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物足りない 流星side

「ファイブゲームマッチプレイボール!」


 審判の声がテニスコートに響く。俺はボールを弾ませて状態を確認し、ラケットを構えて思い切りボールを打った。最初のサーブは好調。入ると確信した俺はすぐにラケットを構える。


 打ち返されたボールを追って右に左にと動き、丁寧に打ち返すがどれも本気だ。ボールをコートに入れるのは当たり前。どうやって前衛の隙を狙うおうか、後衛が取れないところはどこか、俺の味方の前衛はどうやって動くのか。ただボールを打つだけではなく、瞬時の判断が常に求められている。


「アウト!」


 何度かラリーが続いたが、相手がアウトになったため、俺たちに点が入る。相手は俺たちと同じ3年のようだが、苦戦するほどではないが、どんな相手だろうと油断は禁物だ。特に自分たちがリードしているときはなおさら。


 俺はボールを受け取り、サーブをする位置についた。しっかりと狙いを定めて思い切り打つ。どんな試合でも練習でも、絶対に手を抜かないのが俺のこだわりだ。

 味方の動きを見ながら俺も打つ場所や高さを変えていく。ソフトテニスは好きだ。でも、やはりどこか満たされない。


――パコンッ!


 味方の綺麗なスマッシュが決まった。力強く、相手もその威力に驚くほどの。彼は東雲。今の俺の良き相棒だ。クラスも違い、接点もほとんどなかったが、東雲とペアを組むようになって話すようにもなった。話も合い、何よりペアとしての相性もよかった。学校の中では結構仲のいい友人の1人だと思っている。


「ナイスだ、東雲」


「サンキュ」


 東雲と軽くハイタッチをしてから、それぞれ持ち場についた。まだまだ試合は始まったばかり。一瞬たりとも気は抜けないのだ。


 東雲とは話も合い、ペアとしての相性も申し分ない。だが、やはりそれでも、物足りなく感じてしまうのだ。やはり、俺の相棒は、親友は、優月しかいない。優月以上の人など、この世にはいないのだ。優月に鍛えられ、競い合い、そして協力して勝ち抜いたあの日々。短い期間でもしっかりと俺の中に刻み込まれている。


 あの時ほどの情熱はないが、それでもソフトテニスは好きだ。こうして勝敗を争うことも。勝ったときの喜びも。


「ゲームオーバーゲームセット!」


 試合はやはりすぐに勝って終わってしまった。俺たちの圧勝。何点かは俺たちのミスで相手に取られてしまったが、最終的なゲームカウントは3対0。1セットも取られていないからまぁまぁだろう。


「お疲れ、風間」


「お前もな」


「しばらく休憩するか」


 俺たちはコートから出る。ふと観客席に目をやったときだった。


「あ……」


「どした?」


「いや、何でもない」


 思わず声が出てしまうほど驚いてしまった。だって、そこにはいるはずがない人が、見に来てほしくてたまらなかった人がいたから。


「俺、ちょっと行ってくるわ」


「ん? あ、風間!」


 俺は東雲の呼びかけに答えることなく、そのままその人のところに走って行った。

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