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体育祭の合間にも

すみません。小説を投稿したつもりでいました。

「じゃあ私、写真行くから」


「行ってらっしゃい」


 私は葉月を送り出し、1人教室に残っている。今回の課題は少し難しく、なかなか解けない。学校で残って問題を解こうと思ったのだが、それでも解けない。やはり、数学は苦手だ。図書室にでも行ってみれば、ちょうどいい参考書が見つかるかもしれない。


 それに、家だと雪が勉強の邪魔をしてくるので、集中ができないのである。私が相手をしようとしても遊んでくれないのに、私が相手できないときに限って構ってくれと寄ってくる、本当に気まぐれなやつだ。猫だから仕方ないけれど。


 図書室には入ると、数人の生徒が勉強をしたり、本を読んだり、思い思いの時間を過ごしていた。いつもならもう少し生徒がいるはずなのだが、今は体育祭。勉強よりもそっちに気合が入っているため、いつもより少ないほうだ。


 私は生徒が少なく、かつ人の出入りが少ない場所を探して奥の方へ行く。前よりかは落ち着いているが、これでも一応は名前がほとんどに知られている。あまり目立つ場所にはいたくないし、人の出入りが激しい場所は気が散って集中ができないからだ。


「ん?」


 奥の席を見てみると、そこにはどこか見覚えのある人が机に参考書やノートを広げ、その上に突っ伏して寝ている人がいた。奥の席は本棚で隠れているため、手前からでは見えない。そのためにここに来るまで気が付かなかった。


 相変わらずの髪色。そして、警戒心のない寝顔。そう、風間先輩だ。ここが学校だということをこの人は分かっているのだろうか。それとも、学校だということも忘れるくらい疲れていたのだろうか。

 先輩に近付くと、広げられていた参考書がよく見える。広げられていた本は教科の参考書かと思ったのだが、大学入試の過去問とその解説だった。しかもそこの大学は、医学部が有名な場所だった。何度も解いているのだろうか。本には年季が入っている。ページにはシワがあり、大事なところには線が引いてあったり、自分が分かりやすいようにまとめたりしてあった。


「そういえば、一応3年か」


 今さらだが、私よりも2つ上の3年生。そしてもう夏休みも明け、残暑は残っているが暦では秋に突入している。ほとんどの3年生は志望校に向け、勉強に励んでいる時期だ。勉強にクラブにと、本当に色々頑張っているな。


「ん……」 


 先輩の寝顔と参考書を見比べていると、気配か物音に気が付いたのか、先輩が目を擦りながら上半身を起こした。まだどこか眠そうだが、私に気が付くとどんどん目が覚めてきたようだ。


「み、水野、さん……?」


 私がここにいることに驚いたのか、それとも寝ているところを見られて恥ずかしいのか、少しだけ取り乱している。いつも落ち着いている先輩が慌てている姿は、どこか面白かった。


「ど、どうしてここに?」


「課題に合う参考書を探しに。そしたら、先輩が本を枕にヨダレを垂らして寝ている場面に遭遇したわけです」


「ヨダレなんて、垂らしてない」


 もちろんそれは冗談なのだが、先輩はさりげなく確認している。案外、真に受けやすい性格のようだ。こういう一面はどこか新鮮だ。いつもどこかクールな先輩。笑顔なのは変わりないが、どこか影があるようなそんな雰囲気をいつも纏っているから、余計にそう思ってしまうのだろう。


「ねぇ水野さん」


「何ですか?」


「もし水野さんがいいなら、俺が課題について教えてあげようか?」


「え?」


 思ってもみない申し出に、思わず固まってしまった。私は先輩を避けている側なのに、こういうことを言われるなんて思っていなかったからだ。


 返答に困っている私に、先輩は慌てたように口を開いた。


「いや、別に断ってもらってもいい。その、無理強いはしないから」


「いえ、そうではなく、先輩も勉強をしていたのでしょう? それなのに私の勉強を見てもらうなんて迷惑かと」


 机に広げられた参考書を見る限り、私に構っている暇などないだろう。こんな難解な問題を解くためには、もっと深く勉強をする必要があるだろう。


「いや、大丈夫。それに、そこまで時間は取らないだろうし」


「そう、ですか。先輩が良いのでしたらお願いします」


「え?」


「何ですか」


「い、いや、断られるかと思って……」


「こういうのは教えてもらう方が早いかと。それに、ここならあまり目立ちませんし」


「そ、そうか。じゃあちょっと待って」


 先輩は驚きながらも机の参考書を片付けていく。緊張なのか焦りなのか、その動きもどこかぎこちなく思える。それに比べ、私は普通という何とも不思議な感じだ。


「どうぞ。上手く教えられるか分からないけれど、とりあえず見せてくれる?」


「はい」


 私は先輩の席の向かいに座り、課題を見せることにした。分からない課題は、言うまでもないが数学である。


「あ、これか。俺も最初は苦手だったよ。これはこの公式を応用して……」


 先輩はゆっくり丁寧に教えてくれる。教え方は先生よりも上手で、とても分かりやすい。ふとみんなで勉強したときのことを思い出す。そういえば、山辺君の教え方も上手だった。この学校、生徒の方が先生よりも教え方上手いって大丈夫なのだろうか。


 余計なことを考えながらも課題を解いていく。1人で解くよりも早く問題が解け、何より分かりやすく覚えやすい。先輩が考えたという公式の覚え方も教えてもらった。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」


「これくらい全然いいよ」


 最初は驚いて緊張していたのに、勉強を教えているうちにいつもの先輩に戻っていった。切り替えが早いのも先輩の良いところか。


「あ、そろそろ帰らないと」


「あ、じゃあ俺も帰るから待って」


 先輩は机の上を片付け始めた。普通に待っているが、この流れは一緒に帰る流れなのだろうか。勉強を教えてもらった手前、先に帰るといった選択肢はない。


「じゃあ行こう」


 断る間もなく、私たちは一緒に帰ることとなってしまった。

Twitterのフォローもよろしくお願いします。

@mijukunagisa

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