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初観戦

 夏休みに入ってすぐのことだ。私は葉月に半ば強引に試合に連れて来られた。場所はあの公園。普段から多くの人で賑わっているのだが、今日は試合ということもありさらに賑わいを見せている。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。


「こんなに賑わうんだ」


 普段から練習に勤しんでいる人で公園は賑わっているのだが、今日はいつも以上に熱気に溢れている。多くの学校の生徒、先生、保護者と集まっている。ここにいる生徒のほとんどは体操服やユニフォーム姿なので、私のような私服は逆に目立つ。


「あ、葵!」


 遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。そこにはいつもの制服に帽子を被り、首にカメラを掛けている葉月が手を振って近付いてきた。


「こんな暑い中、よくそんな元気が出るね」


「これでも暑さに参ってるほうよ。それにしても葵。もうちょっとオシャレしたらいいのに」


「これが楽だもの」


 私は白いTシャツにジーパン。そして日焼け対策のための黒いカーディガンを羽織っただけの状態。お世辞にもオシャレだとは言えない。普段から出かけないため、服も多くは持っていない。そして何より、服はオシャレよりも着やすくて動きやすいのが一番である。


「まぁいいわ。今に始まったことじゃないし。とりあえず、私と一緒に回ろう」


「他の人と一緒じゃなくていいの?」


 私はプライベートでここに来ているが、葉月はクラブ活動の一環で来ている。ここは一応部員の人とか先生とかと一緒に行動したほうがいいのではないだろうか。


「平気。基本単独行動でみんな動いてるから」


「緩いわね」


「そういうもんよ。とりあえず行くわよ。もうそろそろ私たちの学校の試合が始まるから」


 葉月に引っ張られて私は前に進む。すでにコートは全て埋まっており、選手たちがストレッチをしたり素振りをしたりして準備をしている。


「ここよ」


 連れて来られた場所は中央のコートだ。観客席からもよく見え、他のコートも見渡せる場所だ。一番目立つ場所で試合するなんて、私には考えられない。注目されると考えただけで気が滅入る。


「あ、そろそろ始まるわよ」


 コートの中央に選手と審判が集まる。確か今日は個人戦だったかな。


「1試合目からで大丈夫なのかしら」


「2人がペアなの?」


「そうよ。山辺君が後衛で、鳥谷君が前衛だよ。って、見れば分かるか」


 そう言って葉月はコートにカメラを向ける。しっかり写真部としても活動している。

 私も葉月と一緒にコートに目を向けた。山辺君は上下共黒のユニフォームを身に着けていた。対して鳥谷君は上下共に白。


 ……色違いのペアルックだろうか。


「兄弟みたいだね」


「色違いは本当にたまたまらしいよ。ネタでもなく示し合わせたわけでもないのに、ある意味奇跡だよね」


 葉月は楽しそうにそんなことを言っている。どこ情報なのかはあえて聞かないでおこう。


「へー。あ、始まる」


 私は試合に集中することにした。しばらくの間、ソフトテニスのことは触れていない。こうして試合を見るのも久しぶりだ。


 えっと、確か5ゲームだっただろうか。昔はよく1ゲームとか3ゲームとかやっていたな。


 ソフトテニスの試合は主に5ゲームが主流だ。先に3セット取ったほうが勝利となる。1セット4点である。3対3になった場合、デュースとなり、2点連続取らなければ勝ちとはならないため、下手をすれば長引く場合もある。


 また、ファイナルゲームに持ち込まれるとさらに長引く可能性もある。ファイナルゲームは、お互いが2セット取ったときに持ち込まれる。7点先取で勝敗が決まる。もちろん、これにもデュースに持ち込まれる可能性はある。


 1人頭の中でルールの整理をしていると、すでにコートではそれぞれが配置についている。まだ始まってはいないが、緊張がこっちまで伝わっている。


――パコンッ!


 山辺君のサーブから試合は始まった。力強いサーブ。音がしっかりと響いてきた。


「さすがね、山辺君。これは決勝まで行くんじゃないの?」


 隣で葉月はカメラを構え、しっかり写真をカメラに収めている。ちゃんと仕事もこなしているようだ。まぁ真面目な性格だから当たり前か。


 私は何も言わず、ただ試合を眺めていた。相手は私たちと同じ1年生のような感じがする。1年生特有の新鮮さがある。2人は小学生の頃からの幼馴染というだけあり、息ぴったりである。お互いの考えが何も言わなくても伝わるのだろう。


 この試合は特に苦戦するわけでもなく、ほとんど圧勝で終わった。相手の連携不足もあるだろう。春に初めて会い組んだペアに、幼馴染のペアには敵わないだろうな。


「まぁ1年生だから慣れていない部分があるのね」


「お互い1年生のはずなのに、まるで3年生を相手にしているようだったかもね」


「まぁあれが2人にとっては普通なのよ。葵、ついでに会いに行こう」


「え? あ、ちょっと」


 葉月は私の言葉なんて聞こえていないようで、私の手を引っ張って走った。

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