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乱れる感情

 1年生に向けたオリエンテーションも一通り終わり、学校にも少しずつ慣れ始めた。授業もだんだんとスピードが上がる。さすが有名な進学校だ。課題の量も多い。


「葵、なんであんたはそんなに冷静なのよ……」


「これでも焦ってるほうだよ」


「そういう風に全然見えないから」


 昼休み、葉月と弁当を食べながらそんな話をする。入学してから約2週間が経った。特に変化はないが、やはり高校のレベルは高い。黒板の文字をノートに写すだけで1時間が終わってしまう。先生の話などまともに聞いていられないほど。


「分からないところがあれば私が教えるから。葉月も頑張りなさい」


「言われなくてもやりますよ。昔は私が葵に教えてたのになー」


 そんなことを話していたときだった。


「おーい。水野さーん」


 この声は……。


「やっぱり……」


 振り返るんじゃなかった。そこには先輩の姿があった。


「キャー! 風間先輩よ!」


「相変わらずカッコいい!」


 クラスの女子が黄色い声を上げている。本当に先輩は人気者なんだな。クラスの女子に囲まれている。逃げるなら今か。


「水野って、あんたのことじゃ……」


「理由は後で話す。とりあえず私は逃げる」


 女子に囲まれている先輩のいるドアとは反対のドアから出て、私は一目散に逃げた。



 学校の見取り図は覚えているが、移動教室のとき以外は基本教室にいるため、逃げるのは難しい。あちこち逃げ回り、ようやく静かな場所を見つけた。


「ここならいいか」


 辿り着いたのは図書室。利用している人は今の時間は1人もいない。ここなら静かでちょうどいい。


「はぁ……。関わるなと言ったのに……」


 お墓参り以降、先輩と関わることはなかった。あれだけ言ったから大丈夫だと思っていたのに、なんで急にまた……。名前も呼んでいたから、これはクラスの人に注目浴びるな。女子からの視線が特に嫌だな……。


「はぁ……」


 これから先めんどうになりそうだなと思いながら、窓際の席へと腰をかけた。


「昼の日差しは眠くなりそうだ」


 晴れの日は好きだが、雨の日は大嫌いだ。雨を見るとあの日のことを思い出す。

 私はあの日から雨と赤が大嫌いになった。私からユウ君を奪った日が雨だったから。


「ここにいたのか」


 せっかく静かに過ごせると思ったのに……。


「なんで来るんですか」


「冷たい言い方するなよな」


「何か用でも?」


「用がなきゃ話しかけちゃダメなの?」


 先輩は私の前の席に腰をかけた。


「関わらないほうがいいと忠告したはずです」


「それでもいいじゃん。だって俺、もっと水野さんと話したいし、一緒に優月のことでも話がしたい。あいつは小さい頃からの付き合いだしな。あいつのこと分かる奴っていないし。だから、俺は水野さんと……」


「やめてください。あまり私は思い出したくないんです」


「辛いのは分かるけど、あいつが亡くなってだいぶ経っている。そろそろ前を向いても良いと思うけど」


「あなたに何が分かるの!」


 私は席を立ち、声を荒げた。だが、先輩は動じることもなく、ただ私を真っ直ぐに見つめていた。


「ようやく感情を出してくれたね。それが水野さんの気持ちでしょ? 確かに俺はまだ水野さんのことは何も知らないけど、俺は知りたいよ。だから、少しでもいいから関わってよ。それだけだから。そろそろ戻らないと授業遅れるよ」


 先輩はそれだけを言うと、1人図書室を出て行った。


「私の気持ち……」


 久しぶりだった。こんなに感情を露わにしたのは。しかも、ほとんど初対面の人に。


「いけない。自分を見失うところだった」


 私は両手で思い切り頬を叩き、図書室を出た。

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