最悪な再会
家までの帰り道は、先輩が気を利かせてか、ずっと話を続けてくれた。私も話を続けようとするのだが、今までしっかりと会話をしてこなかったせいで、気の利いた返しをすることができなかった。それでも先輩は、うまく話を繋げ、話題を広げてくれた。いつも多くの人たちに囲まれるだけあって、話すのも上手い。慣れ七日、それとも先輩の生まれ持った才能か。どちらにしても、口下手な私にとってはありがたいことであった。
しばらく歩いていると、前に先輩と別れ、それぞれが家に帰った場所まで来ていた。
「じゃあ、俺はここで」
先輩は前に家まで来ることを拒否されたことを思い出してか、少し寂しげに別れを告げた。
「待ってください」
背中を向け、帰ろうとする先輩を思わず引き留める。先輩は振り返り、不思議そうに私のほうを見ていた。
「家まで送ってくれないんですか?」
その一言に先輩は目を丸くして驚いているが、それは私も同じことであった。前は拒否していたのに、今は自分で先輩が家まで来ることを望んでいる。自分の心境の変化に驚きを隠せていない。
「えっと、いいんですか?」
先輩は表情だけでなく、言葉からも驚きが伝わってくる。
「たまには送ってください」
散々先輩を避け、家までついてくることを拒否していたくせにこの言い方はないだろうと自分でも思ったが、先輩は何も言わず、私についてきてくれた。家までの間は、先ほどまでの饒舌な話し方とは違い、どこかしどろもどろになっている。家まであと少しなのに、こんなに遠く感じたことはない。
「着きました」
「あ、よかったです、はい……」
最後まで敬語なことに違和感を覚えながらも、送ってくれたことに対しては感謝している。
ふと先輩が隣の家を見る。つられて私も視線を向ける。私も先輩も、この家のことはよく知っている。私たちとって、とても大事な人が生まれ育った家なのだから。
「あいつの家族は元気にしてる?」
どこか悲しげな声で、視線は家にやったまま聞いてくる。それだけ、先輩も会っていないのだろう。
「私も分からないのですが、元気にしているのではないかと思います」
「そうか。じゃあ俺はこれで……」
――ガチャ
先輩が帰ろうとした瞬間、隣の家のドアが開く。出てきたのはユウ君の母親で、私にとって伯母さんにあたる人である。この状況はかなりまずいかもしれない。
「流星君……?」
「お久しぶりですね。お元気……」
「どうしてその女といるの!」
「え……?」
「その女は、その女は人殺しよ!」
先輩の言葉を遮り、息つく間もなく矢継ぎ早に捲し立てる。
「伯母さん、落ち着いて……」
「あんたなんかにそんなこと言われる筋合いなんてないわ! 流星君も一緒にいたら殺される。だから、こっちにおいで。久しぶりに話をしましょう?」
先輩はどういった状況なのか分かっていない。ずっと悟られないように気を付けていたのに、告白されて変に気が動転していたのか。まさかこんなことになるなんて思わなかった。自分の行動を呪うしかないな。
「水野さん、おばさんは俺が落ち着かせてくるから。水野さんは家に入りな」
「でも……」
「俺に対しては以前と変わらないみたいだから。久しぶりに話をしつつ、落ち着かせてくるから」
先輩は詳しいことは何も聞かず、伯母さんと一緒に家の中に入って行った。
「ど、どうしよう……」
この状況では、過去に何があったのか説明しなければならない。私が説明しなくても、伯母さんが全てを話かもしれない。事実をもっと悪い方向に……。
私は急いで家に入り、葉月に電話をかけた。




