戻ってこいと言われたから、戻ってやりましょう(悪い顔)
各人員の容姿描写は、テンポの問題で省いております。
ビキニアーマー戦士とか、魔法幼女とか、各自で適当に妄想してお楽しみ下さい。
……正直な所、マネキンな美女を想像しておいた方が、精神的にとても楽でしょうけど。
「よお、久しぶりだな。 お前はどうせ、ここでウジウジしてたんだろ? オレのパーティーに戻ってこい」
「………………」
……なんだか冒険者ギルドに併設された酒場でこう言われると、ワタシが思い付きで冒険者パーティーを飛び出して、失敗して落ちぶれている様に聞こえますね?
今はただ、せっかくの休みだからこうして酒場で美味しい果実水や甘いものを、飲み食いして羽休めしていただけなのですが。
はいどうも。 ワタシはトーカ。
この辺でも聞かない名前の響きですが、これはワタシが産まれた直後にふらっと訪れた凄い人に、故郷のピンチを救って貰ったときに名付け親になってもらったそうです。
意味は“灯火”
ボロボロになった故郷が復興する、希望の光に~って名付けられたそう。
でも、それは理由の半分だと思ってる。
産まれたばかりのワタシはモヒカンみたいな毛質をした赤ちゃんだったらしい。
それで髪は赤毛、肌も真っ赤。
……これで分かりましたよね?
おくるみも含めて、当時のワタシがロウソクに見えた……いえ、ロウソクにしか見えなかったのでしょう。
現在のワタシも、体型はロウソクの火。
下半身デブでお尻ばかり大きくなって、胸が全然育たない。
ちょっと愛嬌がない、感情を表に出さないワタシなので、せめて明るく見えるようにと赤で暖色系統の装備でまとめています。
なので、名は体を表す。 赤いフード付きローブを着ている姿なんて、完全にロウソクの火。
……って、初手から大脱線してますね。
今のワタシは落ちぶれてなんかいません
追放された後はワタシの固有スキルを把握し、真っ当に評価してくれる良い冒険者パーティーに拾われて、日々充実した冒険者生活を送れているのです。
目の前にいる色欲まみれな面した、万年発情猿のパーティーにいた頃より、とても楽しいのです。
ちなみにワタシが追放された理由はご想像の通り、加入からン年。 いつまで経ってもカラダを許さないから。
でもそれだと問題になるから、表向きには役立たずだったからって事に。
こいつのパーティーはハーレムパーティーで、夜になるとうるさくってイヤになる。
誘った理由は、ワタシはソコソコに良い顔をしているけどほぼ無表情な顔が、ひどく乱れる所を見たかったとか。 ……言ってて反吐がでそう。
と言うより、ワタシは良い顔じゃない。 ブスですよ、ブス。
ずぶの素人だった頃にパーティーに誘われた時は、女性ばかりだから冒険しやすそうだと思って参加した。
なのに、唯一の男であるルースァー……いえ、猿で十分ですね。 が、こんな奴でモチベーションは0に。
ワタシの貢献も理解されず。
結果、追放宣言。 そりゃあもう、喜んで離脱しましたとも。
ちなみにワタシの固有スキルは【一発だけなら誤射】
1対象に1度だけなら、誤射とみなされて意識されない。
通常モードから戦闘モードへなど、意識が切り替わる時にカウントが0になる。
……分かりにくい?
相手に攻撃しても、敵からも味方からも1度なら攻撃したと思われない。 別の誰かがやったと(大抵は同士討ちに)見られる。
味方を回復させても、同じ事。
敵を狙撃ないしは奇襲できればほぼ確実に混乱させられるし、回復行動をする面倒な敵と目されずに済む、便利なスキル。
まあコレの所為で、あのパーティー内で何もしてないって思われた訳です。
しかもあいつらの中では一番若い……いや、下っ端だったので、色々と小間使いみたく便利に使われて勉強になりましたよ。 ええ。
ワタシが【一発だけなら誤射】でどれだけパーティーランクを上げるのに貢献していたのかも、知らずにね。
で、冒険者の最上級ランクだったハーレムパーティーは凋落。
切っ掛けになったワタシの追放を、無かったことにしたい~とかで再勧誘したがっている。
そんな噂を聞いていましたが、本当に来るとは……ってなモンですよ。
そんな事態に、返す言葉なんて決まってますよね?
今更戻れと言われても、もう遅い?
いえいえ。 その一手は、今のワタシには悪手ですよ。
「分かりました、戻りましょう。 ただし出戻りは面倒な存在なので、宿なんかは別にとらせて頂きますが良いですか?」
「お? おう! 戻ってくるなら、なんでも良いぜ!」
再加入です。
こう応じてやったら、猿のニヤケっぷりが気持ち悪い気持ち悪い。
「そちらとの条件確認やパーティー移動なんかの手続きもありますので、また明日ここで」
「おう、また明日な!」
足取り軽く去って行く猿の後ろ姿を眺めながら、ワタシは内心で悪い顔をする。
……え? なんで突っぱねなかったのか?
