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告白

いつもご覧頂き、ありがとうございます。少しずつ、私生活の方が安定して参りましたので、更新頻度も戻ってくるかと思われます。

時々、遅れることもありますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

 体育祭は無事に終わり、保護者や来賓を無事に帰るのを見届けたら終わり……ではない。私たち生徒は後片付けという嫌なイベントが待ち構えている。疲れ果てた体に鞭打ってまでやる作業ではない気がする。正直、保護者にも手伝ってもらったほうが効率が良いと思っているのは私だけだろうか。


「水野」


 テントの片付けをしていたら、どこからか私の名前を呼ぶ声が聞こえる。振り返ると息を切らし、どこか緊張した面持ちの山辺君がいた。


「何?」


 疲れている上に、やりたくもない作業をやらされている私は、少し八つ当たり気味に返事をした。無表情な上に低い声のトーンに、山辺君は気まずそうに口を開いた。


「その、話したいことがあるから、教室で待っててくれないか?」


「良いけど、どうしたの?」


「何でもない。あ、これ運ぶんだよな? 俺が持って行く」


 手にしていたテントの細かい部品を受け取ると、そのまま走り去って行ってしまった。


 いつもの山辺君とは違う様子に、一体今更何を話すことがあるのだろうかと考えながら、私は私の作業を進めることにした。


 片付けが終わると、各学年ごとに集まり、点呼やら労いの言葉をかけて即解散である。ここで元気の良い人たちは打ち上げだのなんだのと食べに行ったり、カラオケに行ったりとする。もちろん、私は行かないし、呼ばれることもないので関係ないことだが。


「葵、帰ろ」


「あ、ごめん。先帰ってて。山辺君に呼ばれてるから」


 そう言うとすぐに葉月の顔は嬉しそうになる。なぜそうなるのかが私には理解が出来ない。


「そっかそっか。じゃあ私は鳥谷君に声かけようかな。じゃあまたね!」


 いそいそと帰る支度を済ませると、鳥谷君の元へと向かう。嬉しそうにしたのは、鳥谷君を誘う口実になったからだろうか。そんなことを思いながら教室に向かった。


 もちろんだが教室には誰もいない。いつもは騒がしい教室も、今日はとても静かで、夕日が差し込んで少し寂しい雰囲気がある。静かすぎで逆にうるさいと感じる。


「呼び出しておいて何をしているのやら」


 先に来ていると思った山辺君はまだ来ておらず、1人愚痴をこぼしながら窓際まで行く。特にやることもなく、下を見ると生徒たちが楽しそうに話しながら帰って行くのが見える。これから打ち上げにでも行くのだろうか。そんな想像をして、どこか羨ましいと思ってしまう自分がいた。


「水野」


 ボーッとしていると、後ろから声が聞こえた。静かな中の声だったため、思わず体が大きく反応してしまった。


「悪い。待たせた。クラスの連中に捕まって……」


「打ち上げの誘いでしょ? 山辺君、クラスの中ではMVPだもの」


 あのリレーで成果を上げたのだから当たり前だ。元々、クラスでの人気も高い。男女問わず、なぜか人気がある。本人は否定しているが。


「そういう柄じゃねぇし」


「そういえばそうね。ところで、話って?」


「えっと、それは……」


 本題に入ろうとすると口籠った。そんなに言いにくいことなのだろうか。もしかして、ユウ君のことだろうか。だとしても、タイミングがなぜ今なのか。


「俺、水野のことが好きなんだ」


 色々考え、身構えていたところでの意外な発言に、どう反応して良いのか分からず、黙ってしまった。お互いの間に気まずい沈黙が流れる。


「急にこんなこと言って困らせてごめん。でも俺、水野のこと、友達としてじゃなくて、異性として好きなんだ。だから、水野、俺と……」


「嘘」


「え……?」


 思わず出た言葉に、自分でも驚きを隠せなかった。


「山辺君は私じゃない誰かをいつも見ている。私を通して、私に誰かの面影を重ねて、話しかけてる。話しかけている相手は、初恋の“あおい“ちゃん?」


 驚きつつも次から次へと出てくる言葉を、私は止めることが出来なかった。言ってはいけないのに。傷つけてしまうのに。それでも、口を閉ざすことを私は許してくれなかった。


「そうじゃない。俺は水野のことを本気で……」


「その目は違う。私を見ていないわ。私は“あおい“ちゃんの代わりなんかじゃない。それに私は、まだユウ君のことが忘れられないの」


 それだけを言い残して、私は教室を飛び出した。


 自分は最低だ。山辺君の気持ちは本気だ。緊張して赤面した顔。震える声。握りしめた拳。嘘なんてついていないことは明白だ。


 でも……私を見つめる目は、私を見ていなかった。私に向けられた視線は、私を見ているようで見ていない。どこか遠くを見る目。


「本当に、ごめんなさい……」


 必死に走る私の頬を、一筋の涙が流れ落ちた。

更新頻度も遅く、なかなか展開が進まず、続きを楽しみにしてくださってる方には申し訳なく思います。

内容も中盤に差し掛かりました。まだまだ話数は続く予定ですが、頑張って書き上げたいと思っております。

話の内容的にも、ここから少し盛り上がるかと思いますので、気長にお待ち頂けると幸いです。

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