ。
乗り物ごと召喚された例は、確認されている限りでは無い。皆無だ。
ならば勇者ライガーはなぜドリル戦車に乗っているのだろう?
設定解説
・ノブ(ノブヒコ=アキカゲ)
大賢者トカマァクの弟子で霊能者。年齢17~19程度。
ショートの黒髪にメガネをかけた、僅かに幼さの残る顔立ちながらも落ち着いた雰囲気の青年。白マントに黒胴着を装備。
師匠から使命を受け、神蒼玉を手に入れるべく、レイシェルに会いにきて旅へ連れ出した。
異世界からの転移者らしいが、その詳細は不明。
超能力魔法とカラテの達人。
その他、旅に必要なスキルも大概は師匠から学んでいる。
26話時点のステータス
レベル20
格闘189 射撃189 技量213 防御154 回避134 命中133 SP95
スキル:ケイオス5 超能力5 SP回復
【スピリットコマンド】
エナジー:戦意+10。
サプライ:ENと残弾を完全回復。戦意-10。
コンセントレーション:短時間、命中率と回避率に+30%。
プロテクション:短時間、敵からのダメージが1/4になる。
インテュイション:短時間、命中率が100%になる。かつ一度だけ敵からの被弾率が0%になる。