学年別対抗リレー
「あー、いよいよか。なんか緊張するわね」
「そう言っている割にはしっかり準備運動してるじゃない。何よりその顔は緊張してる顔というよりは、自信満々な顔に見えるけれど、それは私の見間違いかしら?」
「どうでしょう? まぁ私は行ってくるわ。応援とカメラ、よろしくね」
葉月は私にカメラを預けると、颯爽と集合場所に向かって行った。その後ろ姿は、まるで勝ちを確信しているようだった。点差は正直、微妙なところではある。学年対抗別リレーは他の種目とは違い、点数が大幅に変わる。点差がある程度離れていても、この競技で成果を上げれば逆転の可能性は十分にある。
点数は上から3年生、2年生、1年生。学年別対抗リレーでは盛り上げる演出の1つで、得点版は最終結果が発表される閉会式まで外される。得点を知っているのは一部の先生と得点係の人しか知らない。
「第一走者、第二走者の人は所定の位置について準備をしてください」
アナウンスが鳴ると生徒たちが準備を始める。各学年2人ずつが一度に走る。順番は男女が交互になるようになっており、女子は半周、男子は1周を走ることになっており、逆転される可能性もあれば逆転される可能性もある。どんな展開があるか分からない。
「全員アンカーっていうのもすごいな」
葉月はもちろん、山辺君も鳥谷君も、あの先輩2人もそれぞれがアンカーだ。まぁ葉月の場合は女子のアンカーではあるが、アンカー並のプレッシャーはありそうだな。葉月なら大丈夫だろうけれど。ただ、アンカーは1周半走る決まりになっているため、持続力が必要となってくるだろうな。
「位置について、よーい――パンッ!」
ピストルの音と同時に走者が一斉に走り出す。応援者にも力が入る。これで勝負が決まると言ってもおかしくはない。体育祭独特の雰囲気も盛り上がる要素だろう。
「現在、3年生、2年生、3年生、2年生、その後を1年生が追って行きます!」
1年生はやはり現在最下位。やはり力の差は出てくるだろう。だが、どの学年も負けてはいない。抜いては抜かれと、接戦が繰り広げられている。
「やっぱり迫力があるわね」
陸上部はもちろん、足の速い精鋭揃いだ。誰が勝ってもおかしくはない。
「あ、次葉月か‘」
「ここで女子にバトンタッチ! おおっと! ここで1年生の立花選手が追い上げてきました!」
「おー!」
「頑張れー!」
「いっけー!」
走者が葉月になった途端、周りの応援に熱が入る。主に男子からの声援だが、中には女子の黄色い歓声も混じっている。葉月は男子はもちろんだが、女子からの人気もある。容姿端麗、文武両道。その上、たまに見せる男っぽさが一部の女子にウケているのだ。本気で怒った葉月を見たらファンは減るだろうけれど。
葉月はどんどんと追い上げ、2位まで差を縮め、アンカーの山辺君にバトンが渡る。1位は風間先輩。山辺君の後ろは東雲先輩、鳥谷君と続いている。
「おーっと! 1年生が追い上げ、現在1位の3年生と大接戦だ! アンカーは精鋭揃いだ! 誰が1位になるか!」
応援もアナウンスも盛り上がりは最高潮だ。本当に山辺君と風間先輩は接戦で、抜いては抜かれを繰り返している。その後ろもほとんど距離は変わらず、誰が1位になるか分からない。
いつ以来だろう。この気持ち。
「頑張れ!」
「まだイケる!」
誰もが釘付けになる競技が、今目の前で繰り広げられている。
「あ……」
ふと走っていた山辺君と目が合うが、それはほんの一瞬の出来事で。たまたまかもしれない。気のせいかもしれない。それでも、彼の顔は輝いていた。
ラストスパート。2人はほとんど並んでいる。
「が、頑張れ! 山辺君!」
――パンッ!
そう叫んだと同時に、ゴールを知らせるピストルが響く。ここからではどっちが勝ったかは分からない。その間にも続々とゴールする。結果発表があるまで順位が分からない。自分が走ったわけでもないのに、心臓が破裂しそうなくらいドキドキしている。
「えー、結果が出ました。学年対抗別リレー、第1位は……1年Aチームです!」
その発表の後、会場はこれまでにない盛り上がりを見せた。アナウンスは続いているが、その声もかき消されそうなほど。最終結果は1位が山辺君と葉月がいるグループ、次に風間先輩、東雲先輩、2年生を挟んで鳥谷君のチーム、最後が2年生だ。これは最終結果が楽しみだな。
山辺君は他の1年生たちに囲まれながらも、嬉しそうにしていた。普段クールな彼からは想像がつかないほどのキラキラした顔をしている。他の仲間たちに讃えられているのが少し照れ臭そうな一面は、いつもの彼だなと笑ってしまう。
勝てて良かったと思ったと同時に、どうして急に山辺君だけにエールを送ったのかが疑問だった。同じチームだし、応援するのは普通なのだが、だったらなぜ山辺君だけだったのか。葉月のときでさえも無言だったのに、鳥谷君のチームは応援しなかったのにとか色々と疑問が湧く。
だが、考えてもその答えは出なかった。考えても分からないことを考えても仕方がない。私が今できることは、これから戻って来るみんなに労いの言葉と祝福の言葉を送ることだ。




