11 戦火 3
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は己に備わった能力と心強い仲間の協力で、世界を席巻する魔王軍に敢然と立ち向かう。
旅を始めてすぐに街へ立ち寄ったジン達だが、そこに魔物が姿を現した――。
露店市を楽しむジン達。
だが近くの茂みから……武装したモンスター――ゴブリンやオークの兵士――が現れた!
「街にモンスターが出るのか!?」
「こういうのが入ってこないようにするのが街の城壁だから、外に来る事はあるよ。でもあいつらだってやられたくは無いから、壁際まで来る事なんて無いはず、なんだけどォ!」
驚愕するジン、悲鳴みたいな声で答えるリリマナ。
モンスターの兵士どもは凶暴な雄叫びとともに得物を振り回し、人々に襲い掛かった! 血飛沫と悲鳴があがる!
だが吠え猛るオーガーが巨大な足に蹴飛ばされて吹っ飛んだ。
刃物を振り回すゴブリンが横から剣で斬りつけられる。
「逃げろ! 街の門へ!」
必死の表情でそう叫ぶのは、先刻ジンが剣を譲った駆け出し冒険者の少年だった。
市場の人々が我先にと逃げる。その背を追おうとする魔物達を、ケイオス・ウォリアーが容赦なく踏みつけた。
だがその動きはぎこちなく、一踏みごとに一匹ずつ始末はするものの、数が多くて追い切れていない。
剣で戦う少年やその仲間も、自分達より数が多い相手にどんどん圧されていく。
「危ない!」
冒険者の少女が恐怖に叫んだ。オークの棍棒がリーダーの少年の頭へ振り下ろされたのだ。
次の瞬間、派手な血飛沫がまた一つあがった。
凄まじい勢いで吹っ飛び、地面に転がったのは、頭蓋骨を砕かれたオークだった。
少年は見た。駆け込んできたジンの右腕の一撃が、オークの棍棒もろともその頭を砕いたのを。
奇妙な手甲だとは思ったが――返り血で濡れるその腕は、まるで魔物のそれだ。
「大丈夫か? 俺も場数を踏んでいるわけじゃないが、助太刀させてもらうからよ」
ジンからの背中越しの声。それを聞いて少年は我に帰り、「は、はい!」と返事をして急ぎ立ち上がった。
(無我夢中だったが……思った以上の威力だ。しかし生身の戦闘なんて、俺にできるのか?)
内心、ジンの胸中も不安と恐怖でいっぱいである。歯と刃を剥き出しにして威嚇するゴブリンやオークを前に、逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
だが自分より年下の子供が不利な戦いを強いられているのを見ると、半ばヤケクソになるしかなかった。
(ほいほいチートが貰えて無双できる展開を安直だと思った事もあったが……そうでもなけりゃ、ド素人がいきなり戦えるわけもないわな! 実際!)
胸中で不運を嘆きながらも歯を食いしばるジン。
後は――右腕の威力を信じるだけだ。
オーガーが吠えて鉄のメイスを横殴りに振り回した。
(ヤベェ! ウェイト差!)
自分より頭二つ大きな怪物の強打を前に、ジンの首筋に怖気が走る。それでも咄嗟に右腕でそれを受ける事しかできない。
死の予感と衝撃がジンを襲った。
そして――ジンは踏ん張ったまま持ち堪えた。巨体が叩きつけた鉄の塊を、右腕の甲殻はほぼ完全に防いだのだ。
「チィイッ!!」
まともな声にならない叫び。ジンはそのまま拳を繰り出した。フェイントもクソもない力任せのストレートである。
オーガーは盾でそれを簡単に受け止めた。人食い鬼とはいえ武器も防具も持ち、使えるように訓練も受けていたのだ。
その盾を砕き、鎖の鎧には布きれかのごとくめり込み、ジンの拳はオーガーの腹を貫かんばかりに打った。
血走った眼玉が飛び出さんばかりに見開かれ、喉の奥から「ゴボッ」と嫌な音が。ほとんど二つに折れるかのごとく体を曲げて倒れ、オーガーは二度と動かなくなる。
「ウソ……」
冒険者の誰かが漏らした。
魔物の群れは信じがたい光景に、一瞬、完全に動きを止めた。
次の瞬間、さらに血飛沫があがった。今度は一瞬で三匹である。新たな被害が出て、魔物の群れが突き動かされるように騒ぎ出す。
