昂る気持ち 流星side
「やっぱり最後まで残るわな」
コートに入った東雲は、対戦相手を見てそんなことをつぶやく。
「そりゃそうだろ。ヘマはするなよ?」
「それは俺のセリフ……と言いたいところだが、そんな心配ねぇか。今日の試合で一番良い顔してるし」
そう言う東雲もなのだが、俺はあえて口にしなかった。気分が乗っている人に余計な一言は言わないものだ。
「まぁそれだけじゃないか、お前は」
「なんだよ」
ニヤニヤしながら、東雲は観客席の方を見る。つられて目をやると、そこには水野さんの姿があった。多くの観客が集まっている中でも見つけられるのは服装だけではないのかもしれない。
「よかったな。応援に来てくれてるぞ、気になってる人が」
「俺は別にそんなんじゃねぇよ」
「照れるなって。あーあ。お前はモテていいよなー。俺にも来いモテ期ー」
「はぁ……。バカ言ってないで集中しろ」
「へいへい」
こんな感じだが、東雲も勉強もテニスもできるほうだ。なのにどうしてモテないのかが不思議だ。まぁこんな性格が女子に不人気なのかもしれない。
俺はストレッチをしながら相手のペアを見る。俺たちと同じ3年生のようだが、本当に同い年かというほど体格がよく、筋肉もしっかりしている。服から覗く腕と足が今までの努力を物語っている。
「そろそろだな」
俺たちは所定の位置につき、審判の合図を待つ。サーブは俺たちからだ。コンディションは最高だ。お互いの動きなんて、言葉がなくても伝わる。
――パコンッ!
ずっと良い音がテニスコートに響いている。コンディションが良いといえど、それは相手も同じようだ。連携も俺たち同様、言葉なくとも取れている。お互い信頼している証拠だな。
「ゲームカウントワンオール!」
試合はお互い1セット取った状態。相手もなかなかに手強い相手である。次はこちらがレシーブだ。
相手が構える。そして、俺は目を逸らさず、ボールが来るのを待つ。
――バコンッ!
強く、重い音が響く。
「くっ……」
思わず、声が出るほど威力のあるボール。何とか打ち返し、そのままラリーに持ち込む。東雲も頑張って反撃しているが、相手は取りにくいボールでも食らいついている。根性はすごい。
でも、楽しいのだ。テニスをやることもそうだが、こうやって強い相手に出会い、試合ができることも嬉しいのだ。ドキドキするし、わくわくする。自然と体が動いてしまう。
ずっと試合をしてきて、俺たちも相手も疲弊している。それでも、この試合はお互い譲れない。こう見えて俺も東雲も、負けず嫌いなところがあるのだ。
気が付けばファイナルゲームに持ち込まれ、こちらが1点取れば勝ちという状況だ。なかなかに良い試合を続けてきた。観客も長い試合で疲れたのか、少し減っているように見える。俺からしたら観客がいてもいなくても関係ない。俺の目には東雲と、相手しか見えていない。
久しぶりに胸が高鳴る試合をした。相手は確かに強い。でも、やっぱりあいつほどじゃないな。テニスだけでなく、あいつには何もかも敵わなかった。勝ち逃げしやがって。
「ふー……。優月、良い報告しに行くからな」
俺は息を深く吐き、ボールを高く上げた。これで終わらせてやる。俺が負けるのは、ただ1人だけなのだから。




