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騎馬戦 陽人side

 体育祭も中盤に差し掛かる。どの学年も接戦だ。1年は最下位ではあるが、これからの競技で挽回することも可能である。


 さて、これからは俺の出番だ。


 俺は集合場所に向かう。そこにはすでに他の3人も来ていた。俺がこれから出るのは騎馬戦。後で知ったことだが、これには空輝も風間先輩と東雲先輩も出るらしい。


 しばらくすると前の種目も終わり、入場の合図が流れた。誘導係について行き、所定の場所で待機する。これも偶然なのだが、俺は空輝と同じチームで俺が上。風間先輩と東雲先輩も同じようで、向こうは風間先輩が上のようだ。


「絶対に負けられないな。水野さん見てるんだろ」


「お前こそ、コケてみっともない姿を立花に晒すなよ」


 同じチームだからこそ、こういうことも言い合える。空輝との協力プレーは日頃の練習や試合で慣れているからやりやすい。


 騎馬戦は1チーム4人体制で、各学年5組ずつ計15チームが一度に戦う。ルールは簡単。上に乗っている人のハチマキを取ったら勝ち。ただし、体当たりや意図的な攻撃は禁止。途中で体勢が崩れても、ハチマキが取られていなければ続行。立て直し中は狙うのは禁止。シンプルだが、ぶつかることは避けられないため、多少は怪我をしそうだ。


 俺たちは先生の指示で体勢を整える。何度も練習して、安定の姿勢を取れるようになった。あとは俺が指示を出すだけ。


「よーい……」


――ピーッ!


 笛の合図で一気に動き出す。俺たちもその合図でまず敵から距離を取るように指示をした。


「これからどうするんだ」


「とりあえず、様子を伺いながら動け。もちろん、敵がいたら逃げろ」


「了解」


 俺たちはまず全体の状況を把握するために逃げ回りながら敵から距離を取った。予想通り、上級生は下級生を狙っている。体格や体力と共に先輩たちの方が有利だからな。高校生の男子ともなると力も強いしな。


「最初は他の仲間の援護に回るぞ」


 全体の状況を把握した俺は、まず他の仲間の援護に回ることにした。今は何より、ハチマキをたくさん取ることよりも、協力して脱落者を増やしたほうがいい。敵の数が減ればこちらも動きやすくなる。


「待て!」


「逃げるな!」


 追いかけては追いかけられを繰り返し、敵の数も減っていく。それでも、やはり3年生は手強い。360度気にしながら、相手の隙を伺い、一気にハチマキに手を伸ばす。


「取ったぞ!」


「ナイスだ、ハル!」


 下の3人に負担がかからないよう、上の俺は動きを最小限に抑える。体全体で相手の手をかわしながらどんどんハチマキを取っていく。気が付けば残りの騎馬隊は俺たちと先輩のところだけ。


「一騎討ちか。これは負けられねぇな」


「そうだな。例え先輩でも容赦はしねぇ」


 先輩が相手だということもあり、俺はそれだけで気が昂った。最後まで残り疲れているはずなのに、まだまだ動けるほどに興奮していた。最後まで残ったからなのか。それとも、会場の熱気が伝わってくるからなのか。いや、相手が風間先輩だからだろう。


「なんと最後に残ったのは1年生と3年生の2組! これはどちらが勝つのでしょうか!」


 放送の声にも熱が入る。俺たちはお互い一定の距離をとり、様子を伺っている。


「空輝、正直向こうのほうが経験もあれば、体格差もある。しんどいかもしれないが、一気に決着をつけるぞ」


「分かった」


「行け!」


 俺の合図で3人が駆け出す。先輩たちもそれを合図に俺たちに近付く。真っ向に戦っても負ける可能性が高い。ならば、すれ違う一瞬の隙を狙うしかない。


 先輩たちに近付く間に、俺は姿勢を整え、目一杯手を伸ばした。向こうも俺たちの意図に気が付いたのか、俺と同じように体勢を整えた。


「いっけー!」


 俺は伸ばされた先輩の手をかわし、逆に手を伸ばして先輩のハチマキを取った。


「「「わー!!!」」」


 会場は盛り上がりを見せ、騎馬戦は幕を閉じた。俺たちは勝った嬉しさと、急に襲ってきた息切れと疲労感と戦いつつも、清々しい気持ちでいっぱいになった。


「「「ありがとうございました!」」」


 最後の礼に対し、どこか先輩たちは悔しそうな、でも誇らしげな顔で俺を見ていた気がする。最終結果は1年が6本、3年が5本、2年が4本で騎馬戦は1年が優勝だ。どの学年も接戦で、あと少しで勝ったり負けたりするほど。


「お疲れさま。それと、おめでとう」


 冷水機でのどを潤していると、後ろから声をかけられた。振り向くとそこには水野が立っていた。


「最後はヒヤヒヤだったけどな」


「本当に接戦だったものね。本当にお疲れさま。それと、その、キラキラしてて、カッコよかったよ」


 いつもは堂々としている水野の声は、最後はどこか言いにくそうに、消え入るような声だった。それでも俺にはしっかりと届いた。


「……ありがとな」


 俺はそれ以上言葉を返すことができなかった。どこか気まずい空気になりつつも、俺たちは自分達のクラスに戻った。騎馬戦で勝ててよかったな。今日は例え優勝しなくてもいいや。そんなことを思ったことは内緒だけどな。

いつも読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。読みにくい部分もあり、度々投稿を休んでいますが、長い目で見守ってくださると幸いです。

もうすぐゴールデンウィークですが、皆様はどうお過ごしですか? なかなか出かけることができないかもしれませんが、体調に気をつけ、楽しんでください。

これからもよろしくお願いします。

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