理由が有るからですよ。
以前から相談を受けていたモノに、とても都合が良いのだから。
その都合の為にも今のパーティーを集めて、急いで打ち合わせしないと……。
「よう、待ってたぜ」
明くる日。
待ち合わせ場所のギルドまで来たら、ワタシを追放した連中全員が揃ってました。
猿一匹に、取り巻きの猿女四匹。 計五匹の猿山です。
誰も彼も、猿の気を引こうと扇情的な格好の猿女達。
多少装備やお肌の劣化が見られるものの、懐かしい顔ぶれですよ。
でも……。
「これで全員ですか? ワタシを追い出す時に、代わりを入れると言っていたはずですが」
「そいつは何回か依頼をこなしたら、抜けて行きやがったよ」
「……そうですか」
ワタシの役割は、斥候寄りの中衛。
近接戦闘も弓も魔法も隠密スキルもそこそこ使えるので、とても器用貧乏な立ち回りをしています。 更に平時では雑用全般も。
そんなのの代わりってだけで、正直凄いとハーレムパーティーから離れて知ったんですが、やっぱり逃げられたんですね。
まあそれほど気になる事でもないので、これで全員なら本題へ入りましょうか。
とある受付嬢さんへ目配せするとひとつ頷いて、とある紙を持ってきてくれます。
それを受け取り、ハーレムパーティーへ差し出す。 言葉を添えて。
「これにメンバー全員のサインを」
「あん? なんだ?」
「ワタシがパーティーへ再加入するのに必要な書類です」
「ふぅん」
正確に言えば、魔法的な契約をする書類ですね。
真っ当な事しか書いてませんので、普通にしていれば契約を守る気がなくても守れる程度の内容。
それを違反すれば、どんな罰則でも受け入れる。 ちょっと厳しいけど、逆にいえばこれを結ばないと信用できないって証明になる契約。
「特に変な事は書いてねぇな。 お前らもサインしろ」
それを猿がざっと読み、全員にサインをさせます。
みんなサインを済ませたら、ワタシが再加入の挨拶。
猿女共の冷笑に迎えられて、加入儀式の終了。
「さあ、オレのパーティーは再出発だ!」
こっぱずかしくなる猿の号令をよそに密かなアイコンタクトを受付嬢と交わして、ワタシの仕事が始まります。
~~~~~~
細かい経過をさくっと飛ばし、再加入から1ヶ月。
「なんなんだよ、これはよぉ!?」
事態は行き着くところまで行き着きました。
なので〆として、ダンジョンで行き着く所までご案内です。
「ギルドからの依頼で、貴方達のパーティーを謀殺するよう言われましたので」
「はぁ!? ふざけてんじゃねえぞ! 助けろよ!!」
「罰を受けるに値する行いを、散々やって来た報いです。 おとなしく罰されれば良いんですよ」
「冗談だろ!! なぁ!?」
ワタシの再加入で勢い付いた猿達。
【一発だけなら誤射】の支援を十分に受けて大活躍。
あっという間に凋落する前へ戻ったと思ったら、それまでワタシへ使っていた気を早々に取っ払う。
扱いも追放前と同じ調子に戻ってしまった。
こうなるまでが早かったですよ~。 我々の想定では、3ヶ月位は大人しくしていると思っていたのですが。
あいつら相当にお馬鹿ですよ。
それで戻ったと言うことは、あの猿は我が物顔で暴れだします。
ハーレム要員のみでは飽きたらず、他人の女性へチョッカイをかけたり、力で従えさせようとしたり。
女性問題だけでなく、違法行為ふくめて金銭面でも対人関係でもアチコチ騒動を巻き起こす。
ハーレムの猿女達まで便乗して、一緒にやらかす始末。
……なぜ全部を把握しているか?
