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見抜かれた恋心

 掃除を終えた私は先輩を見る。先輩は綺麗になったお墓を見てどこか満足した顔をしていた。初対面でこんなに思ったことを言えたのは初めてかもしれない。葉月でさえ最初は打ち解けるまで時間がかかったのに。やっぱりユウ君と同い年で親友だから、どこか親近感が湧くのかもしれない。


 葉月以外の人とこんなに話をしたのは久しぶりかもしれない。最後に葉月以外の人と話したのはいつだろうか。幽霊のせいで私に近寄って来る人がいなくなったのが一番の原因だけれど。


 それにしても先輩とは初めて会った気がしない。どこかで見たような気がする……。


「水野さんって笑えばもっと可愛いと思うのにな」


 先輩について思い出そうとしていると、私に向けてなのか独り言なのか分からない言葉をつぶやいた。


「私に、笑う資格なんて、ありませんよ……」


 自然と口からはそんな言葉が出る。でも、声は震えていた。

 私はあの日からずっと感情が表に出ない。いや、そもそも何も感じなくなってしまった。楽しいとも面白いとも、そして悲しいとも辛いとも……。


 葉月は前に笑ってもいいんだよとか、泣いてもいいんだよとか言った。でも、それきり何も言わなかった。私がこうなった理由を知っているから、無理強いもできないのだろう。


「どうして? 感情はその人のものなのに。笑いたいときに笑って、泣きたいときに泣く。そんなことをしたって誰も責めやしないよ」


「私はあの日から感情というものを失いました。何も感じないから顔にも出ません」


「あの日って? それと、なんでそれが原因で?」


「それは言えません。特に先輩には絶対に」


 ユウ君の親友である先輩に話せるわけがない。どうして今日はあの日のことばかり思い出させるのだろうか。


「まぁ嫌なら別に構わないよ。水野さんを苦しめたくないし。でも、感情はその人の自由に表現してもいいと俺は思う。優月が死んだことも関係があるのかもしれないけど」


 先輩の言葉にドキッとする。先輩を見るとニヤニヤした顔で私を見ていた。


「そのピンクのチューリップの花言葉は誠実な愛、だったかな。優月が詳しいから、よく聞かされていたよ。それで自然と覚えたんだ。こんな花を供えるなんて、好き以外に理由はないと思うし。掃除中も悲しみとは別に愛おしそうな目で見ていたから。家族というより恋愛感情として接しているように感じた。いくら無表情でもこれくらいは分かる。どう?」


 そんなドヤ顔で言われても……。


 私はそんな先輩を見て大きくため息をついた。


「この花は花屋さんが選んでくれたものです。花言葉は教えてもらいましたので知っていましたけれど。まぁ隠しても無駄みたいなので正直にそれは認めます」


「もっと恥ずかしがって否定するかと思ったのに」


「期待していた反応とは違いすみませんでした。でも、先輩は変だと思わないんですか? いとこが好きだなんて。家族に恋をしているのに」


「別にそうは思わないよ。誰が誰を好きになろうとその人の自由だし。それがたまたま、いとこの優月だったってだけだよ。優月はすごく優しいしカッコよかったからね。水野さんが好きになるのも分かるよ」


 私は驚いた。まさか、葉月と似たようなことを言われるなんて思ってなかったから。


 鼻歌交じりに先輩はチューリップを生けていく。私はそんな先輩を見ながら自分の顔に触れた。まさか無表情でもこんなに感情が表に出ていたなんて思わなかった。何も感じなくても、顔も体も覚えているのかもしれない。


「これでよし」


 綺麗に生けてくれたので、私はロウソクに火を点ける。そして先輩と一緒に手を合わせた。


「優月、俺に可愛い後輩ができたよ」


 一体親友に何を報告しているのだろうか。どんな顔をしているか見たいが、見なくても分かるから見ないことにした。


「さてと。私はそろそろ帰ります」


「家は優月の家の近くだったよね?」


「そうですよ」


「なら俺が送ろうか?」


「先輩の家は同じ方向なんですか?」


「いや、反対だけど?」


「なら言わないでください。家が同じ方向ならともかく、反対なら結構ですよ。別に夜道を帰るわけではありませんから」


 今は昼過ぎ。外は明るいし人も車も多くはないが通っている。送ってもらわなくても大丈夫なのだ。


「遠慮しなくてもいいのに」


「遠慮していません。それと、今回は仕方ありませんが、学校では私に関わらないでください」


「なんで?」


「人と関わることが嫌いなんです。それと先輩のためでもあります。私に関わるとろくなことがありませんし、友達も彼女もできませんよ」


「そういや、さっき幽霊がって言ってたね。それも理由?」


「あまり人には言っていませんが、私には血だらけの幽霊が憑いているみたいです。私に近付くとほとんどの人がそれを目撃します。見えていないのは私自身と親友の葉月だけです」


「葉月ってさっき言っていた子?」


 記憶力がいいのか、それとも女子の情報についてはしっかりと覚えるタイプなのか、その辺は分からないが葉月には近付けさせたくはない。


「モデル並みに美人ですが、下手に手出しすれば私が黙っていません」


「人を女たらしみたいに言うな」


「言動からそうとしか思えません。まぁ先輩も葉月と同様見た目は良いみたいですが」


 見た目は先輩もどこかのモデルなのではないかと思ってしまうほど。葉月と並んだらさぞお似合いだろうと思うがそれは見た目だけなので正直近付けさせたくはない。


「それで、関わるなって理由はそれだけ?別に俺は気にしないよ。俺には別に見えないし、友達もそこまでいない。優月以上の人がいないからな。女は勝手に寄ってくるし」


「やっぱり女……」


「それ以上言うな」


 目だけですごい圧をかけてくる。怖いことになると思って私はやめた。


「それと、それだけではありません。先輩が私に関わればきっと後悔します。それだけは言えます」


「初対面でお互いのことを知らないのに、よくそんなことが分かるね」


「分かります。私がそう思う理由は先輩がユウ君……色河優月の親友だからです」


「たったそれだけ?」


「そうです。私はこれ以上人を傷つけたくありません。では、私はこれで」


「おい!」


 先輩のほうを見ることなくそのまま走り出した。

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[良い点]  とくになし。   [気になる点]  話を淡々と進めているだけで、物語の良さが伝わってて来ない。  主人公の感情を書くにしても、「~と思った」という表現が多いのが気になる点。    こ…
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