呼び出し 流星side
俺は昨日、水野さんから呼び出しがあった。内容は昨日のことについて。結局おばさんには何も聞けず、モヤモヤはしていたが、水野さんに直接聞く勇気はなかった。そんなときに来た連絡。あれほど優月のことを頑なに話そうとはしなかったのに、向こうから話すと知らされたとき、最初は戸惑ってしまった。
でも、文面からも伝わってくる。水野さんの覚悟が。俺もしっかりと全てと向き合う覚悟をしないといけない。
俺は水野さんの家に向かう途中、ケーキ屋に寄ることにした。水野さんと立花さん、それから水野さんのお母さんはいないみたいだが、とりあえず4つ買うことにした。向こうから呼び出されたとはいえ、人の家にお邪魔するのに手ぶらというわけにもいかない。何より女子だけの家にお邪魔すること自体が初めてで、勝手が分からないというのもある。
「これでいいか」
苺のショートケーキとチョコレートケーキとタルトケーキ、そしてチーズケーキと無難なところを選び、店を出たところだった。
「こんなところで何してるんですか?」
なぜか目の前には陽人がいた。陽人は俺の顔と手に持っている物、そして後ろの店を交互に見比べた。どうして俺がこんなところにいるのかと、態度で聞いているようだった。
「ケーキが食べたくなったとかですか?」
「いや、そういうわけじゃ……。そういう陽人はどうして?」
「俺はケーキを買って水野の家に……」
水野さんの名前が出たことに少し驚く。水野さんは俺だけでなく、陽人も呼んだということだろうか。
「約束があるのか?」
「いえ、ちょっと用事があって、手ぶらもなんだしなと思ってケーキを買いに」
どこか気まずそうに俺から目を逸らした。いつもならもう少し堂々としているはずなのだが、今日はどこか自信がないように見える。喧嘩でもしたのだろうか。
「そうか。じゃあ俺はもう行くよ。外にいるとケーキが溶けてしまうからな」
「あ、はい……」
陽人はそのまま俺と入れ違うようにして中に入って行った。中に入ったことを確認して、俺は陽人から見えないところで水野さんに電話をかけた。
「はい。どうかしましたか?」
数回のコールで水野さんは出てくれたが、オペレーターよりも事務的な対応に少々傷つくが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「今ケーキ屋の前で陽人に会った。そっちにこれから向かうつもりだけど、どうしようか」
電話口から物音がしない。本当に繋がっているのか少々不安になるが、ちゃんと通話中みたいなのでしばらく待つことに。
「山辺君も連れて来てください。この際、一緒に聞いてもらいます。なので、声をかけて一緒に連れて来てください」
「……分かった」
意外な言葉に俺はそれしか返すことが出来なかった。陽人に話すつもりはないだろうと思っていたのに。どこか複雑な気持ちになった。俺は通話を終えると、そのままケーキ屋に入る。陽人はまだケーキを選んでいる途中で、お会計は済ませていないようだった。
「陽人」
声をかけると驚いて後ろを振り向いた。
「何ですか? 忘れ物でもしたんですか?」
「そんな警戒するなよ。何も買わずそのままついて来てくれ。俺と一緒に水野さんの家に行くぞ」
「は?」
状況を飲み込めていないようで、しばらく動きが固まっている。ただ、ここにいると営業の邪魔になってしまうので、俺は陽人の手を引いて半ば強引に店を出た。
「ちょっと、離してくださいよ」
「あぁ悪い」
俺は陽人の腕を離す。少々連れて行く方法が強引すぎたな。
「どうして先輩と水野の家に?」
「水野さんからの呼び出しだよ。陽人もご指名だ。とにかく、気になるなら俺について来てくれ。話は水野さんがしてくれるはずだ」
どこか納得のいかないような顔を浮かべながらも、陽人は俺について来た。俺だけ水野さんの家に行くのが気に食わないのだろう。態度を見ていたら分かるが、それは俺も同じだった。優月のことについては、俺と水野さんの唯一の共通の話題で、俺にとっても、水野さんにとっても大切な思い出だ。それを何も知らない陽人が入ってくることが、少々気に食わないのだ。
俺たちの間には全く会話はなかった。気に食わないのは、それだけじゃないことに気付いているはずなのにな。
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