今の正式なパーティーに、こいつらを監視してもらっていますので。
そしてその暴れっぷりは、再加入時に契約した内容をかるく振り切った所業。
もちろんこれはギルドへ報告され、ついにゴーサインが出たのです。
これが1ヶ月前に、ギルドから受けた仕事。
あのハーレムパーティーが存在する価値を見極めて、処分した方がいいとギルドに判断されれば、処分する依頼。
つまりギルドぐるみでの、猿達抹殺計画。
しかもあの契約書があるので、合法ですから悪しからず。
まあその契約書が無くても、野盗に落ちた人間とかもまともな経済活動の邪魔になるので、そいつらを処分するのとあまり変わらないのですがね。
何せ他人の金品を奪い、女を拐い、我が物顔して町を練り歩く猿達の姿は、野盗とほぼ変わらない。
正直最上級ランクのパーティーだという肩書きがあるから、手を出しにくいだけで。
しかしそれも今日まで。 ついに裁きの鉄槌が……となったのです。
「貴方方はいらないと判断されたのです。 もし生きて戻れても、今頃ギルドは除名処理をしていることでしょう」
今はこうしてダンジョンアタック中に【一発だけなら誤射】で、猿と猿女達の仲違いに成功。
ダンジョン内にも関わらず、諍い合う音を魔物達が聞きつけ、押しかけ、思いっきり混戦。
戦線は構築できずに、猿達が総崩れ。
既に殉職者も出たのか、猿女のだれかの悲鳴が少し前に響いた。
「嘘だろ!?」
「こんな事、ウソや冗談で言うわけ無いじゃないですか」
猿が絶望面してワタシとしゃべっているけど、そんな暇はないでしょうに。
「お前……じゃねえ、トーカ! 助けてくれよ!!」
うわ……いつもいつも、どんな相手でも“お前”だったのに、名前を呼ばれました。 気持ち悪い。
「お断りします。 このまますり潰されて下さいね」
こんな奴、助けたいとすら思いませんって。
あ、どうでも良い話かも知れませんが、ワタシ自身は正式なパーティーと合流して安全は確保済みです。
あとは高みの見物ってやつです。
ほらほら、喚いていたらもっと魔物が来ますよ。
「クソがっ! こうなったらお前も道連れだ!!」
あら、意識が仲間(?)判定から切り替わって、敵対ですね? 誤射カウントが0になりました。
なら小突く程度の魔力弾を猿の横から出して、コメカミ狙って誤射。
「んがっ!? 誰だ! 俺を攻撃したのは!!?」
はい、気がそれました。
「後ろから魔物の攻撃が来ますよ」
「チクショウ! やったらぁ!!」
はい、これで意識がそれてワタシへの敵対が解除。 意識の切り替わりを感知。
今度は弓矢をかまえて、猿の膝(裏)でも狙ってみましょうか。
…………どこかの伝承で膝に矢を受けた冒険者は、立派な町の衛兵になるって聞きますけど、本当なんでしょうかね?
まあこいつは衛兵になんてさせず、ここで死んでもらいますけど。
この後ハーレムパーティーが完全にすり潰されたのを確認してから、頼りになる仲間達と協力して魔物もしっかり討伐、戦利品も確かめてから帰還しました。
「これで生きてはいまい」とかの思い込みで、依頼を達成しそこねるバカはしません。
もしそんなのをしてしまったら、ワタシが後々苦労するので。
……え? 復讐方法が恐い?
いえいえ、これはお仕事。 復讐なんて血生臭いものじゃありませんて。
もう遅いのブームが終わったら、今度は戻れに応じて内部から崩壊させる【埋伏の毒】とかになるんでしょうかね?
知りませんけど。
中世(ファンタジー風世界)倫理。
人間より強い魔物がそこらを歩いている、とても危ない世界。
そんな世界では人間の命なぞ軽い。
一罰百戒とかを狙っているのではなく、今後も罪を……多大な迷惑を重ねるだろうで気軽に命を奪う世界でもある。
ならばこうやって、仲間内で済ませられる内に処分するのもありだろうと思います。
事実、本文中にだした野盗なんかまさに筆頭。
誰かさんの言葉じゃないけど「悪人に人権は無い」
野盗はヒト・物・金。 とにかくなんでも奪います。
奪われたら被害が出て、立ち行かない町や村が出てきてもおかしくない。
貴方の大切な人が乗った待ち合い馬車が襲われて、酷い目に遭わされたり命を奪われていたら?
あいつらはヒト型の魔物です。 事情があって野盗になるしか無くなったってのも中にはいるでしょう。
でもアレを許しては、完全に酷いことになります。
「許してくれよ、2度とこんな事しねぇからよ?」を信じて解放して、他の善良な誰かが犠牲になった~なんてなったら泣けてくる。
んで、再び捕らえて問い質せば「2度とこんな事(捕まる失敗)はしねぇからよ?」って言ったんだよ!
とかって言われて、精神に追撃ダメージとかね?
異世界転生や転移されても日本人的感覚でいたって、恐らく中世風ファンタジー世界では、ただただ食い物にされるだけです。
ズル・反則な力や知恵があるから、食い物にされない程度に自衛できるから、日本人の心のままでいられるんです。
そして、日本人の心のままだから余計な心労を抱え、余計なトラブルを生む。
なんっつうか、色々難儀ですよね。 この手の話って。