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突然の乱入者

「あ、そうだ。ねぇ2人とも、この後予定あるの?」


 葉月の言葉で、山辺君たちは振り返った。


「いや、俺は何もない。空輝は?」


「俺もないけど」


「じゃあさ、みんなでご飯食べに行こうよ。お疲れ会ってことで。優勝は逃したけど、まぁ2人とも頑張ってたしね」


「俺はいいが、空輝は?」


「お、俺は立花さんと行けるならどこでも!」


 試合終わりだというのに、鳥谷君に関してはとても元気な返事を返した。本当に葉月のことが好きなんだろうな。純粋なところもいいけれど。


「よし。じゃあ決まりね」


「ちょっと、私は……」


「じゃあ行こう!」


 2人の予定は聞いたくせに、私の意見は聞く気はないようだ。まぁ私に拒否権などないだろう。拒否することもなく、葉月に身を任せることにした。


 私たちが来たのはファミレス。夏休みの夕食時ということもあり、家族連れが多かった。中には私たちのように先ほどまで試合をして、そのまま来た生徒もいる。みんな揃ってジャージを着て、足元にはスポーツバッグにラケット。いかにもって感じだ。


 しばらく待っていると、店員に奥の6人掛けのテーブルに案内された。こうして4人で来るのはテスト勉強以来かな。


「よーし。何食べようかな。葵は何にする?」


 葉月は目をキラキラさせながらメニューを見ている。本当に葉月は食べることが好きだな。向かいの2人も何にするか一緒にメニューを見て決めている。今回は2人はもちろん、葉月も仕事を頑張っていたからお腹もペコペコなのだろう。


「よし決まった。お前らは?」


「私は大丈夫。葵は?」


「私も決まった」


「じゃあ注文しようか……」


「あれ? もしかして、水野さん?」


 葉月が店員を呼ぼうとベルを押そうとしたときだった。聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。振り返るとそこには東雲先輩と風間先輩がなぜかいた。


「どうしてここにいるんですか?」


 一応名前を呼ばれたので、私が東雲先輩に聞いた。


「こいつと飯に来たんだ。水野さんたちも?」


「そうですけど」


「あ、なら俺たちも混ぜてもらっていい? 男2人だと盛り上がらないからな」


 急な提案に、私たちはもちろん、風間先輩も驚きを隠せていないようだ。


「おい、東雲。後輩たちを困らすな」


 驚きでどう返事をしていいのか考えていると、助け舟を出してくれたのは風間先輩だった。


「えー。楽しそうだし、俺も後輩たちと仲良くなりたいしな」


 そう言いながら東雲先輩はみんな、ではなく私をチラッと見た。何かを企んでいるような目。どこか真剣な目。東雲先輩は私に何かを伝えたいのか。それとも、風間先輩から私のことを何か聞いているのか。


 正直、ずっと風間先輩のことは避けてきたが、いつまでも避けてばかりはいられないのも事実だ。いつかは向き合わないといけないし、それに私は、風間先輩のこと何も知らない。知る機会なのかもしれない。


 葉月はもちろん、2人も私を心配そうに見ていた。葉月は全て知っている。でも、2人は事情は知らないが、私が風間先輩を避けていることは知っている。承諾するのも、断るのも私に託されているようだ。


「いいですよ。こんな機会ないですし、お2人のお話も聞かせてください。みんなもいいかな?」


 3人は断ると思っていたのだろう。だからみんな驚いた顔をしている。


「私は構わないわ。葵がいいなら」


 それでも、付き合いが長い葉月は私の意図を汲み取ったのか、それとも私の意思を尊重してくれたのか、特に何も言わずに賛成してくれた。


「2人はどうかな?」


「俺は構わない」


「俺も、水野さんと立花さんさえよければ……」


 2人も動揺を隠せていないが、同意をしてくれた。まぁこの状況で断ることは逆に難しいだろうな。


「ということで、大丈夫ですよ」


「やった」


「とりあえず、2人とも座ってください」


 男女2人ずつに分かれて座っていたから、風間先輩が私の隣に、東雲先輩が山辺君の隣に座った。隣に座った風間先輩は、気まずいのか動きも表情もぎこちない。いつも女子の囲まれても平然としているのにな。やはり、ずっと避けられてた相手と急に相席して食事となると緊張するものだろうな。


 それに比べて私は案外普通だ。2人じゃないからか。それとも、葉月が少しだけ怖い顔をして見張っているからか。まぁみんながいるから安心できるんだろうな。


「みんな注文はしたの?」


「いや、まだですよ。注文は決まったので、店員を呼ぼうとしたときに東雲先輩が声をかけたんですよ」


 東雲先輩の言葉に、山辺君が答えてくれた。ずっと私1人が対応するのはしんどいから助かった。


「そうか。なら俺たちもさっさと決めるか」


「そ、そうだな」


 やはり、風間先輩はどこか緊張している。いつもはもっと堂々としているのに、こういう姿を見せられると逆に戸惑ってしまう。まぁレアな瞬間だと思えばいいか。


「決まったか?」


「あ、あぁ」


「じゃあ店員呼ぶか」


 東雲先輩は店員が来る前に全員の注文を聞き、それを全て伝えてくれた。手際が良いというか、慣れている感じがする。こういう場面では仕切ることが多いのか、それとももともとリードするのが好きなタイプか。知らないことが多いから知る必要があるだろう。


「さてと。俺と風間、ちょっと水取ってくるな」


 ここは水もセルフサービス。途中から来た2人の前には水がないのだ。


「行くぞ、風間」


「あ、あぁ」


 どこか風間先輩はほっとした表情を浮かべている気がする。まぁ急にこんな展開になったら戸惑うだろう。落ち着く時間がいるのも分かる。


 私は2人が水を取りに行く姿を見送った。

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