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先輩の夢

アップが遅れました。

 どうしてか一緒に帰ることになってしまった私たち。幸い、時間も遅いためほとんど生徒がいなかったのが幸いした。ただ、私は誰かに見られるのではないかと気が気ではなかった。


 私たちはさっきからずっと無言の状態が続いている。まともに話すこともなかったため、どういう話をしていいのか分からなかった。それに、ここ最近ずっと先輩のことは避けていたため、余計に気まずい部分もある。


「水野さん」


「はい」


 急に名前を呼ばれ、私は思わず身構えた。名前を呼ばれるだけで身構えるなんて、どれほど緊張しているのかよく分かった。


「体育祭の練習、どんな感じ?」


「え、あぁ。ダンスに関しては問題ありません。種目も希望通りになったので」


 ユウ君のことを聞かれると勝手に思っていたため、全く違う質問に気が抜けてしまった。先輩なりに気を遣ってくれたのだろうか。


「そういう先輩はどうですか?」


「俺はもう3回目だからそこまで」


「まぁそうですよね」


 何を当たり前のことを聞いているのかと自分でも呆れる。山辺君たちだと普通に話せるのに、先輩だと話が続かない。今まで避けていたからだろうか。


「先輩は医者になりたいんですか?」


 ふと口から出た言葉。ずっと気になっていたからだろうか。そんなことを聞いていた。


 この質問には先輩も驚いたようで、少し戸惑いを見せたが特に隠すことなく話し始めた。


「そうだな。もともと、俺は医者を目指すつもりはなかったんだけど、1人でも多くの人の命を救いたくて。だから外科医を目指してる」


「そうなんですね」


 多分、先輩が外科医を目指している理由は、ユウ君が関係しているのだろう。私の前だから名前を出さないだけで、先輩にとっての大きな転機となったのはこれがきっかけなのだろうか。


「でも、結構しんどいな。目指している大学が最難関で。正直、受かるかさえギリギリだって言われたよ」


「先輩なら大丈夫ですよ。それだけの実力がありますから。ユウ君のライバルなんですから、自信持ってください」


「そうだな。あ、そういえば……」


 そう言って先輩は学校であったことはもちろん、時々ユウ君の話もしてくれた。やっぱり、先輩に見せていた姿のギャップには慣れないけれど、知らない一面を知ることができて嬉しいって思っている自分もいる。


 私を気遣ってなのか、それとも先輩自身、無言の状態が耐えられないのか、ずっと喋ってくれた。こんなに避けているのに、勉強を教えてくれたり、気を遣わせないように話してくれたり。先輩の優しさが、今の私にはとても堪える。


「先輩」


「どうかした?」


「先輩なら、良い医者になれますよ、きっと」


「ありがとう、水野さん」


 夕日に照らされる笑顔は、とても優しげでどこか安心する顔だった。いつか、私も笑える日が来るのだろうか。笑えますようにと、願っていいのだろうか。そんな思いが頭をよぎった。

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