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アイディア

 勉強に追われる日々がどんどんと過ぎていく。そして、入学式の次に行われるイベントが迫ってきていた。それは文化祭である。今日は文化祭ではどんな出し物をするか話し合いをすることになっていた。


「えー、これから出し物について決めていきたいと思います。何か意見はありますか?」


「はーい。私お化け屋敷やりたい」


「俺は屋台やりたいな」


 クラス委員の司会で、次々にアイディアが出される。お化け屋敷に屋台、それに劇などたくさんの案が出された。私は何も意見することはなく、ただみんなの意見を窓の外を見ながら聞いていた。正直私は何でもいい。目立たなければそれでいい。


「おい、水野」


 窓の外を眺めてボーッとしていたら、急に後ろから声をかけられた。


「何?」


「お前はやりたいことないのか?」


「別にない。目立たなければそれでいい」


 私は振り返ることなく答えた。クラスは意見の出し合いで騒がしいので、私たちが話していても誰も気にとめない。


「高校初めての文化祭なのに冷めてるなー」


「逆に山辺君はどうなのよ」


「俺は何でもいい」


「自分だって同じじゃない」


 人に聞いておきながら自分はないのか。ため息が出そうになるがここは堪える。


「お、じゃあメイド&執事カフェとかよくね?」


 クラスの男子がそんなことを言った。


「えー、ベタすぎない?」


「おー、いいじゃん」


 クラスからはそんな声が聞こえてくる。男子はほとんどが賛成のようだ。何人かはチラチラと葉月を見ているから、下心丸見えである。


「でも楽しそうだしいいんじゃない?」


「そうね」


「はいはーい。じゃあみんなメイド&執事カフェでいいですか?」


「賛成ー」


「俺もー」


「じゃあ私たちのクラスはメイドカフェに決定します」


 司会の声で男子たちは小さくガッツポーズをしている。葉月、襲われないか心配だな……。


「なんか、すごいことやることになったな」


「文化祭不安だな。葉月には裏方やってもらいたいけど、どうせ阻止されるだろうな」


 男子はすでに葉月を見て何か言っているし。ここまで下心丸見えだとある意味すがすがしいかもしれない。


「お前もメイド服着るのか?」


「着たくない。裏方希望」


「言うと思った。俺もできれば裏方がいいな」


 そんな会話をしていると、出し物が決まったので今度はどんなメニューがいいか、衣装はどうするか、そんな会話が繰り広げられていた。

 黒板にはドリンク、メイン、デザートなど多くのメニューが書き出されていった。ジュースにコーヒー、パスタにオムライスにパフェまである。メニューのアイディアを出すのはいいが、こんなに誰が作るというのか。


「じゃあとりあえずこんなものかな。次は役割だけどどうする?」


「メイドと執事決めるの?」


「そうそう。とりあえず、3つのグループに分かれて、さらに半分にしようか。そこで接客と裏方決めたらちょうどいいんじゃないかな」


 基本的なことを思う前に次から次へと決まる。決まっていくのはいいが、どこか現実的ではないような気がする。まぁ後々調整することもできるか。


「なぁ水野、お前お菓子系は作れるのか?」


「一応」


「お前女子力高いよな」


「慣れただけ」


 昔はよくお菓子を作っていた。小さい頃は大人の手伝いがなければ作れなかった。作れても見た目は最悪だった気がする。お世辞にも美味しいとは言えないような見た目だったけれど、それでも美味しいって言ってくれた。


 私がよくお菓子を作っていたのはユウ君のためだった。ユウ君に美味しいお菓子をあげたくて、喜ぶ顔が見たくてあげていた。誕生日のときのケーキや、バレンタインのお菓子は毎年のように作っていた。今でも葉月には作っているが、頻度は前に比べれば多くはない。


「あとは笑えばもっといいのにな」


「余計なお世話」


 何気に私たちの会話は続いていた。もちろん、文化祭の出し物のほうも準備が進んでいる。それからそれぞれのグループに分かれた。最初は仲が良い人に分かれ、それからまた男女が半々となるように調整をする。もちろん、私のグループの中には葉月、そして、なぜか山辺君も。他にも何人かここにいるが、葉月がいるということで男子の競争率が高くなった。女子は大人しそうな子がいるのでそこは助かった。


 それからまたグループ内で分担が決まったのだが、葉月に至っては誰が何と言おうと接客担当になってしまった。私はもちろん裏方。愛想なんて振りまけないし、何より私がメイド服が似合うとも思っていないからだ。ちなみに山辺君も顔が良いからという理由で強制的に接客になってしまった。本人は嫌がっていたが、こればかりはどうにもならなかった。


 分担が決まったところで、どんなメニューにするか話を進めた。それで全体的な意見もまとまり、あとは衣装の手配、それから器具などは文化祭実行委員と担任の先生に任せることとなった。


「葉月、接客で大丈夫なの?」


「私は別にいいわよ。メイド服ってどんなのか気になるし、何より面白そうだし」


 もう少しメイド服に対して抵抗があるのかと思っていたが、そんなことはなくむしろ乗り気なようだった。葉月が嫌でなければ私はそれでよかった。


「なんで俺が接客なんだ?」


「決まったことなんだからそんな嫌そうな顔しないでよ」


 不満を口にする山辺君に対し、葉月が山辺君をとがめた。まぁ乗り気な葉月とは違い、山辺君は嫌々やることになったのだから、不満の1つや2つあってもおかしくはないだろう。


「はぁ……。水野が羨ましい」


「ちょっと、葵に愚痴をぶつけないでくれる?」


「ちょっとじゃねぇか。……ん? 空輝からメールきたな」


「鳥谷君、なんて?」


「空輝のことになるとお前興味津々だな」


「うるさいわね」


 葉月は少し怒っているようだが、顔が少し赤くなっている。これは照れ隠しみたいだ。恋してるって感じで、キラキラしててとてもまぶしく感じる。


「出し物何かだって。向こうは子供でも楽しめるような出し物をするんだと。何をするかは話し合い中みたいだけど」


 内容を教えながら指を動かして返信をしている。山辺君は葉月を見ていないから分からないだろうけど、どこかソワソワしている様子。当日せっかくなら一緒に回ったらいいのに。鳥谷君は大変かもしれないけれど。


 文化祭のアイディアを決めるための話し合いは、いつしかただの雑談になっていた。メニューも大方決まったみたいだし大丈夫だろう。

 これから忙しくなるだろうし、今の間にしっかり休憩もとっておかないと。

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