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障害物競争

 昼休みも終わり、後半戦も盛り上がりを見せている。大分点数は埋まってきてはいるものの、未だに1年生は全体的な点数だ。私が出場した綱引きも台風の目も、これといった結果を残すことは出来ないまま、私は応援に回ることになった。


 次の種目は確か障害物競争。鳥谷君が出場しているはずだ。葉月もカメラを構えて、ベストなポジションを狙いに行った。正直、この種目が一番気合が入っているように見えるのは私だけだろうか。


「なんか、立花気合入ってたな」


 相変わらずなぜか隣にいる山辺君も同意見のようだ。他の人には浮かれて見えていないだろうか。ただでさえ、葉月のファンクラブから敵対視されているのに、さらに敵を作ることにならないように祈っておこう。


「鳥谷君、葉月のことって、ただの友達としては見てないわよね?」


「今さらすぎる質問だな。そりゃそうだろうよ。ただ憧れているだけでもないが、本人は認めないんだよな。多分、自分に自信がないのも理由の1つだろうが」


 グラウンドに入り、準備運動をしている鳥谷君を見ると、どこか寂しげだ。ずっとそばで見ているから、良いところも悪いとこも全部知っているのだろう。私と葉月もそんな関係だ。喧嘩もしたけど、誰よりも私のことを理解し、認めてくれている。この出会いには感謝だ。


「お、やっとあいつの出番だ」


 スタートラインに立った鳥谷君はグラウンドを見渡して自分が乗り越える障害物を確認している。前の人が全員終わったのを確認すると、ピストルが鳴り、一斉に選手が走り出した。


 まず最初に選手たちを待ち構えているのは高跳びなどで使う分厚いマット。それが2枚重なっているから、身長よりは低いとはいえ、少々越えるのはしんどいだろうが、鳥谷君は身軽に越えて行く。不安定なマットの上から飛び降りると、次に待ち構えているのはハードル。陸上部のように綺麗なフォームで飛び越え、くぐり、最後も飛び越えた。


「彼、すごい身軽ね」


「昔からああなんだ。木登りとかも軽々こなしてたしな」


「へー。想像がつかないわね」


 私たちがそんな会話をしている間にも、次の障害物である網も簡単にくぐり抜けた。慣れない体勢で、引っかかりやすい網の中をスイスイ進む姿は、まるで猫のようだった。


 しかし、そんな彼でもパン食い競争は苦戦していた。なかなかパンが咥えられていない。上を向いて咥えるという、日常ではしない動作は、人によっては難しいだろう。少々出遅れたが、次の平均台を走るようにしてクリアすると、縄跳びも10回軽々跳んだ。楕円形に作った段ボールのキャタピラの中に入り、進む姿は少し可愛らしかった。


 そして、最後の難関。小麦粉の中に入った飴玉を探し出すこと。手を使わず、口だけで飴を探すのは至難の技だ。鳥谷君もパン食い競争並みに苦戦していた。その間にも他の人はどんどん見つけていき、ゴールした。ようやく飴玉を見つけた彼は、飴玉を咥え、パン片手にゴールした。顔を真っ白にしながらもゴールできたことに喜びを感じ、待機場所へと戻って行った。


 結果は最下位になってしまったものの、軽やかにクリアしていく姿は、しっかりと葉月の目に焼きついただろう。それはもう一つの目にも。


「もったいないわね」


 あれだけの魅力を持っているのに、どうして自信にならないのか。人のことは言えないが、それでもその魅力が分かっている人がいることは知っていてほしい。


 ふと遠くに見えた葉月。カメラを構えずに、しっかりと自分の目で鳥谷君を見ていた。鳥谷君には伝わってほしい。葉月に届けてほしい。そんな思いばかりが募っていった。それは山辺君も同じかもしれない。

 

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