水野の過去 陽人side
4月に入り、新年度が始まりましたね。
春は少々多忙になりますので、少々日にちが空きます。ご了承ください。
情報についてはTwitterの@mijukunagisaで更新しておりますので、気になる方はご覧ください。
水野の過去を聞いた俺は、何も言えなかった。風間先輩が出て行ったキッチンに取り残された俺たちの間には、なんともいえない居心地の悪さがあった。目の前に置かれたコーヒーは、今の話の間に冷め切ってしまったようだ。
俺は色河さんのことをよく知らないし、当事者でもない。しかし、当事者である3人は何か思うことがあったのだろう。普段冷静で優しい風間先輩も、水野に対して声掛けに迷いがあった。心の中で葛藤しているのだろう。
「山辺君」
水野に声をかけられて顔を上げる。水野の顔はいつもと同じ無表情なのだが、胸が苦しくなるのはなんでだろうか。悲しさや辛さが、ひしひしと伝わってくる。俺たちに悟られないように必死に表情を作っていると言ったほうが正しいかもしれない。
「な、なんだ?」
「急にこんな話ごめんなさい。あなたは当事者でも何でもないのに。でも、言っておかないといけないと思って。私、一度倒れたことあるでしょ? あれは雨と赤いネクタイが重なって、あの日のことを思い出してパニックになったの。それが理由なの」
水野が俺に話した理由の主な理由はこれのようだ。倒れた原因を話すには水野の過去を知る必要がある。だから俺に話したのだろう。
隣にいる立花も苦悶の表情を浮かべている。当時からの状況を知る立花も、水野の口から語られる過去の話を聞くのは辛いだろう。いつも明るく騒がしい立花も、今回ばかりはずっと押し黙っている。
「葉月、少しだけ山辺君と2人にしてくれる?」
「……分かった。葵の部屋にいるから、終わったら呼んで」
それだけを言うと立花は席を外す。急な2人きりに少々戸惑ってしまう。
「山辺君」
2人になったことを確認して、水野は話を切り出した。
「今の話を聞いても、今の関係でいられる? その先の関係を求めたいと思う?」
真っ直ぐに見つめる瞳は少々潤んでいる。今、水野はどのような答えを求めているのか、俺はどういう答えを出したいのか分からなかった。水野の瞳を見ていたら、上辺だけの言葉も出てこない。
水野がこういう質問をしてきたのは、俺が告白したことも関係しているだろう。水野は今も昔のことを引きずっていて、抜け出せていない。風間先輩も。
そして、今も水野は……。
「俺は、水野にどんな過去があっても、支えてやるとか、過去のこと忘れさせてやるとか、かっこいいこともひどいことも言えない。でも、これだけは言える」
俺はしっかりと水野を見つめ直した。何を言われるのか不安そうに見ていた。
「俺は水野の笑顔が見たいんだ。水野の笑顔のためならば、俺はどんなことでも協力したい」
ただ俺は、水野の笑顔を見たいだけだ。時々見せる、優しい笑顔。水野は笑顔が似合う女の子だと、俺は思っているから。
「……バカね。少し席を外すわ」
水野はそれだけを言うと俺の顔も見ずにリビングを出て行った。水野も耐えられなくなったのだろう。
「俺はどうすればいいんだろうな……」
あれほどカッコつけたくせに、解決策なんて全く出ていない。それに俺はこの件に関しては完全に部外者だ。俺が出来ることは限られている。
俺は1人残されたリビングで、1人ずっと考えていた。
この度もお読みいただきありがとうございました。




