記念写真
この度は投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。事前に知らせもしなかったことを深くお詫びします。遅れる場合は事前に報告ができるよう心がけます。
では、本作をお楽しみください。
ようやく文化祭2日目も乗り切ることができた。終わった瞬間、みんなその場に座り込んだ。それほど忙しかったから仕方ないか。
「さすがの私も疲れたわ」
「俺も……」
鳥谷君はあれからずっと私たちのクラスを手伝ってくれていた。クラスは違うのだが、テキパキと動いてくれたためとても助かった。それに妙にクラスに馴染んでいて誰も何も言わなかった。
「お疲れさま」
私はそんな2人に声をかける。葉月にいたってはもっと大変だったろうけど。
「それにしてもこれはどうするかな」
私の手元には袋に入った4つのクッキーがある。多くの注文が入るだろうと予想し、予定よりも多めに作っていたのだが余ってしまったのだ。
「あ、そうだ。ねぇ葉月、鳥谷君」
私は休んでいる2人に声をかけた。そして、クッキーを2人の前に差し出した。
「私が焼いたクッキーのあまりなんだけど、よかったらどうかな?」
「葵が作ったやつなら食べるよ」
葉月は嬉しそうに受け取ってくれた。どうしてか葉月は、私が作ったお菓子をすごく気に入ってくれている。疲れた顔をしていたが、クッキーを見た瞬間笑顔になった。
「俺がもらってもいいのか?」
「もちろん。私の代役で頑張ってくれたからね」
それになんだかんだ自分のクラスでもないのに最後まで頑張ってくれた。
「ありがとう」
「あ、そうだ。ねぇ最後にみんなで写真撮ろうよ。今回私抜けられなくて、写真部として撮れなかったし」
葉月はどこか残念そうな顔をする。そういえばすっかり忘れていたが、葉月は写真部兼新聞部だったな。そういえばカメラを持った人が何人かウロウロしていたが、もしかしてあの人たちは生徒会とかではなく写真部だったのだろう。
「撮るなら私は着替えに……」
「それはダメ。葵もその格好のままよ」
教室を出て行こうとする私の肩をしっかりと掴む。こんな華奢の体のどこにこんな力があるのかってほど。
「分かったわよ」
「よろしい。あ、鳥谷君、山辺君連れて来てくれる?」
「はい、喜んで!」
葉月が頼むと鳥谷君はすぐに走り出す。なんか、例えは悪いかもしれないが、飼い主にすごく従順な犬のようだ。
「連れて来ました!」
「ありがとう」
「なんだよ、空輝。急に腕を引っ張りやがって」
「立花さんが呼んでるんだ。来ないほうがおかしいだろ」
どうやら山辺君はどうして連れて来られたのかは知らされていないよう。鳥谷君、連れて来ることに必死だったのだろうか。
「みんなで写真撮ろうと思って」
いつの間にか自撮り棒を用意していた葉月。こんな物を用意してたなんて、最初から撮る気だったのだろう。
「ほら。2人も入って」
私は葉月に腕を引っ張られ隣に立たされた。そして男子2人も私たちの後ろに立った。
「じゃあ撮るよー」
葉月はその状態で写真を撮った。内カメラなのでみんなの顔も、自分の無表情な顔もしっかりと映っている。葉月は笑い、山辺君はダルそうにし、鳥谷君は緊張のせいかガチガチに固まっている。そして、私の顔は相変わらず無表情だ。
「ちょっとー。葵はともかく、男子2人は笑いなさいよね」
「いや、写真苦手だし。空輝はお前がいるから緊張しててこうなってんだよ」
「だらしがないわね。まぁいいや。もう1回撮ろう」
葉月はまた写真を撮る。今度はさっきよりは笑顔にはなっているが、やはり自然体ではないから難しいかもしれない。
「本当にダメね。まぁいいわ。とりあえず送るから」
「あ、なら俺たちのグループ作るか。それなら1回送るだけでいいしな」
「そうね」
葉月は山辺君と会話をし、勝手に進めている。すぐに私にも招待がきて、私は参加することになった。
