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決勝戦

「あーあ。決勝戦まで残ると思ってたのになー」


「うるせぇよ」


 葉月と山辺君はさっきからこんな感じだ。準決勝まで残ったのだが、最後の最後で負けてしまった。まぁ相手も相当強かったし、やはり力の差は生じてしまう。


「まぁあの2人が決勝まで残ってくれたからいいけれど」


 葉月の言葉で、私もコートを見る。選手たちはすでにコートに入っており、準備運動を始めていた。そこには風間先輩と東雲先輩の2人の姿があった。そう。決勝に残ったのはこの2人なのだ。


「相手も同じ3年生か。確か強豪校だったよね」


「朝日山高校だ。文武両道でソフトテニスでも何度も優勝経験のある。これはあの2人も少しは苦戦しそうだな」


 山辺君は自分がするわけでもないが、どこか楽しそうだ。自分がしなくても強い者同士が闘う姿を見るのはわくわくするのかもしれない。


「それは楽しみね。あ、試合が始まる」


 そんな会話をしていると、それぞれが所定の位置についていた。どうやらサーブは風間先輩からのようだ。


――パコンッ!


 相変わらず綺麗な音がコートに響く。ここが最後の試合。私と相手の高校の選手だけでなく、他の高校もここの試合を見ていた。


 多くの人の目。負けるかもしれないという不安。多くのプレッシャーの中でもどちらも1歩も譲らない。点を取っては取られの繰り返し。でも、みんなの動きに、ボールがラケットに当たる音に、観客全員見入っている。


 ラリーは続き、前衛が取れないボールを打ちつつ、後衛が取りにくい場所をお互いが狙っている。そして、隙をついてお互いの前衛がボレーやスマッシュを決めている。本当に高校生なのかと思ってしまうほど迫力のある試合だ。


「楽しそうだな」


 無意識に口から出た言葉。ハッとして辺りを見渡したが、誰も私の言葉は聞こえていなかったようだ。葉月は写真を撮るのに夢中だし、山辺君も鳥谷君も白熱した試合から目が離せない様子。


 その気持ちは分かる。だって、本当に楽しそうなのだ。今日何度か先輩たちの試合は見た。でも、試合をしていても、勝ってもどこか物足りなさげだった。それなりに試合は盛り上がっていたが、熱を感じられなかった。


 ただ、この試合は違う。


――パコンッ!


「ナイス!」


「よっしゃ!」


 風間先輩の打ったボールが、相手の前衛も後衛も取れない場所に入った。ラインギリギリで審判も判断するのが大変そうだが、2人の喜びよう、そして審判が何も言わないところを見ると点を取ったようだ。

 これでお互い1セットずつ取った。決勝は7ゲームで4セット先取で勝利となる。お互い実力は互角。決着まで相当時間がかかりそうだ。


 2セット目だというのにあの楽し気な様子。この試合が一番楽しそうにしている。いつもクールな先輩もどこか無邪気で心から楽しんでいる。自分と同じ、もしくはそれ以上の実力の持ち主とやり合うのが先輩は性に合っているのかもしれない。


 私もあんなことがある前はしていた。とても楽しく、葉月ともペアを組んでやっていた。楽しかった。勝てたら嬉しかった。あの頃は本当に楽しかった。でも、今はラケットすらも握れない。

 ソフトテニスが嫌いというわけではない。でも、好きかと言われたら断言できない。その前に私がラケットを握ってソフトテニスをする資格なんてないか。


 会場はどちらが点を取っても盛り上がる。夏特有の暑さ。そして観客の熱気。汗も掻いて服が肌に張り付いて気持ちが悪いのに、この試合は目が離せなかった。

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