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広まる噂、深まる敵対心

 ここ最近、私は2人に、それも男の人によく絡まれる。


「はぁ……」


「あんた、最近ため息ばかりね。何かあった?」


 心配そうに私の顔を覗き込む。


「何でもない。ここ最近は色々あったから……」


 ふと視線を葉月から逸らしたとき、教室の隅にいる山辺君と目が合った。私は慌てて視線を逸らした。

 今度は廊下が騒がしい。嫌な予感。


「葉月、私逃げる」


「あー、あれね。はいはい」


「葉月、何か聞かれても知らないって答えて。あなたも先輩と同じくらい有名だから、私と友達っていうのも知ってる。だから必ず聞くはず。あ、何かあれば叫んで。先輩だろうとなんだろうと、葉月に手出しする男はしばき倒すから」


「相変わらず物騒な言葉使うわね。はいはい。何も言わないから。ほら、早く行きなさい」


「ありがとう」


 葉月の言葉に甘え、女子生徒の騒ぎがまだ少し遠いうちに、早々と教室を後にした。

 最近、先輩は昼休みになると毎回私の教室に来ては私の名前を呼び、注目を浴びせる。おかげで変な噂が流れている。

 私と先輩は付き合っているだの、私が先輩に言い寄っただの色恋沙汰の話ばっかり。


「いい加減にしてよね……」


 私は独り言をつぶやき、屋上へと急いだ。


 今日は晴れているから屋上に来た。雨だったら図書室に行く。最近はこれの繰り返し。もうすぐ夏だから日差しも強い。


「いい加減にしてほしいよ……」


 日陰なんてないから、直射日光は避けられない。日焼けしたら先輩のせいだ。


「1人が好きなのに……」


 1人、もしくは葉月と過ごすのはいいのだが、会って日も浅い人、それも男の人に毎度追い回されるのは勘弁してほしい。

 私はゆっくりと柵へと歩みを進めた。グラウンドでは昼休みにも関わらずクラブに励んでいる生徒もいる。高い場所からだと表情は見えないが、声はしっかりと聞こえる。生き生きした声が私の耳に届く。


「ここにいたのか」


 声の下方向に顔を向けると、そこには私が想像していた人物とは別の人物の人が立っていた。


「なんで、あなたがここにいるのよ。――山辺君」


 そう、私に声を掛けてきたのは先輩ではなく、何と山辺君だった。

 山辺君はゆっくりと私のほうへ歩み寄ってきた。


「毎日毎日、あの先輩から逃げるのは大変だろ」


「こっちはいい迷惑よ。変な噂まで立てられ、挙句に変に注目を浴びてしまった。先輩、葉月に続く有名人になってしまったわ」


 この短期間で3本の指に入るほどの有名人にまでなってしまった。全てあの先輩のおかげで。


「あの先輩とそんなに親しいのか?」


「あの先輩とは高校に入ってから知り合った。だけど、本当は高校に入る前にも会ったんだと思う。お互い覚えてないだけで」


 すると山辺君は眉をひそめ、首を傾げた。


「なんで、高校に入る前から知り合いだって言えるんだ?」


 しまったと思ったときはもう遅かった。私はまた余計なことを言ってしまった。


「そこまで話したくない。ただ、とりあえず言えることは、私はあの先輩とは関わってはいけない人なの。だから関わりたくない」


「話したくないって言うなら、深くは聞かねぇよ。俺もどうせ煙たがられているだろうし、知り合ってまだ日も浅いし、お互いのこと知らねぇしな」


 ならなぜこの人は私にかまうのだろうか。現に今こうしてわざわざ私を探しに来ている。別に用事もないだろうに。


「ああいうタイプはどうせ女目当てだ。いつも女に囲まれてヘラヘラしてるからな。お前も気を付けろ。まぁ警戒心むき出しだから大丈夫だろうが、油断はするな」


「わざわざそれを言いに来たの?」


「まぁな。お前恋に対して疎そうだし、忠告しに来た。お前みたいなやつ、優しい言葉かければすぐかもって思われるし」


「失礼な人。恋くらいしたことはあるわよ。叶うことも、ましてや想いを告げることもできなかったけど」


「それって、どういう……」


「お、ここにいたか」


 山辺君の言葉を遮るように先輩が現れた。何というタイミングだろうか。


「ん? 水野さんの他にもいるようだね」


 先輩は私の隣にいる、山辺君に視線を向けた。山辺君は少し怪訝な顔をしている。当たり前かもしれないが。


「俺は山辺陽人です。水野と同じクラスですよ」


 あ、一応敬語は使うんだと驚いている私をよそ目に、2人は会話を続ける。お互い穏やかそうに見えるが、表情は一切崩れない。敵対心があるようにも見える。


「へー、そう。あ、ちなみに俺は……」


「3年生の風間流星先輩ですよね。ソフトテニス部に所属し、成績優秀スポーツ万能。おまけに顔立ちも良く女子生徒からはもちろん、男子生徒からも人気で、先生たちの人望も厚い生徒会長…ですよね」


 先輩が自分から自己紹介をする前に、山辺君は説明付きで先輩のことを言った。私でも知らなかった情報があったが、まぁ有名人ナンバーワンだから、仕方がないのかもしれない。まぁ私が興味なさすぎるっていうのも一理あるだろう。