恐慌によって。そこに統率も何もあったものではない。
その中央で「ケッケェー!」と叫ぶのはダインスケン。恐るべき跳躍力でジン達の頭上を飛び越え、上からの奇襲で手近な魔物を仕留めたのである。
その両腕の爪から血が滴っていた。魔物三匹の首を容易く刎ねた鋭利な爪が。
「いくぞ!」
混乱に陥った魔物の群れへジンは突撃する。
遠慮も容赦も無く打ち込まれる異形の拳。武器で受けようが盾で止めようがことごとくそれらを叩き破り、一打ごとに魔物が一匹倒れ、絶命していった。
その横でダインスケンも次々と魔物を切り裂く。獣をも凌ぐ敏捷性により、敵を屠る早さはジン以上だ。
魔物も抵抗はするが、その武器はジンの拳に砕かれ、ダインスケンの敏捷性に空を切る。虚しい反撃の後には新たな犠牲となるばかり。悲鳴をあげて逃げ出す物も少なくなかった。
僅かに村人達を襲おうとした物もいたが、それは新米冒険者達がかろうじて食い止める。
だが悲しいかな、やはり新米。
「きゃあ!」
乱戦の中、冒険者の少女がオークの一撃を防ぎ損ねた。打たれた肩を抑えてうずくまる。無論、そこを見逃してくれる筈もなく、オークがとどめの一打を振り下ろそうとした。
そのオークの眉間にナイフが突き刺さり、倒れるのはオークの方となったが。
ナイフはジンが倒した魔物兵の物。それを拾って投擲したのはナイナイである。
冷や汗を拭い、ふう、と溜息をつくナイナイ。
その頃に最後の魔物も逃げ出し、戦いは終わった。
新米冒険者達がジン達の側に来る。
「スゲェや……。助かりました、レベル高いんですね。どこかの軍人さんですか」
冒険者の少年がナイナイの制服を横目で見つつ、ジンに礼を述べる。
だがジンは――戦闘の興奮と恐怖がまだ冷めやらず、「ああ……」と呟くのが精一杯だった。
己の仕留めた魔物の屍を見て、急に胸が悪くなる。軽く吐き気さえ覚えそうだった。
体や能力はともかく、精神的にはまだ地球の平和な日本で暮らしていた庶民の部分が残っているのだ。戦闘中は必死なあまりに余計な事は感じていられなかったが、戦いが終わって落ち着くにつれ、殺される恐怖と殺す嫌悪感をはっきりと意識していた。
落ち着こうとして深呼吸するジン。
周囲を見ると、やはりケガ人が何人もいる。少しだが――息絶えた者も。血と呻きと涙は止まる事なく、地面にうずくまり、哀れにもすすり泣きながら痛みの中で救いを待っている。
(普通の人が……村人とか市民が敵に襲われるって、こういう事だわな……)
ゲーム等では描写される事の少ない光景だが、今はジンの目の前にあった。
だが事態はまだ収まらなかった。
突如、街の外壁が爆発したのだ!
外壁は崩れ、負傷していた人の何人かは容赦なくそれに巻き込まれる!
「な、んだとお!」
「あれだよォ!」
叫ぶジンの耳にリリマナの悲鳴が届く。川の上流を見れば、街に迫るケイオス・ウォリアーの部隊!
「魔王軍! ついにここまで来たのかよ」
市場の誰かが泣き声をあげた。
(さっきの兵士どももそれか)
事態を察したジンは新米冒険者の少年に言う。
「ケガした人をここから逃がしてくれ。君らの一機であの部隊とは戦うなよ……数が違う」
「あ、はい! そ、そうします」
緊張に叫ぶ少年。ジンは頷いた。
「頼む。すぐに戻る」
そして返事も待たずに走り出す。
「ナイナイ! ダインスケン! リリマナ! 艦へ!」
その声に三人も応える。
「うん!」
「急ぐよォ!」
「ゲッゲー」
彼らは母艦へと走った。彼らの機体で、この街を守るために。
今度出演するジェイDEッカーからは当然スーパービルドタイガーも出るだろうが、ドリルボーイはやっぱり「ドリル刑事」と誤認する人が多数現れる気がする。
サッカー刑事なんだが。
カナヘビ(トカゲ)みたいなやつだ。
あいつとダンプソンが玩具サイズボディになって街を徘徊する話もあったが……まぁ再現はされないだろう。
ブレサガではパンダ話はやったんだっけか。




