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自分らしくってなんだ 流星side

「東雲、一体どういうつもりなんだ?」


 ドリンクバーのところで、俺は東雲に問いただす。


「どうって、良い機会だろ。お前、水野さんのこと気になってるんだろ」


「別に、そういうわけじゃ……。というか、俺は向こうから避けられてるんだ」


 水野さんに迷惑をかけたくなくて、困らせたくなくて、俺からの接触は控えるようにした。最初は俺の他に優月のことを知っている人がいることが嬉しかった。優月の話をしたくて近付いたが、水野さんは優月のことを話したくないようだった。


「色々な噂があるからな。お前は文武両道でイケメン。水野さんは幽霊を従えてるとかなんとか」


 東雲はコップに氷を入れながら会話を続けた。


「でも、お前見てたら、本気なんだなって分かるよ。いつもは女子に囲まれても平然としているお前が、あんなにぎこちないのは初めて見るもんな」


 東雲は小さく笑う。別にからかっているわけでもなく、呆れているわけでもない。


 東雲とは仲が良いほうだ。高校で出会ったが、ペアを組んで話すうちにだんだんとお互い打ち解けたのだ。他にも友達はいるが、東雲はその中でも気が合うほうだった。


 しかし、東雲には水野さんのことを一切話していない。話したところで、何かが変わるわけでもないだろうと感じていたから。というより、これ以上水野さんに迷惑もかけたくないというのが本音だ。


 東雲は別に悪い奴ではない。優しくて真面目で、色々な意味で強い奴だ。好奇心旺盛なところはある。気になることはとことん調べる。だからこそ、だからこそ言えなかったんだ。相談できなかったんだ。


「なぁ、風間」


 水が入ったコップから、俺に視線が移る。真っ直ぐで真剣で、どこか心配しているような目だった。


「もっと自分らしく生きろよ」


 たった一言。東雲の言葉は、それだけだったが俺の心を抉るには十分だった。ただ、どうしてここまで心に突き刺さったのか分からない。


「俺さ、お前みたいに何でもできるわけじゃねぇけど、人を見る目は誰にも負けねぇって自信あるんだ。お前最初見たとき、良い奴ってのはすぐ分かったよ。話してそれは確信に変わった。でも、お前は誰に対してもどこか壁があるんだよ。誰に対しても笑顔で、誰に対しても平等なお前が、あの水野さんの前ではどこか違った。焦ってるというか、何かを知りたい。話したい。それから・・・・・・いや、これ以上言うのはやめだ。お前の過去が関係しているのかもしれないが、お前の過去を詮索する気はないから安心しろ。さてと」


 東雲は俺にコップを1つ手渡すと、俺の肩に手を置いた。


「俺にも心開けよ。お前が超えようとしている奴には敵わないかもしれないがな」


 そう言うと東雲は先に席に戻って行った。


 東雲には一切、俺のことは話していない。特に過去のこと。優月のことは高校の友達は知らない。


「無意識に、演じていたのか。それとも、超えようと必死すぎたのか」


 優月は俺のライバルだ。あいつにだけは、何も敵わなかった。勉強だって、スポーツだって、何もかも。顔もスタイルも良く、周りには女子が絶えなかった。


 そして、あいつは誰に対しても笑顔で優しかった。そんな優月に、俺は対抗心を燃やしつつも、憧れている部分もあった。いつかあいつのようになりたい。あいつを超えてみたい。そればかり考えていたな。


「なら俺のやり方でやるか」


 俺はそのまま東雲の後を追うようについて行った。


 そういえば、忘れていたな。東雲は”良い目”を持っていることを。前に自慢して話していたが、半信半疑だった。まぁほぼ初対面のときに言われたら疑うしかないけれど。


 でも、今なら分かるな。あいつの”目”は、正真正銘の”良い目”だ。

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