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浴衣姿 陽人side

「何ソワソワしてんだよ。誘ったのは珍しくお前からのくせに」


 待ち合わせ場所で忙しなく動き回っている空輝に声をかける。今日会ってからずっとこんな調子だ。


 空輝から祭りに立花さんを誘ったって連絡がきたときはあいつがデートに誘ったのかと驚きと喜びがあったが、まさかの2人ではなく、俺と水野も含めた4人でらしい。なぜそこで2人で行かないのかと言いたくなったが、まぁ性格上無理かと諦めつつ、今日に至る。もちろん、途中で2人にさせられないかと考えてはいる。


「し、仕方ねぇだろ。というか、お前がおかしいんだよ。なんで立花さんがいるのに緊張しねぇんだよ」


「まぁ色々な面とか知ってるからな」


「なんだよ、その意味深な言葉。お前、立花さんの何を知ってんだよ」


「なんもねぇよ。って、来たぞ」


 人混みでも分かる。色々な人の視線が同じ場所に集まっているから。特に男性の視線が多いってことはそういうことだろう。美人で綺麗だとは思うが、本当にすごいな。見た目だけでなく、オーラというか、そういうものも持ち合わせてるんだろう。


「お待たせ。もしかして待たせた?」


 俺たちの目の前に現れたのは浴衣姿の2人だった。立花は黒に赤い金魚があしらわれている浴衣だ。赤い帯が浴衣をさらに引き立たせている。立花にしては思ったより大人しめな浴衣だ。まぁこれくらいがちょうどいいだろう。変に飾りつけるよりはちょうどいい。髪もしっかりとお団子にされ、髪飾りも控えめだ。普段とは違う雰囲気に思わず騙されそうになる。


 逆に水野は立花とは逆だ。白い浴衣全体にあしらわれている。白に黄色と明るい色合い。帯も黄色炒め、立花よりも目立っている。髪はサイドに編み込みがしてあり、シンプルではあるが髪にも大きなひまわりの髪飾りがつけられている。


 水野は恥ずかしいのか、立花から離れようとしない。逆に立花の近くにいると逆に視線を浴びる気がするのだが、本人は慣れない浴衣にそれどころではないのだろうか。すでに今すぐにでも帰りたいといった表情だな。


「た、立花さん。素敵な浴衣ですね」


「ありがとう。これ、葵が選んでくれたの。葵のは私が選んだんだけどね」


「そうなんですね。水野さんも似合ってるよ」


「ありがとう……」


 褒められ慣れていないのか、どこか照れ臭そうだ。空輝はこういうことをサラッと女子相手にも言えることは素直にすごいと思う。


 だが、2人の浴衣がここまで正反対な理由は分かった。立花のやつ、相当気合が入ってるんだろうな。軽くだが普段しない化粧までしている。これで本気じゃないって誰が信じるだろうか。


「とりあえず、ここから動くぞ。お前のせいで目立って仕方ねぇ」


 ほとんどの人……というか、男が立花に目を奪われている。彼女持ちの男まで目を奪われている。それはダメだろ。男の視線だけでなく、女の嫉妬の目線も混ざっているようだが、立花は慣れているのか、全く気にしていないようだ。


「私のせいじゃないわよ。でも、ずっとここにいるのも邪魔ね。移動しましょうか」


 俺たちは人混みを避けながら歩き始めた。空輝は立花の横を歩幅を合わせながら歩いている。水野は2人の邪魔をしないようにその後ろを歩いている。一応2人に対して配慮をしているようだ。


 水野はどこか足元がおぼつかない。少しフラフラしていて見ていてどこか危なっかしい。


「おい、水野。大丈夫か?」


「これくらい大丈夫よ」


「嘘つけ。フラフラしてんぞ」


「慣れてないからよ」


 どこか強がりな感じ。こいつは本当に、人を頼ることを知らないんだな。少しくらい頼ってくれたら可愛げもあるってもんなんだがな。


「まぁ無理はするなよ。それと、その浴衣も、結構良いと思うぞ。なんか、水野らしいっていうか」


 似合ってるとか、可愛いとか、素敵だとか、そういった言葉をクラスメイトの女子に言うのは何か違う気がする。それに、俺にはそう言ったセリフは似合わないというか、どこかむず痒いのだ。これが俺の、精一杯の褒め言葉だ。


「あ、ありがとう……」


 周りの喧騒にかき消されてしまいそうなほど小さな声だった。水野は足も止めず、俺のほうも見ず、ただ真っ直ぐ歩きながら答えた。


 水野が振り向かなくて良かったと思った。俺も耳が赤くなった水野と同様、顔が赤くなっているだろうから。ただのお礼なのに、どうしてここまで嬉しいのだろうか。

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