「じゃあ送っておくね」
さっき撮った2枚の写真が送られた。どっちも私の顔は変わらない。みんなの顔だけが多少違うくらいだった。
「まぁまぁね」
「別に良い写真だと思うけどな」
「お、俺は立花さんと写真撮れただけで、もう幸せです……」
3人はそれぞれで盛り上がっている。そんな3人を見て私は写真を撮る。
「あ、葵」
「そっちのが自然体じゃない」
やっぱり写真は構えて撮るよりも自然体が一番向いている。私は今撮った写真も送る。本当にこっちがいいと思う。
――カシャ
「え?」
ふと音がしたほうを見ると山辺君が私にカメラを向けていた。
「お前も自然体のほうがいいぞ」
すぐに私だけにその写真が送られた。その顔を見て私は自分でも驚いた。
山辺君が撮った写真は、3人の自然体の写真を眺めている私の姿だった。みんなで撮った写真では無表情で感情なんて読み取れないのに、山辺君が撮った写真は微かだが口角が上がっていた。目も少し笑っているように見えた。
「それが本来のお前だ。何も隠そうとしていない、本当のな」
「ちょっとブレてるし、それがそう見せたのかもしれないじゃない」
「素直じゃねぇな」
「自分では素直だと思っているけど。あ、そうだ」
私はクッキーを山辺君に差し出した。
「これは?」
「売れ残り。私が作ったクッキーだけどいらない?」
「お前のクッキーは美味いからもらう。ありがとな」
山辺君は素直に受け取ってくれた。まぁ前にも食べたことあるから味の保証はしなくても大丈夫だろう。
「もう1つあるけど、それはお前のなのか?」
山辺君は私が手にしているクッキーの袋を見た。
「売れ残りが4つだったの。でも、私はもうクッキーはいいんだよね。ずっと焼いててしばらくは見たくもない」
特にこの2日間はずっとクッキーを焼いていた気がする。文化祭の前にも作って準備をしていたのだが、それでも足りなくなったので急遽追加で作ることになったのだ。正直クッキーだけでなく、甘い物もしばらく見たくない。
「自分が食べるわけでもなく、渡す相手もいないんだよな?」
「まぁそうだけど」
「なら、風間先輩に渡したらどうだ?」
「え?」
先輩に売れ残りのクッキーを?
先輩に渡すという発想はなかった。というか、売れ残りでもいいのかさえも微妙だし、というか女子の視線が怖いことになりそうだな。
「水野が作ったクッキーだし喜ぶと思うぞ」
「売れ残りなのに?」
「そうだ」
そんなに甘い物が好きなのかなと思いつつもまぁいいかと自分を納得させる。でも、いつ渡すかだよな……。
「帰りにでも渡したらー?」
話を聞いていたのか葉月がそんなことを言ってきた。
「帰りって言ったって、タイミングが合うかなんて分からないじゃない」
今日はクラブもないし、先輩は3年生。もしかしたらこの後クラスの人と打ち上げに行くかもしれない。それに私自身、それなりに有名な存在だ。悪い意味で。それに女子からは目の敵にされてるし、先輩の教室なんて行きたくもない。目立ちまくるのは目に見えている。
それにあんなことがあった後だ。私たち関係者が話さない限り噂は広まることはないが、それでもあんなことに巻き込まれるのはごめんだ。まぁ葉月に報告した後のほうが大変だったけれど。
「まぁちゃんとお礼もしないとな……」
こんなことになるなら連絡先を交換しておけばよかったと後悔した。こういうとき連絡が取れないのは困る。
「まぁまだ学校はあるし、いつでもいいんじゃない。とりあえず、私たちも着替えて手伝おう」
「あ、じゃあ俺も自分のクラスに戻る」
「ありがとう、鳥谷君」
「い、いえ! じゃあ!」
鳥谷君は風のように教室を飛び出して行った。あんなに初々しいとからかいたくなってしまう。
「私たちも行こうか」
「そうね」
私たちは鳥谷君の後を追うように教室を出た。




