体育祭に向けて
「あー、暇だなー」
私たちは今、体育祭に向けて練習している最中だ。今は体育の時間なのだが、この時間は各グループに分かれてダンスの練習中だ。私と葉月は同じグループになったのだが、とりあえず、ほとんどのダンスの動きを覚えてしまって暇なのだ。
体育祭のダンスといえどやはり気合は入っている。難しい動きも入っているため、素人が踊るとどこかぎこちない。初めて踊るにしては少々難易度が高いダンスではあると思う。私と葉月はさっさと振り付けを覚えてしまった。プロに比べればぎこちないが、高校生にプロ並みのダンスは求めないだろう。
覚えが早いのはただ単に私たちの素質もあるが、葉月は私を元気づけようとよく踊りを見せてくれていた。私のために必死に覚えてくれていたのだろう。私はただ踊りというか、体を動かすことが性に合っているから。運動すること自体は嫌いではないから。
同じグループの子達にも踊りを教え終わり、休憩がてら私たちは休んでいる。他のグループは踊りを覚えるだけで苦労している。私たちも簡単に覚えられたわけではないから、余計に大変だろうな。
「他の種目の練習もちょこちょこやってるけどさ、本番はどうなるのかしらね」
「そうね。私たちはたま入れと綱引きは同じだけど、最後の種目だけ違うのよね」
「私は学年別対抗リレーに出るけど、葵は障害物競走だもんね」
葉月は小さくため息をついた。私は基本希望通りになったのだが、結局葉月は学年別対抗リレーに出ることになった。頼まれたら断れない、葉月の性格ではある。まぁ嫌なことははっきり嫌というから、嫌々出ているわけではないだろう。
「どんな障害物なんだか」
「さぁね。そういえば、葵は聞いた? 山辺君も学年別対抗リレー出ること」
「え、そうなの?」
山辺君が学年別対抗リレーに出るなんて初耳だ。そういえば、どの種目に出るかもちゃんと聞いてなかったな。なんだかんだ話す機会がなかったから仕方ないか。
「山辺君も同じ理由らしいよ。よかったわね、葵。体育祭の最後は山辺君が大活躍するかもよ」
「なんで私がそれを喜ぶのよ。でも、学年別対抗リレー、先輩2人も出るんでしょ」
風間先輩と東雲先輩。まぁ風間先輩に関しては女子が見たいからっていうのが主かもしれないな。運動音痴というわけでもなさそうだから、周りから頼りにされている証拠でもあるだろう。体育祭の花形でもあるし、人選選びは重要になるからな。
どうして先輩たちが出るのか知っている理由は、言わなくても分かるだろうが、嫌でも耳に入ってくるからだ。女子の情報網を侮ってはならない。噂になりやすいと大変だな。
「主役はそっちに取られそうね。残念だなー」
「いや、あなたも主役でしょうが」
注目する人が男か女かの差だが、まぁどっちもどっちだろう。学年関係なく応援しそうだ。団体ではなく個人としての競技になりそうだが、楽しめるならそれでもいいだろう。
「初めての体育祭、楽しんだもの勝ちよ。さて、そろそろ私たちも練習再開しよ。あまりサボると周りの視線が痛いからねー」
「はいはい」
私は水を一口飲んで、葉月の後に続く。ダンスの練習を再開した。
ただ、妙に葉月の言葉が耳に残っている。
『楽しんだもの勝ちよ』
確かにそうかもしれない。学校生活にも慣れ、特に問題も今は起きていない。何より、いけないと分かっていつつも、楽しみたいと思っている自分を否定できない。何が正解なのか分からない。ただ、頭の片隅にはずっと存在している。ユウ君のことは、片時も忘れてはならないから。
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