みんなで文化祭
「一旦休憩に入ります!」
その声で接客側も裏方側もようやく動きが止まった。
「疲れた……」
「葵、お疲れさま」
振り向くと全然疲れてなさそうな葉月がいた。どれだけ体力あるのよ……。
「疲れてないの?」
「あれに比べれば楽勝よ」
葉月は思い出してやれやれって感じだ。
葉月は昔からこの顔立ちのため、町を歩けばモデルにならないかとスカウトされた。小学生から中学生はそれがしょっちゅうだった。中学生の頃もまた声をかけられたのだが、どうやらモデルの子が急遽来られなくなって代役を頼まれた。葉月は必死に頼まれ断るに断れず、1度だけならとついて行ったのだが、それはもう休みなく多くの服を着ては脱いで、脱いでは着ての繰り返しだった。ヘアスタイルを変え、メイクもしてと大忙しだ。私はその様子を見ていた。慣れない仕事と環境に葉月は相当疲れていた。
ちなみにそれは雑誌の撮影だったようで、後日葉月が雑誌に載っていた。葉月は可愛いため大反響だったようで、その雑誌の人からこれからも出てくれと言われたようだが、葉月はあんなしんどいなら嫌だと断った。ちなみにそのときの雑誌は記念に買った。
「確かに」
「とりあえず休憩行こう」
「そうだね」
「お、お前らか」
今度は別の声が聞こえてきた。振り返ると山辺君と鳥谷君が立っていた。鳥谷君は白いTシャツに可愛らしいクマがプリントされていた。小さい子が喜びそうな服だった。
「お前らも回るのか?」
「そうよ。これから葉月と一緒に休憩がてら回ろうかと」
「そうか。なら俺たちもいいか? 男だけっていうのもなんかなーって」
「2人がいいなら別に構わないわよ。目立ってもいいなら」
私と葉月はお互いこの学校では有名な存在だ。私よりも葉月かもしれないけれど。
「別にいいだろ。こんだけ人いるし、空輝も別にいいだろ」
「お、俺は全然構わない。立花さんがいいなら……」
「ありがとう」
葉月がニコッと微笑むと一気に顔を赤くする。純粋だよな。
「こんな純粋な人が山辺君と一緒にいていいのかしら」
「おい、水野。それはどういう意味だ?」
「汚れないかしらって意味」
「うっせーよ。とりあえずさっさと行こうぜ」
私たちは一緒に回ることになった。相変わらず鳥谷君は葉月と話している。良いところを見せたいのかすごい葉月にお金を使っている。ちなみに、今食べているフライドポテトは山辺君のおごりだ。
「なんか悪いわね」
「これくらいどうってことないよ。ってか、本当にお前は笑わねぇな」
「そこには触れない」
私は1本口に入れる。塩がすごいかかっているせいか、とてもしょっぱかった。
「そういえばお前、手に何書いてるんだ?」
「これ?」
私は左手を見る。そこには13時から体育館と書いてある。
「明日、先輩が劇をやるみたいなの。見に来てくれって言われたから忘れないように」
「真面目だな。でも、お前が先輩の劇見に行くなんて意外だな。あんなに避けてるのに」
「面白い姿が見られるかもしれないから。山辺君も来る?」
「俺はいい。というかシフトの時間だからどのみち無理だ」
「そう」
まぁ1人でもいいか。葉月には事前に話してはあるのだが、葉月もシフトなのだ。葉月も先輩の王子様の姿を見たがっていたので、何としてでも写真を撮らなければならない。
「まぁ気を付けて行けよ」
「ありがと」
「なぁハル、ちょっと俺のクラス寄ってもいいか?」
「それは構わないぞ」
「よかった。じゃあ立花さん、行きましょう」
鳥谷君はとても楽しそうに葉月をリードしている。まるで彼氏のようだ。
私たちのそんな鳥谷君の後をついて行くと、とても楽しそうな声が教室から聞こえてきた。どうやら教室ではたくさんの子供が遊んでいるようだった。ヨーヨー釣りにボールすくい、輪投げと子供が喜びそうな物がたくさんあった。
「すごいね。子供がたくさん」
「立花さんは子供好き?」
「もちろん」
葉月は微笑ましそうに子供たちを眺めていた。葉月は昔から子供が大好きで懐かれていた。そういえば葉月、保育士になるのが夢だったな。これだけ子供好きなのだからすぐに人気者になるだろうな。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん遊ぼ!」
小さな女の子が鳥谷君と葉月に話しかけた。
「お、遊ぶか」
2人は嫌がる素振りを見せず、その男の子と一緒に遊びに行った。ここにはスポンジで出来た大きなツミキもあるので、それを積み上げて遊びだした。
「鳥谷君、子供好きなのね」
「昔からあの性格だからな。立花も楽しそうだな」
「葉月はずっと保育士目指しているから。それに面倒見が良くて小さい子に懐かれる性格なのよ」
「そうか。だからあんなに扱いに慣れているのか」
楽しそうにしている2人を見るので、私もつられて2人を見た。その様子はまるで母親と父親が子供と遊んでいるような感じがした。もしも葉月が結婚したら、こんな温かな家庭を築くのかな。なんて思った。
「そうだ。水野、ちょっと抜けないか?」
「え?」
「せっかくの文化祭だ。2人で楽しんでもらいたいし。それとも俺と回るの嫌か?」
「いや、別にそんなことは……」
「なら行こうぜ」
「あ、ちょ……」
私が返事をする前に、私は山辺君に手を引かれて教室を後にした。
「あの2人には俺から連絡しとくから安心しろ」
私が心配していることを山辺君はすぐに察してくれる。こういうことには鋭いんだから。
私の手を掴む手はとても熱くて、自然と口元がほころびそうになるのを私は必死にこらえた。