「1年生の間でも俺は有名なのか。にしても、俺のことよく知っているんだね」


「クラスの女子が毎日同じこと言っていますから、嫌でも覚えてしまいますよ。それに一応クラブの先輩でもありますしね」


 お互い決して目を逸らさなかった。一歩も譲らない――いや、譲れない戦いを目の当たりにしている気分だ。

 いつの間にか、グラウンドから生徒たちの賑やかな声がしなくなっていた。


「にしても、山辺君は水野さんとはどういう関係なんだ?ただのクラスメイトって感じじゃなさそうだ。ただのクラスメイトが、水野さんを追いかけるってことなんてしないだろう。この場合、追いかけるとしたら、水野さんの親友の立花さんだろうし」


 そういえば、私を追いかけてきた理由をまだ聞いていなかった。


「ただ心配だっただけですよ。毎度先輩から逃げている水野が。本人も嫌がっているのに、普通毎日のように昼休みに教室に訪ねて来ます? 水野はその度にこうやってあなたから逃げて、ゆっくりする暇もないんですよ?」


 心配だったから? まさか山辺君がそんなことを言うとは思っていなかった。

 山辺君の言葉に、先輩の顔が少し曇った。


「俺はただ水野さんと仲良くなりたいだけだが?」


「ならもう少し水野の気持ちくらい考えてはどうでしょうか。まぁ毎日のように女どもにちやほやされてお過ごしのようですし、水野の気持ちなんて考えられないのでしょう」


「何だと!」


「いい加減にしてください」


 2人は私の声に驚き、同時に振り向いた。


「このままだとヒートアップしてしまいます。冷静さを失ったまま会話を続けても意味がありません」


 私の言葉に反応したのは、先輩だけのようだ。山辺君は特に反応も示さない。先輩だけが感情的になっていたからそうなるのは頷ける。


「事の発端は私なので、私の率直な気持ちを申し上げますと、正直先輩の行動は迷惑です。目立ちたくなかったのに、先輩、葉月に続く有名人になりました。私は目立つのも嫌です。変な噂もちょくちょく耳に入ります。葉月がキレそうなのでなだめるのも大変なんですよ」


 葉月がキレたら本当に手に負えない。下手したら手を出しかねないから怖いのだ。あんな細身なのに力だけは強いのだ。


「……」


 先輩は何も言えなくなってしまったのか、黙って下を向いている。


「それに、私は忠告したはずです。私に関わらないほうがいいと。それなのになぜ付きまとうんですか? ユウ君の話はしないと言ったはずです」


 初めて会ったあの日、私はちゃんと先輩に忠告したはずだ。後悔すると分かっている相手に近づく理由が私には分からないのだ。


「まぁあまり責めるのは好きではないので、これくらいにしておきます。噂は気にはしていません。一部の女子は色々陰で言ってはいますが、直接何かを仕掛けるわけでもなさそうです。まぁ近づけないとは思いますが。恋愛の噂よりも私は別の厄介な噂もあるのでね」


 もちろん厄介な噂とは、血まみれの幽霊である。私に近づいて来た女子生徒が何人か見ている。

 友達になりたいと言って近づいて来たが、根端は見え見えである。先輩と仲が良い私を利用し、お近付きになろうという根端が。友達の件について断る前に、彼女たちから悲鳴を上げて離れて行ったが。


「とにかく、私にはあまり関わらないでください。正直、あなたがユウ君と親友っていうのが理解できません。ユウ君も先輩と同様顔は良いとは思いますが、一途な人です。言い寄ってくる女の人は全て断っていましたし」


 ユウ君の家は近いので、時々家の前を通ると、よく数人の女の子の姿を見かけた。わざわざ家まで来て想いを告げる人も。ストーカーかと思うほど毎日のように来ていた。

 でも、ユウ君には好きな人がいたらしく、告白され断っている様子を何度も目にした。安心する反面、好きな人は誰なのか気になったものだ。私にさえも教えてくれなかった。


「先輩のように、女子に人気はありましたが、囲まれてはいませんでした。だから余計に不思議なのです。真面目で一途なユウ君と、見た目と学力などを武器にしていつも女子に囲まれている先輩が、どうして親友なのかが」


 うつむいていた先輩が、顔を上げてしっかりと私を見た。


「いずれその話はしよう。水野さん、ごめんな。迷惑なのに毎日のように訪ねて。これからはなるべく関わらないようにするが、たまには話してくれよな」


 寂しそうな笑みを浮かべ、先輩は屋上を後にした。


「もうすぐ昼休み終わるな」


「あの、ありがとう」


「何が?」


「私が言いたいこと、先に言ってくれて。それに、心配かけてごめん。もう心配しなくていいから」


「いや、心配になるだろ」


「なんで」


「俺たち友達だろ?」


 友達……。何となく、懐かしい響き。


「友達か……。久しぶりね」


「あ……」


「どうしたの?」


「いや、お前、今少し笑わなかったか……?」


 私が笑った? そんなはずはない。

 慌てて顔を触るが、口角は上がっていない。山辺君の見間違いの気もする。


「お前、絶対笑顔が似合うだろ」


「そんなことない。変なこと言ってないで、さっさと教室戻ろう」


「いや、似合うって。俺が保証する」


「保証なんていらない」


 私たちは相性が悪いのかな? こんなにも言い合っている。

 でも、内心楽しんでいる自分がいる。私って、本当に悪い子だな……。

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