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幻覚と座敷童

作者: 月丘ちひろ

 ある真夏の夜、僕は汗でベタつく体の不快感にうなされていた。一度シャワーで汗を流してからベッドに潜ったが、一週間前から患っている腸炎の痛みで、全身から汗が吹き出してしまう。


 そういうわけでぼんやりと天井を眺めた。頭は眠りに落ちようとしているはずなのに、体が腹痛を訴えて意識を引き戻す。意識の浮き沈みを繰り返すうちに、夢と現実の境が曖昧になる。


 この状態になったとき、普通では起こりえない現象が発生した。例えば瞼を閉じている感覚はあるはずなのに目の前の景色が見えたり、体を動かそうと思っているのに動かなくなる。俗に言う金縛りになったのだ。


 金縛りは体が眠っているのに、頭が起きている状態のときに発生する現象だと言われている。この知識を持っていた僕は、身動きが取れない自分を冷静に観察していた。


 だけどしばらくすると冷静に観察できる状態ではなくなっていた。ベッドの傍らに女の子の幻覚が脈絡もなく現れたからだ。小学校低学年くらいと言われればしっくりくるような小さな女の子で、ジーンズと白いシャツというシンプルな服装をしていた。


 女の子は両手を膝において、僕を見つめている。そして退屈しだすと、椅子から立ち上がり、大きな瞳で僕の顔をのぞきこんだり、白い手を僕の額に当てたりした。そこで女の子は僕の不調に気づいたらしい。彼女はニコリと微笑むと僕のベッドに乗り、僕の腹部をさすり始めた。彼女の手は暖かく、少しずつ腹部の痛みが和らいでいく。


 気がつくと窓の向こうが明るくなっていた。僕の体は拘束器具をはずされたように軽くなり、僕が体を起こそうと意識すれば、普段通り体が起きあがる。


 僕は女の子に視線を向けた。女の子は僕をじっと見つめ、空気に溶けるように姿を消した。体を起こしたことで完全に夢から醒めたのだとわかった。腹部の痛みはすっかり引いていた。


 だからこそ僕は疑問に思った。僕が見た女の子はただの幻覚だったのだろうか、もしかしたら僕は夢など見ていなかったのではないだろうかと。


 僕は彼女がさすってくれた腹部に手を当てた。

 腹部には彼女の手の温もりが確かに残っている。

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 座敷わらしって着物で登場するイメージですが、こういう現代的な格好もいいですね。ピンチの人を優しく見守ってくれる人外って、何だか素敵だなと思いました。
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