102 金星 8
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
奪われた最強機体の設計図を取り返すべく追ったジン達の前に、
魔王軍四天王が乗る黄金級機とそれが率いる軍団が立ち塞がった。
激闘の末、ジン達はそれをも打ち破り、そして――
最大の激闘……それから早一週間。
ジンは母艦の部屋で、安酒の瓶を片手に寝転んでいた。
向かいのベッドの上段で、ゴブオがあぐらをかいて唸っている。
「アニキ。なんで王都から離れちまうんスか? やっとアホな貴族どもが掌返してヘコヘコしてきやがったのに」
敵の将軍が黄金級機の操縦者だったこと。
それを撃破したこと。
黄金級機の設計図も見事に取り返したこと。
これらの報告を終えた日、ジン達を取り巻く世界は変わった。
「マジでケッサクでしたぜ。魔王軍の戦艦は丸ごと降伏して設計図を差し出しやがるし、持って帰ったら王様の奴、飛び上がって喜びやがって。何より、アニキ達に文句言った事のある奴らが全員顔色青くなってんの、今思い出してもクソワラwwwっスわ」
他人が己より下に見える時が、ゴブオにとって至福の時なのだ。
だが今回はリリマナも喜んでいた。ジンの頭の横に寝転がり、頬杖をついてニコニコ笑っている。
「黄金級機に勝っちゃうって事は、それに乗ってた過去の魔王達にも勝てるって事だもんね。歴史に名を残してる英雄達に負けてないよ、今のジン達は!」
「ま、逆に言えば黄金級機が倒された事だって昔から何度もあるわけだろ。我ながらよくやったとは思うが、あそこまで騒ぐもんかね……」
呟くジン。
脳裏にはここ数日で見た光景がいくつも浮かんでは消えていた。
今までは指揮官のヴァルキュリナが優秀で、ジン達はその部下と認識されていたのだが――王都に帰るとジン達の評価は一気に上がった。
黄金級機を撃破した事で。それと直接戦った者達という事で。
この世界では、それほど黄金級機の存在は大きかったのだ。
「ジン達が正しくわかってもらえて、私も嬉しいんだ」
報告した当人のヴァルキュリナはそう言っていた。
そして「ジン達に話がある」と言う者達を、毎日のように連れて来た。
彼女は良かれと思ってそうしたのだと、それはジンにもわかる。
(おかげで名前しか知らない知人がずいぶん増えたがな……)
その名前もジンは半分以上忘れた。
そんな毎日だったが、ある日、ヴァルキュリナが王都を離れると知った。
彼女は今度の手柄で将軍の座を与えられる事になった……筈だったのだが。
「魔王軍にも面子があるから、この国への攻撃は激しくなると思う。私はそれから故郷を守りたいんだ」
そう言って彼女の地元、国境を守る都市ホウツへ戻る事にしたのだ。
「今のジン達なら、地位も富も十分に得られる筈だ……私が差し出せる分なんかよりも。なんだかんだで私が一方的に世話になったな。すまない」
彼女はジン達と別れるつもりでそう伝えて来た。
豪華な部屋のふかふかのベッドに腰掛けてヴァルキュリナの話を聞いていたジン達は……
「そうですかよ」
「行っちゃうんだね……」
「ゲッゲー」
彼女の行動に意見しようとも、反対しようとも、引き留めようともしなかった。
まぁ出発の日、当然のように戦艦の部屋に皆で居たのだが。
「え? なんで?」
出発してからジン達の乗艦を知り、仰天して部屋に駆け付けたヴァルキュリナは、目を丸くしてそう呟く事しかできなかった。
「よっす」
ベッドに寝そべってそう言うジンを見ながら。
それが昨日の事であり、今だにゴブオは勿体なく思っている。
「金も女も山ほど手に入るのに、マジで勿体ねっスよ……」
「女、か。ナイナイの周りに壁ができるほど居たな。本命の子はできたか?」
ジンが茶化すように訊くと、ナイナイはむっとむくれた。
「ジンはすぐそんな事言う……」
以前からナイナイだけは異形が表に出ていないのもあって、同じ歳ぐらいの少女達には好意的な子もいた。それも今回の手柄でさらに増え、ほとんどファンクラブのような集まりまでできたのだ。
以前から親しかったリディアとルシーナも当然のようにその中にいる。
ジン達がとりとめもない話をしていると、部屋の扉がノックも無しに開いた。
クロカである。
彼女は半ばひきつった顔で部屋の中のメンバーを見渡した。
「本当に全員いやがる……」
「そういや昨日は逢わなかったな。一応、格納庫には少しだけ行ったんだがよ。すれ違いでもしたか」
のほほんと言うジン。
クロカは強張った顔のまま叫んだ。
「私が最終チェックした後に機体を積み込みやがっただろ! それすれ違いって言わねぇから! なんでお前らが全員ついてきてるんだよ!?」
BAクシンガーのOPに「たまらないぜハニハニ」という一節があるが
「ハニハニ」が何なのか全話視聴してもよくわからない。
「ハニー、ハニー」を曲調に合わせて短縮しているだけなのか?
「たまらんよカワイコちゃん、体を衝撃が駆け巡っちゃう!」という、80年代的なナンパで陽気な歌だったのか?
本編は野郎どもが白刃ふりまわして毎週景気よく人が斬られる内容だったが……。




