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文化祭2日目

「はい。じゃあ今日もみんなお願いね」


 この声で私たちの仕事が始まる。しかし昨日は本当に忙しかった。今日も昨日と同じになるかと思うと本当に嫌になってくる。ここにいる時間が長すぎて甘い匂いがダメになりつつあった。


 今日もまた忙しい文化祭がスタートした。しかし、この日はまたとても賑やかなスタートをすることになった。


「キャー!」


「え、嘘でしょ!」


「今日も素敵!」


 せっせと私がクッキーを焼いていると廊下からは女子の歓声が響いた。この教室は一応簡易的な厨房なので外から見えないようにカーテンがしてある。お店のイメージを壊さないためという配慮からだ。


 女子たちの悲鳴とも言える歓声で、カーテンで廊下の様子が見えなくても一体何が起きているか分かる。この学校で女子の歓声が上がるのはただ1人しかいない。その人のためだけの歓声と言っても過言ではないかもしれない。


 そんなことを考えていると、私たちがいる教室のドアが開いて山辺君や他の接客をしていた男子たちが入って来た。山辺君は私を見つけるとそのまま歩み寄って来た。


「相変わらずだな、あの先輩は」


「そうでしょうね」


 私はオーブンを見ながら山辺君に答える。どうしてここに注文も入っていないのに来たのかは理由を聞かなくても分かる。男子しかいないのはみんな同じ理由だろう。だが、ここは避難場所ではない。


「ただ通りかかった先輩が、うちのクラスの女子に強引に店に引っ張り込まれた。今接客している女子全員が先輩に接客されてる。まぁ立花を除いてだけど。そういえばなんか辺りキョロキョロ見回してたけど、お前のこと探してるっぽかったぞ」


「それ、先輩が言ったの?」


 私はクッキーの焼き加減を見ながら山辺君に聞く。こちらは正直忙しく、しっかりと相手をすることができない。山辺君もそれを分かっているようでそのまま会話を続けた。


「いや。ただそう思っただけだ」


「そう」


「それと、今日はこれからもっと忙しくなるぞ」


「なんでそう言えるの?」


「なんでって、お前これ見てないのか?」


「ちょっと待って」


 私は何かを見せようとしてきたが、ちょうどクッキーが焼けたので一旦待ってもらうことにした。手にミトンをはめてオーブンからクッキーを取り出す。あとはこのまま冷ましてお皿に移し替えれば完璧だ。


「それでこれって何?」


「これだよ」


 見せてきたのは私たちの学校のホームページだった。文化祭の様子を映した写真がアップされていた。


「これのどこが?」


「これ、ホームページだけじゃなくて他のサイトにもアップされてるんだ。もちろん俺たちのカフェも紹介されているんだが、そこにほら」


「あ」


 料理の写真、お店全体の写真、そして宣伝用のポスターまであった。山辺君と葉月が映っているあのポスターである。


「この学校、有名だから色々発信してるんだよな。オープンスクール用とかにな」


「でも、これは毎年のことでしょ」


「それだけじゃないんだよな。立花はまぁ目立つだろ? こんなものも出回ってる……」


 山辺君が見せてくれたのは多くの人が匿名で好きなことを発信できるサイト。そこに碧海高校、文化祭と検索するだけでこの学校の文化祭に参加した人がアップした写真がたくさん出てきた。


「え……」


 何より驚いたのは写真の多くはこのカフェ。そして葉月の写真が。さすがにプライバシーの関係で顔は分からないようにはしてあるが、スタイルからして完全に葉月だ。そして一緒に投稿されたコメントにはものすごく可愛い子がメイドしていた。めちゃくちゃ美人。まるでモデル。みたいなことがものすごくつぶやかれていた。


「まぁこうなるのは分からなくもないけどね」


 葉月はスタイルも顔も完璧で、おまけに性格も良い。まぁ素の葉月は少し荒っぽいところもあるけれど。でも、葉月はよく笑う。それに優しくて気が利いて、何より思いやりのある何から何まで完璧だ。親友である私が言うのだから間違いない。


「この学校は有名だし、このサイトも有名だろ? この投稿のコメントにも顔を拝みたいって人続出でさ。多分しんどいぞ」


「地獄……。まぁマナーさえ守ってくれれば何も言わないよ」


 ほとんどのお客さんはしっかりマナーを守ってくれている。たまに変な人はいるけれど、そういう人はすぐに男子たちが対応してくれるし、周りのお客さんも手伝ってくれる。だから大丈夫だろう。


「何か言うなら私たちが忙しさで目が回るってことかな。材料も追加分今日届くけれど、足りるのかしら」


 昨日大繁盛したため、急遽追加で材料を注文することにしたのだ。追加しても足りなくなりそうで心配だ。そして私たちの体力も持たないだろう。


「一応人数制限とかはするって言ってたけど、あまり意味ないだろうな。俺たち接客も手が空いたら手伝うから」


「ありがとう」


「クッキーお願いします! あとアイスコーヒーも!」


 そんな会話をしている間にも注文は入る。私は急いで作ったクッキーをお皿に入れ、アイスコーヒーを準備する。


「俺が持ってく」


「お願い」


 また今日も忙しくなるのかと思うと気が滅入るが、やるしかないのだ。こんなことなら接客のほうがよかったかななんて思ってしまった。

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